約1年ぶりの首脳会談実現へ 薄氷上の調整

中国の政治局委員兼外相を務める王毅氏は、10月26日から28日の日程でワシントンを訪問し、ブリンケン国務長官やサリバン大統領補佐官、バイデン大統領と相次いで会談した。

焦点は、11月中旬に米・サンフランシスコで開幕するAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で、約1年ぶりとなるバイデン大統領と習近平国家主席による米中首脳会談への道筋をつけることだった。
サリバン氏と王毅氏は、首脳会談開催に向け「協力する」ことで一致したが、「協力」という表現にとどまったことで、一筋縄ではいかない米中の実情をあらためて浮き彫りにした。

中国・王毅外相と会談したバイデン大統領(10月27日: 中国外交部)
中国・王毅外相と会談したバイデン大統領(10月27日: 中国外交部)
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首脳会談の実現について、王毅氏は10月28日、「両国には依然として意見の不一致があり、多くの問題を解決しなければならない」とアメリカ側に注文をつけ、会談を交渉材料としている。さらに中国外務省の汪文斌報道官も、30日の記者会見で「サンフランシスコに通じる道は平たんではない」と話すなど、依然として困難が伴っていることを隠そうとしない。

王毅氏のワシントン訪問前後には、中国側が南シナ海でのアメリカ海軍の駆逐艦の航行を非難し、アメリカ側も、南シナ海上空で飛行中の爆撃機に中国軍機が異常接近したと発表、双方が動画を公開して応酬が続く中での会談でもあった。

米中両国は、2023年初めに米国内を横断した中国の偵察気球をアメリカ軍が撃墜して以降、関係が悪化した。
その溝を埋めるため、米政府高官らが春以降、相次いで北京を訪問し、王毅氏はそれに応える形でワシントンに訪問したが、一度冷え込んだ関係は、首脳会談が実現するまでは、確実に“約束”できない状況にある。
加えて、両国の間には、なんとかして“表向きの“対立や刺激を避けようという思いがにじむ。
米中の覇権争いは、王毅氏がワシントンに訪問する2週間ほど前、10月14日にIMF(国際通貨基金)の総会が開かれたモロッコでも垣間見えた。

IMF総会で演説するゲオルギエバ専務理事
IMF総会で演説するゲオルギエバ専務理事

日米の共同戦線で対中国包囲網構築

総会の最大の目玉となったのは、年末に交渉期限を迎えるIMFの資本増強に向けた協議(クオータ改革)だった。現在のIMFの各国の出資比率は、米国が17.43%、2位の日本は6.47%、3位の中国が6.40%と日本に肉薄しており、増資にあたって各国の経済規模に応じて決める出資比率をどうするかが論点になっている。

GDP(国内総生産)で日本を大きく上回る中国は、10年以上前から変更のない出資比率に不満を募らせていたが、発言権増大や影響力の拡大を警戒する日米は、連携して結論を先送りさせてきた経緯がある。

案の定、総会の場で、中国人民銀行の潘功勝総裁は、加盟国の経済規模を反映させ、新興国や途上国の発言権を拡大するため、増資は出資比率見直しとセットで行うべきだと強く訴えた。
会合後に公表された議長声明では「加盟国の世界経済における相対的な地位をより良く反映させるため、割当額の再編成が緊急かつ重要」として、IMF理事会に対し、2025年6月までに、「新しい計算式も含めた」さらなる出資額の調整に向けた指針として複数のアプローチを策定するよう求めた。

日本の出資比率は中国に抜かれるのか 日本政府も水面下で激しく交渉

一見、不満を訴える中国の声をふまえた改革が実現されるようにも見えるが、IMF関係者は「今回の肝は、この12月に結論を迎える今回の増資交渉では、出資比率を変更しない可能性が高いという点だ」と語る。
確かに今回の増資に関する出資比率見直しには何も触れておらず、中国の出資比率増大阻止という日米の戦略がまたしても成功を収めつつあるというのだ。

この背景には、アメリカだけではなく、日本の影響も大きいとの指摘がある。
10月の総会に向け、8月下旬、財務省の神田財務官が、トンボ帰りでワシントンのIMF本部を極秘訪問していた。
詳細は定かではないが、政府関係者はこの訪問について、「IMF総会を見据え、日本の対場を明確に示すためだった」との見方を示す。
日本はこの増資以外にもIMFに資金協力をしており、そうした点にも話が及んだ可能性もある。

IMF総会前に会談したIMFのゲオルギエバ専務理事と中国の潘人民銀行総裁
IMF総会前に会談したIMFのゲオルギエバ専務理事と中国の潘人民銀行総裁

さらに神田財務官のIMF訪問直後には、IMFのゲオルギエバ専務理事が中国の潘人民銀行総裁に面会するため、中国を訪問した。
IMFとしては、増資協議を成功させる必要があり、埋まらない日米と中国の溝の妥協点を探る意味合いもあったとの見方もある。
今回の増資にあたっては出資比率を変更しない代わりに、次の増資では出資比率見直しも検討することを明示する、こうした落としどころを探るための水面下の動きだったのかもしれない。

出資比率見直しの検討は2025年6月まで持ち越しとなる可能性が高いが、米シンクタンク関係者は、「中国はこれをアメリカに対する“貸し”と解釈する可能性もある」と分析する。

米中双方がさまざまな火種としこりを抱えたまま、首脳会談の予定日が刻一刻と近づいている。

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。