党内第2勢力?無派閥議員に影響力持つ菅官房長官

国会が最終盤を迎え、秋の総裁選挙に向けた動きが活発になりつつある自民党。その総裁選のカギを握るのは、以前ほどの力はないとはいえ、やはり派閥だ。

現在、自民党の派閥勢力は、安倍首相の出身派閥である最大勢力の細田派(94人)を筆頭に、麻生派(59人)、竹下派(55人)、岸田派(48人)、二階派(44人)、石破派(20人)、石原派(12人)の順となっている。

細田派に続く党内第2派閥は麻生派だが、実は党内にはその麻生派をしのぐ数の“勢力”がある。

いわゆる無派閥の73人の議員だ。

しかし、彼らがまったくの無色かというと、決してそんなことはない。その無派閥議員の半数近い30人ほどに対し、大きな影響力を持っているのが、安倍総理の女房役で、自らも無派閥である菅義偉官房長官だ。

菅氏に近い無派閥議員らの集団は、ここにきて「菅グループ」と称され、総裁選に向けた重要な要素となっている。
 

菅グループの正体は複数の会の集まり

この「菅グループ」は、派閥のように1つの会として成立しているというわけではなく、ステルス的な複数の会の集合体として位置づけられている。

まず、菅長官を慕う無派閥の中堅・若手衆院議員10数人が作る「ガネーシャの会」という集団がある。この会は、自民党の各派閥が毎週会合を開いているのと同時間である木曜日の昼にこっそりと会合を重ね、結束を強めている。

さらに他派閥の議員も交えた菅氏を囲む勉強会「偉駄天の会」がある。

ちなみに「ガネーシャの会」の「ガネーシャ」とはヒンズー教の知恵の神の名前、「偉駄天の会」の由来は、バラモン教の守護神「韋駄天」と菅氏の名前「義偉」をかけたものだ。知恵を駆使し、安倍政権の守護神として君臨する菅氏の姿にヒントを得た命名とみられる。

さらに参議院の当選1期目の議員らによる菅氏を囲む会もある。
この会合に出席している無派閥の参院議員に聞いてみると、開口一番「私は基本的に菅グループですよ」と“菅グループ”という言葉が飛び出した。

別の参院議員は「会の名前はないですね、会合があるときは予定に“官房長官の会”とか書いています。実体のない“ふわっとした会”なんですよ」と語った。
会合が開かれるのは1~2か月に一度。議員たちはいずれも当選直後に菅長官側から「飯を食おう」と声をかけられ、以来、定期的に会合に出席しているという。
 

 
 
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菅グループならではの特別待遇

その菅グループのメンバーは、特別な恩恵にあずかっているようだ。6月25日に開かれた菅氏と参院議員の会の様子について、参加した議員はこう振り返る。

「1次会は“菅グループ”の定例会で、そのメンバーで2次会と言う形で総理公邸に行ったんです。毎回総理と会える時は菅さんが設定してくれます。総理と会食なんて…そんなことは菅さんしかできませんが(笑)」

この日の出席者は菅長官を囲むにとどまらず、首相公邸で安倍首相との会食という機会を得ていたのだ。菅氏の力を示すような、特別扱いだといえる。
首相との会食では、総裁選の話は出なかったというものの、「選挙は勝ってこそ」などという安倍首相の選挙をめぐる話にみんなで耳を傾け、菅官房長官は、下座に座って幹事のようにふるまっていたという。
 

 
 

菅長官が自ら語る「菅グループ」とは

では菅長官自身は、この「菅グループ」についてどう捉えているのだろうか。6月27日午前の定例会見で、記者から質問が飛んだ。

記者:菅長官は、派閥に入っていない若手議員との会合を重ねている。これは総裁選に向けた支持固めと見る向きもあるが、この会の目的や狙いは

菅長官:若手に関わらず議員の方々、よくいろんな方とお会いしています

記者:いわゆる菅グループについて、党内からは長官は自分の派閥をつくろうとしているのではないかと警戒する声も上がっている、そもそも実体として菅グループは存在するのか

菅長官:この場所は、政府見解を申し上げる場所なので、そこは控えたいと思いますけども、いろんな方と会うのは政治家としてある意味、大事なことではないでしょうか

“菅グループ”の存在については言葉を濁しつつ、会合の重要性に言及した菅長官。質問に苦笑いもこぼれたが、まんざらでもないとも見える表情だった。
 

記者の質問に苦笑いを浮かべる菅長官(6月27日会見より)
記者の質問に苦笑いを浮かべる菅長官(6月27日会見より)

総裁選での安倍三選支持の先兵に

では菅グループは、自民党総裁選に向け今後どう動くのか。

安倍首相にとって、今回の総裁選は、議員票、地方票共に圧勝することが三選後の求心力にもつながってくるため、支える菅氏としても圧勝への道筋を作るのが責務だ。

現状では、すでに細田派、麻生派、二階派の3派が安倍三選支持を打ち出し、国会議員の半数をおさえている。そこに一定数の無派閥議員が加われば安倍三選支持勢力は、議員票の半数を大きく超えることになるため、菅長官としては、菅グループの力で、安倍圧勝を固めたいところだろう。

先ほどの菅グループの参院議員は、次のように語り、総裁選でも菅氏と行動を共にすることを明言している。

「無派閥の人たちはよりどころがないが、その面倒を官房長官が見てくれるなんて感謝しかない。よく派閥に属している人は安倍総理を支持するかどうかの判断は様子見だとか、そういう話を聞くが、菅派はそんなことはない。総理を最も信頼し、総理から信頼されている。そういう人の話を聞くだけで私たちは満足なんです。菅長官は総裁選で安倍総理を支持しようなんて私たちには決して口にはしないと思います。でも、そんな菅長官を私たちも自然と支持します。だから総裁選は安倍総理です」

菅長官は「派閥の立ち上げ」には否定的だが、結束力を強めている“菅派”の勢いが安倍総理三選の大きなカギを握るのは間違いない。
そしてその数の力は、総裁選後の政局においても、菅氏が派閥領袖並み…いやそれ以上の力をふるうための、大きな源泉になっていく可能性を秘めている。


(政治部 官邸担当 千田淳一)

 

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。