「100年に一度の変革期」を迎えている長崎市のまち。西九州新幹線の開業に伴い長崎駅前の再開発が進んでいるが、地域経済の専門家とともに期待感と課題を探った。

“民間主導”の大型商業施設が開業

長崎では、長崎駅前に「アミュプラザ長崎新館」が2023年11月にオープンしたほか、2024年10月にも、民間主導の「長崎スタジアムシティ」が開業する。

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スタジアムシティ開業まで1年前となる11月13日、「前年祭 PREMIUM PARTY」で、ジャパネットホールディングスの高田旭人社長兼CEO(※高は「はしごだか」)は、開業日などを明らかにした。

ジャパネットホールディングス・高田旭人代表取締役社長兼CEO:
2024年10月14日にスタジアムシティをグランドオープンすることを発表する

長崎市幸町に2024年10月14日に開業するのが「長崎スタジアムシティ」。長崎駅から徒歩10分の約7万5,000平方メートルの敷地に、スタジアムやアリーナ、商業施設などを建設する総工費900億円以上の“民間主導”のプロジェクトだ。

建設が進むスタジアムシティを、地域経済が専門の長崎大学経済学部の山口純哉准教授と訪れた。

これだけの施設…「持続可能性」への注文も

前年祭に訪れた人たちは「つい最近孫ができたばかり。孫が20歳の年代、成人になったときに長崎がどれくらい変わっているか」「心配なのは交通渋滞。そのあたりも気になるが、(長崎市の)人口が40万人を切っているのでもっともっと増えて、新しい人、若い人が長崎に残って盛り上げる、となってくれれば」と不安と期待の声を寄せる。

トップも「開業から20年後」がポイントだとしている。

ジャパネットホールディングス・高田旭人代表取締役社長兼CEO:
成功と言えるのはオープンした瞬間ではなく、2044年までに長崎に人口が増えて楽しんで、いきいきとしている。われわれも赤字ではなく、黒字で経営できているとき、このプロジェクトは成功していると言える

長崎駅の北側に生まれる新たな商業圏について、山口さんは「期待感」と「課題」のそれぞれを指摘する。

長崎大学 経済学部・山口純哉准教授:
長崎市内の皆さんがスポーツを楽しめる、消費の選択肢が増える意味では、良いプロジェクト。一方で大勢の人が一カ所に集まってしまうので、交通渋滞の問題や、お金を使う場所が集中してしまうと心配する

キャッシュレスなどICTへの取り組みは発表されているが、山口さんは「持続可能性」の視点から注文を付ける。

長崎大学 経済学部・山口純哉准教授:
せっかくこれだけの施設をつくっているので、再生可能エネルギー100%で動いているとか、二酸化炭素排出を減らすため車の流入を抑える、そういう工夫があってもよい

「公共交通機関を利用し集客する工夫を」

一方、長崎駅横には営業面積2万1,700平方メートルの「アミュプラザ長崎新館」がオープンした。

長崎大学 経済学部・山口純哉准教授:
まったく新しい建物で、長崎になかった規模の建物。長崎市の皆さんも喜んで、インパクトも大きいと思う

開業前から懸念されていたのは、周辺の交通渋滞だ。駐車場の問題を含めて、アクセスは課題になっている。臨時の駐車場も準備されたが、開業直後の週末には駐車待ちの行列ができていた。

長崎大学 経済学部・山口純哉准教授:
長崎はコンパクトなまちなので、自動車よりバス、電車、JRを使いながら、公共交通機関でうまく集客する工夫をしてほしい

山口さんは、長崎市中心部の商店街への影響にも注目している。
開発真っ只中の長崎駅周辺から車で10分ほどの場所には、長崎・浜町アーケード・商店街がある。

長崎大学 経済学部・山口純哉准教授:
長崎で1番の商店街で、人通りも多かったが、これから駅が開発されてスタジアムシティもできるとなると、人やお金の流れが変わってくる可能性がある

こうした流れを受けて、地元の商店街の関係者は“発想を転換する”との考えだ。

浜ん町6商会・本田時夫会長:
大きな敵ができるという認識より、今回の場合は、全市的にお客さまが増えれば私たちの魅力で誘致することにシフトすべきという考え方

大型商業施設の開業「取られる」と感じた

アミュプラザ長崎と夢彩都が相次いで開業した2000年には、商店街の店舗が合同セールをするなど「共同戦線」を張り対抗した。

ただ、長崎・浜町の通行量は、1990年の7万7,890人を最高に、2000年には4万5,929人、2023年には1万7,124人にまで落ち込み、減少に歯止めがかかっていない。(※長崎商工会議所調査 旧三菱UFJ銀行前日曜の通行量)

浜ん町6商会・本田時夫会長:
2000年のときは「取られる」という認識、どう対抗して競うのかという考えにあった。商店街は競っても結果的に敵わないところは敵わない。地元の人がなぜ、おじいちゃん、おばあちゃんの代からお孫さんまで、ずっとここに来ているかということが1つの魅力だし、財産だと思う。それを磨き直し発揮することで、大型商業施設が持ち得ないものを認識して発信することが大事

山口さんも“商店街ならでは”のおもてなしがカギを握ると見ている。

長崎大学 経済学部・山口純哉准教授:
長崎は国際交流の歴史がたくさんあって、食にしろ、雑貨でもいいが、ここに集めたり、大きな店ではできないような接客が大事。小売店は差別化できないと言われるが、モノだけの話であって、それをどう売るかは個店で工夫が必要。長崎だからできるおもてなしをやっていく必要がある

大型商業施設にはなかなかできない“きめ細かさ”の部分だろうか。

長崎大学 経済学部・山口純哉准教授:
その人の生活を聞き取ったうえで、こういうサービスが必要と提案する。人生が豊かになるノウハウや人材をいかに育てていくかが重要

「市民の幸せにつながるのは娯楽だけではない」

さらに山口さんは、開発の主体が民間だとしても、行政や市民が関わることが必要と指摘する。

個々の「点」としての施設も大事だが、上から鳥瞰(ちょうかん)したとき、全体像がどうなっているか、われわれの暮らしがどうなるのか、グランドデザインを描く時期に来ていると話す。

長崎大学 経済学部・山口純哉准教授:
駅の開発やスタジアムシティの開業で、日々の楽しみ、買い物をしたりおいしいものを食べたりスポーツを見たりすることはできる。ただ、毎日のハッピーが長崎市民の幸せにつながるかというと、買い物や楽しみだけではない。企業や市民が一緒に作っていけるか、より幸せに“ウェルビーイング”を作っていくまちづくりが今後求められる。

※「ウェルビーイング」とは、個人や社会のよい状態のこと。WHO(世界保健機関)憲章より

高齢化に加え、人口流出も進む長崎市。商業施設の相次ぐ開業が、奪い合いではなく、まち全体の魅力の底上げにつなげられるかが今後のテーマだ。

(テレビ長崎)

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