「ガザにもイスラエルにも人権はある」
イスラエルはイスラム組織ハマスが実効支配するガザ地区に、近く地上侵攻する。これに先立ちイスラエルの国防相はガザ地区を完全封鎖し、電気、食料、燃料の補給経路を断つと発表した。
昨日、イスラエルのギラッド・コーヘン駐日大使の会見が日本記者クラブで行われたので聞きに行った。

司会者が「ガザの完全封鎖は国際人権法違反ではないか」と聞いたのに対し、コーヘン氏は「イスラエル国民が誘拐されたから圧力をかけている。ガザに住む民間人を敵とは思っていない」と述べた上で、「人権はガザだけでなくイスラエルにもあるのではないか」と訴えた。この言葉は響いた。
今回の岸田文雄首相の対応は変だった。発生直後の8日に岸田氏のSNSのX(旧Twitter)への投稿は「テロ」という言葉を使わず、「双方に自制を求める」といういわゆる「バランスの取れた」コメントだったのだが、「言葉が軽い」と思った。
中東におけるイスラエルとパレスチナの争いには複雑な歴史はあるのでこういう言い方をしたのかもしれないが、今回はあくまでハマスというテロ組織による蛮行だ。民間人、特に女性や子供が犠牲になっている。これは許されないことで国際社会は非難しなければならない。
みっともない日本政府の訂正
おかしいなと思っていたら、その3日後の11日、イスラエルのコーヘン大使と会談した岡野正敬外務次官が「テロ攻撃を断固非難する。イスラエルが自国民を守るのは当然」と表明した。松野博一官房長官も12日の会見でようやく「テロ」という言葉を使った。

欧米の国々が「テロ」と非難しているのを見て慌てて修正したのだろうか。みっともない話だ。岸田氏のSNSへの投稿は外務官僚が考えたものだと思うが、あの時点で「双方に自制を求める」という表現はおかしい、と誰か政治家が言わなければダメだ。これは岸田政権の弱いところだ。
米国にはユダヤ人がたくさんいて、社会的に高い地位についている人も多いので、イスラエル擁護の声は当然強い。一方で欧州は似たようなことはあっても中東とは地続きなのでリスクのレベルが違うからやや慎重にならざるを得ない。
「バランスを取る」のは失礼
それに比べて日本は極東の島国で軍事的なリスクもなく、ただ原油の心配をしてるだけではないのか。
もう一つ、一連の報道を見ていると日本ではイスラエルよりパレスチナに同情的なニュースが多いように見える。特にパレスチナ政府とハマスを同一視しているような報道の仕方はおかしいと思う。

イスラエルはガザを封鎖して電気や食料を止めることが国際人権法違反だと非難されている。だがテロ攻撃を受けて女性がレイプされ、子供も殺され、100人以上が誘拐された国の人たちが「はいわかりました」と国際社会の言うことを聞くのか。人権うんぬんの前にまず誘拐された人を返してくれと主張するのは愚かなことなのか。
今朝、ウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使が「何が起きているのかまだ理解していない人たちのためにもう一度言っておきたい」と前置きして「X」に以下の投稿をした。
「ロシアのテロリストと交渉することは、ハマスのテロリストと交渉することと同じだ。彼らの目的は混乱と共通の世界の破壊である。狂気を止める唯一の方法は、盗賊を排除することだ。」
非常に激しい言葉でドキッとしたが、これが当事者の言葉だ。迫力に圧倒されて何度も読み返した。
中東の危機が直接のリスクとなる欧米の人たちがイスラエルに対して「怒っているのはわかるがあまり無茶しないで」と説得するのは当然だろう。だが安全な場所にいて原油の値段だけを心配して「双方に自制を求める」などと軽いことを言っても、誰もそんな話は聞いてくれないだろう。
【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】