卓球女子で2大会連続オリンピックメダルを獲得した福原愛さんの元夫で、リオ五輪台湾代表の江宏傑さんは7月27日午後、東京の日本外国特派員協会で記者会見を開いた。

2人は2021年に離婚し、長男と長女は2人とも江さんと一緒に台湾で暮らしていた。

江さん側によると、福原さんは2022年7月、夏休みに子供たちに会うために台湾入りし、長男だけを日本へと連れていった。福原さんは長男を台湾に戻すことを拒んでいるという。

会見する福原愛さんの元夫・江宏傑さん
会見する福原愛さんの元夫・江宏傑さん
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江さんの代理人である大渕愛子弁護士は会見で、江さんが日本の裁判所に、長男の即時引き渡しの保全命令を求める審判を申し立てたと明らかにした。

裁判所は7月20日、すぐに江さんに長男を引き渡すよう福原さん側に命じたという。しかし、福原さん側からは、今日に至るまで引き渡しに応じるという連絡がないという事だ。

江さんは記者から福原さんに伝えたいことを聞かれると、「日本の裁判所から結果が出されたので、強制執行は取りたくない。福原さんには、是非日本の裁判所の結果に従って、平和的に安全な形で子どもを返して欲しい」と述べた。

子の連れ去りが問題に

1970年代には年間5000件ほどだった、日本人と外国人との国際結婚。

近年は年間2万件前後となっており、結婚生活が破綻する国際カップルも増えている。

それに伴い、一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく、子を自分の母国へ連れ出す「子の連れ去り」が問題視されるようになった。

福原愛さんと江宏傑さんは2016年に結婚したが2021年に離婚している
福原愛さんと江宏傑さんは2016年に結婚したが2021年に離婚している

この問題に対処するための条約が、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」通称「ハーグ条約」だ。日本は2014年に加盟。2022年11月現在、世界103カ国が加盟している。

 国境を越えた子の連れ去りは、連れ去られる親にとっては大きな苦痛となるのは当然だが、子にも大きな影響が及ぶ。それまでの生活基盤が急変し、一方の親や親族・友人との交流も途絶える。また、言葉や文化が異なる地域に移住する場合は、適応するのに苦労する。子どもの健全な生育に影響を与える可能性があるのだ。

ハーグ条約は、そのような悪影響から子を守るために、原則として元の居住国に子を迅速に返還するための国際協力や、親子の面会交流実現のための協力について定めている。

具体的には、外務省に申込窓口が設置され、そこに申請すると、ハーグ条約に詳しい弁護士を紹介してもらえるなど、援助を受けられる。

迅速な手続き可能に

ハーグ条約に詳しい、弁護士法人キャストグローバル川口支店の水内麻起子弁護士によると、ハーグ条約加盟国から日本に子を連れ去った場合には、ハーグ条約に基づいて、家庭裁判所に子の返還申立をすることになる。その場合、子の返還が原則であり、子の返還を拒みたい場合には、子を連れ去った親の側が返還を拒否する事由があることを立証しなければならない。また審理も迅速で、申立から決定まで6週間が目安となっている。

一方、ハーグ条約に加盟していない国や地域からの子どもの連れ去りの場合は、手続きが変わってくる。子を連れ去った親、あるいは、本国の親が、子が住んでいる地域の家庭裁判所に対して、子の監護者指定の申立をすることが考えられるという。
子の監護者指定の申立がなされると、どちらの親が監護者としてふさわしいかを判断するために、家庭裁判所の調査官調査が行われる可能性が高い。調査には時間がかかるので、調査の間に子が新しい環境に適応して、安定した生活を送ると、連れ去った親が監護者として指定される可能性が高くなるという。

また子の引き渡しを求める申立や保全申立も可能だ。江さんはこのケースで、裁判所は即時子どもを引き渡すよう福原さんに命じたという。

引き渡しを命じる保全命令は「非常に珍しい」

水内弁護士によると、福原さん側に長男の引き渡しを命じる裁判所の命令は「非常に珍しい」ということだ。

一般的に、ハーグ条約未加盟の場合は時間がかかるが、今回は比較的早く結論が出た形だ。

外務省の資料によると、2013年以降、日本に住んでいる子どもを取り返したいとのハーグ条約に基づく援助申請は191件、面会交流援助申請が136件あった。
外国に住んでいる子どもを取り返したいとの援助申請は155件、面会交流援助申請は43件あったという。