4月初めに発生した麻薬犯罪が、今、韓国社会を震撼させている。
今回は「韓国・麻薬飲料事件の闇」について、 FNNソウル支局の仲村健太郎記者が伝える。

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試飲会で「覚醒剤入り牛乳」

事件当日の4月3日夕方、ソウル市内で、車から降りた女性たちの姿がカメラに捉えられていた。

女性たちは両手に荷物を抱え、学習塾がひしめくエリアに入った。

同じ頃、すぐ近くの塾が集まる地域では、男性が大きな袋を手に別の場所へ移動していた。

このグループは男女4人組で、彼らが持ち歩いていたのは麻薬入りの飲料だった。

このグループは、集中力や記憶力の向上に役立つドリンクの「試飲会」と称し、牛乳に覚醒剤の一種を混ぜた飲料を高校生らに配った。 その後、飲んだ生徒らが嘔吐や目まいなどの異常を訴え、事件が発覚した。

覚醒剤は通常1回分とされる量の3倍以上(0.1グラム)が混入されていた可能性があり、 警察は「急性中毒のリスクがある量で、1週間にわたり症状が続いた被害者もいた」と明らかにした。

中国拠点の韓国人”特殊詐欺”グループか

覚醒剤を飲ませた犯行グループの狙いは、一体何だったのか。

実はこのグループは、飲料を渡す際に、アンケート調査を口実に保護者の連絡先を聞き出していた。

そして、生徒がドリンクを飲んだ後、保護者に対し「あなたの子どもが覚醒剤を服用したから、現金(約1000万円)を送らなければ警察に通報する」といった内容の脅迫電話を掛けていたのだ。つまり、金を脅し取ろうとした犯行だった。

さらに警察が捜査を進めたところ、脅迫電話は韓国からの発信に見せかけて、実際は中国からかけられていたことが判明した。 警察は「中国に拠点を置く韓国の特殊詐欺組織が、犯罪の成功率を高めるため、覚醒剤を使用した新手の犯罪を考案した」とみている。

受験生の「向精神薬」乱用も

一見怪しげなドリンクを生徒たちはなぜ飲んでしまったのか。そこには事件の複雑な背景がある。

ここで、注目のウラ情報。「集中力アップに向精神薬?受験生に広がる“公然の秘密”」。

今回、高校生らに配られたドリンクを改めて見ると、大きく「メガADHD」との表記がある。

実はここ数年、韓国では“集中力が向上する薬”として、ADHD=注意欠陥・多動性障害の治療に使用する向精神薬が乱用されてきたのだ。

服用には医師の処方箋が必要で、薬剤師らは「患者ではない人が服用した場合、深刻な精神疾患など副作用を起こす恐れがある」と警告してきた。しかし、患者を装って処方を受けたり、インターネットなどを通じて入手したりするケースが後を絶たない。

ADHD治療薬の処方は年間7万9000人あまりと、4年で2倍以上に増えている。

月別では日本の大学入学共通テストにあたる試験の前の9月から増え始め、試験終了後の11月後半になると処方が減少するという。

さらに、エリア別に見ると、特に教育熱が高いとされる江南3地域の処方が際立って多い状況だ。今回、覚醒剤入りのドリンクが配られた現場は、まさに江南エリアだった。受験生の間で「ADHDの治療薬=集中力アップの特効薬」という誤ったイメージが浸透していたことが、ドリンクへの垣根を低くしてしまったとみられている。

中学生逮捕、高校生の「売人」も

また、韓国では近年、若者への大麻や覚醒剤のまん延が深刻な問題とされてきた。 

3月6日には、14歳の女子中学生が、秘匿性の高い通信アプリを通じて購入した覚醒剤を、同じクラスの男子生徒2人と使用したとして検挙された。1月には高校生3人が覚醒剤の「売人」として逮捕された。 

通信アプリ上の価格表を調べたところ、覚醒剤1グラムが日本円で6万円程度で取引され、1回分はおよそ1800円から3000円だった。韓国の法相は「麻薬の単価が極端に言えば、ピザ1枚の価格まで下がった」として、若者が麻薬を入手しやすい現状に危機感を強めている。

今回の事件は、若者の麻薬汚染が広がる中、 保護者は我が子もついに覚醒剤に手を出していたのかと考えて金を払ってしまうという、保護者の心理を突いた犯行ともいえる。

今後は事件の全容解明と同時に、生徒が薬物に依存せざるを得ない状況を生んだ“行き過ぎた学歴至上主義”の見直しも必要なのではないだろうか。

(「イット!」4月25日放送より)