「西九州新幹線」の開業から1年。観光客の増加など経済効果の手応えを感じている。一方、約半分が通過して停車しない“ダイヤ”や、駅からの足がない“まちづくり”の課題も浮き彫りになってきた。

“日本一短い新幹線”開業で観光客が増加

全長約66km、佐賀・武雄温泉から長崎間で開業した西九州新幹線。

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長崎から佐賀へ西九州新幹線に乗ってきた女性は「自家用車でしょっちゅう来ていたんですけど、何年ぶりか…新幹線に乗ってみたいと思って来ました」と笑顔を見せた。

また、宮崎からの観光客は「今までで一番新しい新幹線できれいだった」「もっと乗っていたかった」と乗り心地を絶賛。

東京から新幹線で観光に訪れた男の子に話を聞くと「3,000年の木を見にいった」とコメント。
母親は「『かもめ』に乗れるから武雄に来たんだもんね。息子と楽しみたいと思います」と語った。

コロナの5類移行や全国旅行支援なども相まって、沿線の武雄市や嬉野市には、佐賀県内外からの観光客が大勢訪れている。西九州新幹線の月別の利用者は、8月までの11カ月で221万6,000人。1日平均で6,000人余りが利用したことになる。

コロナ前の2018年では、在来線特急「かもめ」の利用者の102%に相当し、運行するJR九州のトップも一定の開業効果、手応えを感じている。

開業効果はあったと話すJR九州・古宮社長
開業効果はあったと話すJR九州・古宮社長

JR九州・古宮洋二社長:
九州新幹線(鹿児島ルート)でもこの1年間では、コロナ前の85%くらいなので、その分の差15%くらいは開業効果ではあったのかなと。大きなトラブルもなかったということで80点はやっていいかなと。そういう面では合格点

宿泊施設の稼働率も向上 

九州経済調査協会が、予約サイトのデータを元に宿泊施設の稼働率を算出した「宿泊稼働指数」では、武雄も嬉野もこの1年はほぼ全国平均を上回っている状況がわかる。

武雄市の小松市長は、新幹線の開業効果について「遠方からのお客さんが増えた。関東・関西からのJRを使っての観光客が増えたというのが1つ」と話し“新たなターゲット”を指摘した。

2022年度、武雄温泉駅を利用したのは、1日平均で1,716人だった。コロナの影響がまだほとんどなかった2019年度と比べると、年間約5,800人増加した。

武雄市・小松政市長:
交流人口のさらなる増加。エリアで周遊する魅力がこんなにあるんだと1人でも多くの人に知ってもらう。その仕組みを作っていきたい

老舗菓子店も一大決心…新たな動き

西九州新幹線の起点でもある武雄市。さらなるにぎわいを見据えて温泉街では、リニューアルオープンする店など新たな動きも出ている。

武雄市の温泉街に店を構える「山里屋」。

山里屋・山口和子さん:
より多くの方に来ていただきたいのでまだまだ頑張らないと

新幹線の開業で創業183年の老舗菓子店も一大決心。2023年、店の改装に踏み切った。

山里屋・山口和子さん:
全然違う雰囲気にして大丈夫かなという思いもあったが、すごくありがたい感想をいただくことが多くて、思い切ってよかった

開業効果、そして上がった認知度を一過性のものにせず、“また行きたい”と思ってもらうためには、行政だけでなくいかに民間も巻き込んでまちの魅力を磨いていけるかがポイントと言えそうだ。

そして嬉野市でも、開業の手応えを感じていた。

嬉野市・村上大祐市長:
旅館も長らくコロナの中で大変痛手を被っていたが、そういったところの業績回復の大きなきっかけを掴むことができたと思っている

これまで鉄道が走っておらず、市内を訪れる観光客は“北部九州から車”がほとんどだった嬉野にとって長年の悲願だった新幹線。観光客は、全国から訪れるようになった。

一方、受け入れる上で課題も。

約半分が停車しない“ダイヤ”

西九州新幹線は各駅に停車する便が少なく、嬉野温泉駅では半分近くの便が停車せずに通過していく。

1日上下44本のうち、嬉野温泉駅で停車するのは25本だ。チェックイン、チェックアウトの時間を中心に停車する、いわゆる“観光ダイヤ”。中には2時間近く止まらない時間帯もある。

嬉野市・村上大祐市長:
ダイヤのことに関しては、JR九州に何度も要望をしている。鉄道利用者数を伸ばして、今後も増便に対するお願いをしていかないといけない

交流人口だけでなく定住人口の増加も目標に掲げる嬉野市にとって、新幹線の停車本数は明暗を分けるポイントだが、JR九州は、ダイヤ改正について「今後の利用状況を見て検討する」と述べるにとどめている。

駅から温泉街までの“足”がない

嬉野市民からは「駅から温泉街までのルートで足がない。気軽に駅に行ける感じではない」という声もあがっている。

土産物店の従業員:
お客さんには歩いて来る方もいて、「遠かったですよね?」と聞いたら「遠かったです」と言われるので、もうちょっと駅から温泉街までの足を充実してほしい

この1年、多くの市民や観光客が指摘したのが“駅と旅館・温泉街の遠さ”だ。その距離約2km、車でも5分はかかり、大きな荷物を持った観光客にとっては難点だ。

“自動運転バス”の実証実験へ 

嬉野市・村上大祐市長:
レンタカーであったり、今私どもが実用化を進めようとしている自動運転の車両についてもそうだが、鉄道で来てもらって、そこから乗り換えてさまざまな観光地をめぐってもらう

嬉野市は事業者と連携し、新幹線の停車時刻に合わせ駅前にタクシー2台を待機させているほか、10月からは自動運転バスの実証実験も行うが、いまだ決定的な打開策は見いだせていないのが現状だ。

“日本一短い新幹線”の開業から1年。沿線の地域では、盛り上がりとともに見えてきた課題をどう乗り越え、長期的なまちづくりにつなげていけるかが、いま問われている。

(サガテレビ)

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