大規模な浸水や断水など静岡県静岡市に甚大な被害をもたらした2022年9月の台風15号。あれから11カ月。被災した旅館のスリッパが100キロ以上も離れた愛知県豊橋市の海岸で見つかり話題となっている。
静岡市に大きな被害を与えた台風15号
2022年9月。静岡県を襲った台風15号。中でも被害が大きかったのが静岡市だ。
市のまとめによると床上浸水4462棟、床下1762棟、被災家屋は全半壊あわせて2398棟、一部損壊も2973棟にのぼり、葵区では鉄塔2基が倒れたことで11万9000戸あまりが一時停電したほか、最大6万3000戸で断水が起きた清水区では完全に復旧するまでに約2週間の時間を要した。

あれから約11カ月。愛知県豊橋市の海岸で8月12日に撮影された1枚の写真がSNSに投稿された。写っているのは砂浜に埋まった青いスリッパ。そして、そこには“油山苑”の文字…。
戦国時代に寿桂尼も愛した油山温泉

静岡市葵区の山間部にある油山温泉。その歴史は古く、今川義元の実母で女戦国大名と称された寿桂尼がたびたび湯治に訪れた場所として、京の公家・山科言継の日記「言継卿記」に記されている。
油山苑はその油山温泉にある旅館だ。

しかし、台風15号によって浸水。大塚祐史 取締役が「水がドアを突き破り、ロビーが川のようになっていた」と振り返る通り、厨房器具など多くの備品が流されたほか、車2台も使えなくなり、休業は今なお続く。
苦難を乗り越え営業再開へ

こうした中、100キロ以上も離れた場所でスリッパが見つかったことを常連客から知らされた大塚取締役は「こんな小さなスリッパがプカプカ浮いて浜辺に打ち上げられたことがびっくり」と驚きを隠せない。SNSで話題となったことにより油山苑には多くのメッセージが寄せられているといい、大塚取締役も「注目してもらえて今後の励みになる」と前を向く。

油山苑ではこれまで営業再開に向けてボランティアの力も借りながら泥のかき出しや片付けなどを進め、5月から始めたクラウドファンディングでは目標を大きく上回る560万円が集まった。
今後は浸水したロビーや厨房を改装し、2024年2月頃には宿泊客を迎え入れる体制を整えたい考えだ。