一般のドライバーが自家用車を使って有償で客を運ぶ「ライドシェア」をめぐり、菅義偉前首相は道路運送法を改正し、最終的には過疎地だけでなく市街地や観光地でも利用できるように地域を限定せず解禁すべきだとの考えを示した。

菅氏は、12日のフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」(日曜午前7時30分)に出演し、「自治体や政府が国民全体の足に責任を持つのは当然だ」と述べ、人口減少などによるタクシー会社の地域からの撤退や路線バスの減便などで移動手段に困っている国民を支えるのは行政の責任だと強調した。

また、政府が2030年に訪日外国人観光客6,000万人の目標を掲げていることに触れ、「今年は2,500万人程度なのに、これだけのタクシー不足になっている。それよりはるかに(旅客運送用の車両台数が)必要な時代になってきている。それに応えていくのが政府の責任だ」と話した。

その上で、「最終的には法改正を視野に入れて取り組んでいく必要がある。(ライドシェアを)ビジネスにするには(料金や地域を限定する枠組みを)取っ払わないとダメだ。そうしないと全国的には広がっていかない」と主張した。

菅氏は、あわせてタクシー事業に課せられている規制を緩和する必要があるとの考えを表明。「タクシーもインバウンドもライドシェアも含めてうまくいく方法を考え、実行に移していくべきだ」と述べた。

一方、元ウーバー・ジャパン社長の髙橋正巳氏(スクラムベンチャーズ グループ最高執行責任者)は、ライドシェア解禁慎重派が「性犯罪が増える」などと主張していることについて、ライドシェアは世界中でそういう議論を経てすでに市民権を獲得している、との見解を示した。また、慎重派が示す性犯罪に関する日米のデータの比較について「前提が若干異なっている」と疑問を呈した上で、「それ(ライドシェア)があることで、女性が夜道を歩かなくなり、防げた性犯罪もある」と指摘した。

以下、番組での主なやりとり。

菅義偉前首相:
ライドシェアはだんだん避けて通ることができないようになってきた。外国人観光客の消費額は輸出に分類される。自動車産業に次ぐ産業に育っている。外国人観光客の移動の足が確保できないというのは経済的にも大きな損失になる。(ライドシェア解禁に反対の)タクシー会社には、タクシー会社の意見があるのは当然だ。ただ、自治体や政府が国民全体の(移動の)足に責任を持つのは当然のことだ。

松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
(ライドシェア)解禁反対の全国ハイヤー・タクシー連合会の川鍋一朗会長は(ライドシェアを解禁した場合)性犯罪が増加する可能性を指摘している。

髙橋正巳氏(スクラムベンチャーズ グループ最高執行責任者/元ウーバー・ジャパン社長):
前提としてライドシェアは世界中で毎日数千万回という単位で利用されている。こういう議論も世界中でされて市民権を獲得してきている。今回の(性犯罪に関する)データに関しては二つの点が重要かなと思う。まず日米(の数字)を比較する場合、同じベースで比較することが重要で、前提が若干異なっている。日米の性犯罪の比率は一般的にだいたい40倍ほどアメリカの方が上回っている。実際ライドシェアでも同等の割合を超えるような顕著な増加はないことが今週の規制改革推進会議で提示されたデータ(でわかる)。もう一点重要なのが、車内や移動中に起きた性犯罪は重大だが、それ以外に、それ(ライドシェア)があることで、例えば、女性が夜道を歩かなくてよくなったことで防げた性犯罪もあると思っている。その両方の視点が重要だ。

橋下徹氏(番組コメンテーター、弁護士、元大阪府知事):
大きな方向性として、これからの日本の安全の問題は、技術で乗り越えていくのだと(いうことが重要)。これはタクシー業界に限らない。そういう大きな方針で考えていけば、犯罪にしても、車両の安全にしても技術でテクノロジーで、特にITで乗り越えていく、知恵を出していくという方向性でライドシェアを前に進めていかなければいけない。

松山キャスター:
慎重派の意見として、ライドシェアを導入して事故を起こした場合、誰が責任を取るのか、その責任の所在がはっきりしないとの指摘がある。

髙橋氏:
海外の事例では、基本的にプラットフォーム側とドライバーそれぞれが法的な責任を負っている。例えば、プラットフォーム側では、ドライバーを受け入れる際にバックグラウンドチェック、犯罪歴のチェック、身元確認、事故歴のチェックなどが義務付けられているところもある。保険加入も義務付けられている。ドライバー側にも、地域により差はあるが、追加で講習を受ける、保険に入る、車検をより頻繁に、年に1回、年に2回受けるというようないろいろな義務を課す。プラス、いま橋下さんが言ったITの力を使い、(タクシーと)同等以上の安全性を確保しているのが海外の実態だ。

松山キャスター:
現在、人手不足でなかなかタクシーがつかまらないということが日本各地で起きていると言われている。この人手不足については、全国ハイヤー・タクシー連合会の川鍋会長は「タクシー運転手の給与が改善をしてきており、都会では3年以内にタクシー不足は解消する」と言っている。

菅前首相:
政府は2030年に(訪日外国人観光客)6000万人の目標を掲げている。今年は2500万人ぐらいだ。それでも今これだけタクシー不足が生じている。(川鍋氏の主張は)3年内に今の状況に対応できるようになる(タクシー台数が確保できる)ということなのだろうが、それよりはるかに(観光客らを運ぶ車両の台数が)必要な時代になってきている。それに応えていくのが政府の責任だ。

