注目の最低賃金。結局、1002円に落ち着く流れとなったが、この金額は高いのか、低いのか?第一生命経済研究所の主席エコノミスト、藤代宏一さんに聞いた。

最低賃金は大台の1000円台に!専門家の見方は…

まず、今回の最低賃金引き上げのポイント。現在の全国平均時給961円が、審議会の結果を受けて「1002円」になった。そもそも最低賃金とは、月給制の会社員やパート・アルバイトなど、全ての労働者に適用されるもので、都道府県によって金額は変わってくる。

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パート・アルバイトなどの非正規労働だけでなく、月給制の会社員の給料にも関係するということなのだろうか。

第一生命経済研究所 藤代宏一さん:
その通りです。最低賃金というのは国が定める賃金のベースです。雇用形態がアルバイト・正社員にかかわらず、間接的に多くの労働者が影響を受けることになります

第一生命経済研究所 藤代宏一さん:
金額自体が妥当かどうかというのは、立場によって解釈が異なります。私が注目してるのは、伸び率です。961円から1000円を超えるということであれば、3%ないしは4%近い伸び率になります。それであれば、ある程度今の物価に追いつくと期待されますので、やはり1000円以上は今年は妥当だと思います

最低賃金の重要性について、藤代さんが指摘するポイントがこちらの2つ。

・経済の目安、物価と連動
・労働者の味方、セーフティーネット

まず「経済の目安、物価と連動」とはどういうことなのか?

第一生命経済研究所 藤代宏一さん:
賃金と物価、この2つはよくセットで出てきます。表裏一体でだいたい同じ動きをするということがあります。「ドイツの時給が2400円」なんて話もありましたが、それに対して日本は1000円というのは、ある種、日本の経済なんですね。ドイツに比べて安くなってしまってるということがあります。日本全体が安くならないように、賃金と物価を底上げしていくことが政策的に進められているということになります

「労働者の味方、セーフティーネット」という考え方もできるという。

第一生命経済研究所 藤代宏一さん:
特に不況の時、企業とその労働者の力関係を考えた場合に、どうしても企業が強くなってしまうんです。強くなり過ぎてしまうと、労働者の賃金を大幅にカットして、企業収益を保つということになる。それが極端になると、“ブラック企業”のようなものがたくさん発生してしまって、国民全体にうまく所得が行き渡らない弊害があります。そういった 暴走に歯止めをかけるという意味でも、最低賃金というのが非常に重要になってきます

最低賃金は、都道府県によって金額が異なる。
全国最高は東京の1072円、最低は沖縄など10県で853円となっていて、その差は219円ある。近畿の最高は大阪の1023円。最低は和歌山で889円となっている。この賃金格差はどうして生まれるのか?

関西テレビ 神崎報道デスク:
都会と地方では、生活費が違います。家賃をみても大阪市内、京都市内、神戸市内では高いですし、駐車場も高かったりします。食費でいうとランチ代とかもやはり都会の方が高かったりするので、そういう意味では地方と都会で生活費が違うのを、バランスを取るために、最低賃金も都会の方が高くなっているということです

地方の企業は最低賃金が上がると、負担が増える。経営的に大丈夫なのか?

第一生命経済研究所 藤代宏一さん:
非常に難しい問題で、特に今年や去年はいろんな値段が上がりました。電力・ガスなどが広範に上がっている中で、さらに人件費も上がるということになりますと、一時的に企業収益が圧迫されることは避けられないかと思います

最低賃金の上昇がもたらす好影響に“企業の新陳代謝” 

最低賃金上昇がもたらす好影響として、“企業の新陳代謝”があると藤代さんは考えている。

第一生命経済研究所 藤代宏一さん:
「一時的には痛みをともなう」 と言いましたが、少し長い目で見た場合、コスト上昇に耐えられなくなる、そういう企業は誤解を恐れずに言うと、生産性が低い企業ということになります。ちょっと人件費が上がっただけで、もうけが出ないというのは、ある種、魅力的な製品・サービスを提供できない企業ということになります

第一生命経済研究所 藤代宏一さん:
そういった企業が長い目で見るとやはり淘汰(とうた)されていくと考えられます。倒産あるいは失業を生むことにはなりますけれども、一方で企業が淘汰されることによって、そこで雇われていた人がより競争力のある企業に移ることになりますから、特に今みたいに人手不足な日本の現状において、労働者の最適な配分にプラスの影響を与えますので、中長期的に見ればやはり最低賃金の引き上げはいいことが多いと思います

「最低賃金」英1846円、独1826円、仏1753円

世界的にはどうなっているのか、最低賃金の国際比較だ。

アメリカのウエストハリウッド市では2646円、イギリスは1846円、ドイツは1826円、フランスは1753円。もし日本が1000円台になったとしても、先進国の中では非常に低いのが実情だ。日本も欧米諸国並みに賃金を上げることはできないのか?

第一生命経済研究所 藤代宏一さん:
実はこの1年ぐらいは日本でも約30年ぶりの賃金上昇が起きていますので、今いい動きが始まりかけています。 しかし、この30年間ぐらいの長いスパンで見ると、日本は1990年台後半から、ずっと上昇率が0%ぐらいの状態が続いてきました。それに対して欧米諸国は、平均すると3%ぐらい毎年賃金が上がる環境にありましたので、賃金の大幅な格差が起きてしまったことになります

最低賃金の上昇で人件費削減→クビになる人が出る?

視聴者から「時給が上がることで、人件費が削減され、クビになる人が出るのでは?」という質問が届いた。

第一生命経済研究所 藤代宏一さん:
この質問は、一部の方の時給がものすごく上がった結果として、取り残されてしまう方が解雇されることを心配されているんだと解釈しますが、経済全体で見た場合に、そのような心配はほとんどないと思います。賃金が上がること自体は、企業が収益を確保できる原資があるということです。そうした中で大量に失業が発生するといったことは考えられませんし、実際の過去の日本でも、諸外国を見てもそういった現象は起きていませんので、今後も起きないと思います

この決定が今後、私たちの暮らしや景気にどう影響していくか、注目される。

(関西テレビ「newsランナー」7月28日放送)

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