松山キャスター:
現在(タクシーが)不足している状況から考えると、3年間このままの状況でいいということではないということか。

菅前首相:
(タクシー運転手の)雇用を整えても、需要が増えていくということだ。インバウンドが倍になるわけだから。

橋下氏:
タクシー会社の言い分もその通りだと思う。最後の責任を負わされるのは自分たちかよ、と。それは違うのではないか、と。それならば、責任を負ってもいいよという事業者にやってもらえばいい。タクシー会社が面接をやり、2種免許を持っていないドライバーを雇う、その責任を負いたくないのであれば、その責任を負ってくれる事業体というのは、日本で「手を挙げてください」といえば、それこそスタートアップ企業として「やります、やります」という人たち、たくさんいるのではないか。

髙橋氏:
そうだ。実際に需要があるところで、ITを使い効率化して、きちんと事業として回るという実態がすでに海外で存在する。日本でも手を挙げてやりたいというところがどんどん出てくると思う。

橋下氏:
ただ、そこはもちろん責任を負う(ことが重要)。事故があれば、保険にしても賠償責任にしてもきちんと負うという日本のスタートアップの若い起業家はたくさんいると思う。そういう人たちにチャンスを与えるべきだ。

松山キャスター:
市街地も含めて全面的に解禁すべきなのか、あるいは地方に限定し、タクシー不足の地域だけに限定すべきなのか。

菅前首相:
私はライドシェアもタクシーも選択できるのは望ましいのかなと思っている。

梅津弥英子キャスター(フジテレビアナウンサー):
地域を限定せずにということか。

菅前首相:
最終的にはそういう方向かなと思っている。

松山キャスター:
利用者が選べるような形であれば、タクシーとライドシェアの併存は十分可能だということか。

菅前首相:
それはそう思う。

橋下氏:
その場合、タクシー会社にもものすごい規制があるので、そこもきちっとイコールフィッティングで、ライドシェアと同じような条件にしないといけない。タクシー会社に課せられた規制もどんどん緩和していかなきゃいけない。

菅前首相:
それは同じような条件でなきゃ(いけない)。

梅津キャスター:
全国の知事や市区町村長119人へのアンケートで、全体の95%が住民や観光客らが現在の公共交通サービスに不満を感じていると答えている。さらに、約9割が、自治体の現状に即して、国がライドシェアの条件変更や規制緩和を行うべきだと回答している。

松山キャスター:
地方で福祉やボランティアの側面からのライドシェアに限られている状況がある。ビジネスとして自立的に進んでいく制度にすべきではないかとの意見がある。

菅前首相:
最終的には法改正を視野に入れて取り組んでいく必要がある。

松山キャスター:
それはどういう形か。地方だけではなく全国展開ができるような形で規制緩和をする法改正(を目指す)ということか。

菅前首相:
政府が議論を進める中で、そうしたことを自由にできる、そうした方向で前向きなものを作ってほしいと思う。例えば、京丹後市のライドシェア事業の報酬はタクシーの2分の1ということだが、いま、8割ぐらいにする方向で検討されるなどやはりどんどんとこれではまずいと今ようやくみんなが考え始めている。

橋下氏:
いま、政府の議論の中では、現行の道路運送法の範囲で運用を拡大していくことでとどめようという声がある。道路運送法改正に政治家は踏み込んでいくべきだ。

菅前首相:
私もそう思っている。

松山キャスター:
(京丹後市のライドシェアでは)料金はタクシーの2分の1に規制され、しかも限定された地域でしか運用できない。料金をタクシーの80%まで持っていくとの動きがあるが、ビジネスとしてペイするには、そういう(規制の)枠自体を取っ払って料金設定も自由にするところまで持っていくべきか。

菅前首相:
ビジネスにするには(料金や地域を限定する枠組みのままでは)ダメだ。(その枠組みを)取っ払わないと。そこを政府の会議で決断をしてもらう。そうしないと全国的には広がっていかない。

橋下氏:
これまでライドシェアに反対の声があったのはやはり不安感があったと思う。いまの法律(改正)の話も(規制を)全部なしにして自由にするのではなく、新しいルールを作るという視点でいまの道路運送法を変えるべきだ。全部規制なしにするのではなく、新しいルールを作るということがポイントだ。

松山キャスター:
先月23日の岸田首相の所信表明演説でも、ライドシェアの課題に取り組んでいく方針が示された。新たな経済対策の中でもその方針が盛り込まれている。所信表明の文言を見ると、若干地方の人手不足というところに重点を置いた政策を念頭に置いているのかなという印象だ。菅さんとしては、岸田政権の経済対策の方針を入り口にさらに発展させるべきだということか。

菅前首相:
ここまで踏み込んでくれたから大きな一歩だ。ライドシェアという言葉を使うことさえできないような状況だったから、そこは変わってきた。同時に、これだけのタクシー不足、運転する人がいない中で、インバウンド(の促進)を掲げているから、そこはタクシーもインバウンドもライドシェアも含めてうまくいく方法を考えて実行に移していくべきだ。

日曜報道THE PRIME
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