「セミナーを受ければ、大手企業に100%内定する」。
このような誘い文句で就職活動する学生たちの不安に付け込み、高額なセミナーやビジネススクールなどに契約させるトラブルの相談が、全国の消費生活センター等に寄せられている。国民生活センターによると、2022年度には198件の相談があったという。

販売購入形態で最も多かったのは「Web会議での勧誘を含む電話勧誘販売」で、66件(33.3%)寄せられていた。

契約購入金額は、「50万円以上100万円未満」が72件(36.4%)で最も多く、次いで「10万円以上50万円未満」の61件(30.8%)、「10万円未満」の27件(13.6%)となっている。

実際、以下のようなトラブルが起き、相談が寄せられている。
・SNSで就活塾の広告を見てサイトに登録し、Web会議で無料カウンセリングを受けた。「セミナーを受ければ大手企業に100%内定する」と約50万円の就活セミナーを勧誘され、その場で判断するように言われ、申し込んだ。(20代男性)
・SNSに「エントリーシートの添削を手伝う」とフォロワーから連絡があり依頼した。「理論的思考力が足りない。プログラミングの勉強をするべきだ」と言われ、約50万円のプログラミングスクールの勧誘を受けた。親に相談したいと伝えたが「事後報告でよい」と言われて契約し、現金で支払った。(20代女性)
こうしたトラブルについて、国民生活センターは「無料カウンセリングのつもりでWeb会議に参加しても、いきなり高額な契約の勧誘を受けることがあるため注意しましょう」「SNSで知り合った人からの一見親切な誘いは、高額な契約の勧誘が目的の恐れがあるため注意しましょう」「不安に思った場合は188に相談!」といった注意を呼びかけている。
就活トラブルはこれだけではない。内々定を出した学生に就職活動を終えるように働きかける「オワハラ」もその1つだ。2022年度の内閣府の調査では、就活生全体の10.9%がオワハラの被害に遭っていた。

また、「セクハラ」については、同じく内閣府の調査で就活生全体の1.5%がセクハラを受けており、その中で61%が「就職採用面接を受けたときにされた」と回答している。

このような現状があるわけだが、では実際、大学では就活生にどんな注意を呼び掛けているのか? 学習院大学キャリアセンター担当次長の淡野健さんに話を聞いた。
オリジナルの動画で学生への周知徹底
――いつ頃から、就活生の金銭トラブルの報告を受けている?
本学生への直接被害は多くありませんでしたが、コロナ禍以前からこのような案件は耳にしておりました。そのため、本学ではオリジナルの動画にて学生への周知徹底と相談窓口はキャリアセンターに敏速に連絡すること、を広報しています。
例えば、「高額な就職塾、有料の内定獲得セミナーは絶対参加しない」「もし疑問を感じたらすぐにキャリアセンターへ連絡する」こうしたことを呼び掛けています。
――今年はトラブルの報告は受けている?
大きなトラブルの報告は受けておりません。しかし、以下のような相談が学生からありました。面接時に就活生に家族構成や保護者勤務先を聞くというものでした。この件について、キャリアセンターでは、企業に電話して実態把握し、改善要求などを行いました。
――SNSを通じた悪質な勧誘が急増している点についてはどう思う?
私が講演や学生メッセージとして伝えていることは、時代はSNS時代ではあるものの、就活生にとっては「カオス状態」。オトナ達が就活ビジネスに多介入し過ぎて、何が正解かわからない錯乱状態です。(例:ナビ、紹介、スカウトサービス、マッチングアプリ、OB紹介アプリ、替え玉、サクラなど)また、就活コメンテーターなどの報道が正解であるかのように報道され、就活生は何を信じていいのか?わからない状態です。
ですので、学生には、真の情報が集まり、情報の真偽が確認できるキャリアセンターを利用することが望ましいと考えています。また、その位、本学キャリアセンターは毅然とした態度や情報正誤を取って、時には学生を守る前面に立つ組織であると考えています。
――就活に関する金銭トラブルに遭わないためにどんな対策が必要?
基本的に有料のプランは疑うこと。なぜならば、内定は金銭で保証するものではないからです。本学においては少しでも疑問視したらすぐにキャリアセンターに相談をして、学生自身で勝手に判断しない、ことを広報しております。また、就活生の保護者対象セミナーでも通達しています。
「オワハラ」「セクハラ」への対策は?
――では「オワハラ」の被害の報告は?
数件あります。
――「オワハラ」はどう対策すべき?
選考解禁の6月以降に企業が内定者に対し、「就活終了したら?」「内定獲得したので他社辞退してウチに来て終わったら?」と伝えるのは理解できます。企業も早く決着をつけたいですし、採用現場としては個々の入社学生のヨミは重要な採用数字です。
ですから、6月以前の段階での早期に「早く終了を!」こそオワハラであると考えております。この点については本学ではオリジナルで、採用の仕組み、と内定重複時の対応・内定辞退時の対応についてオリジナルの動画を配信して、対応法を伝授しています。
――具体的にどんなことを伝えている?
内定重複、辞退、どちらにも共通しているのは、まずは企業からの内定には経営判断の上で評価を頂いたことに感謝をすることです。その上で学生自身も判断し決断する、と伝えております。だから、重複時には他社継続意思を正確に伝えたり、辞退時には入社の期待に反したことに素直に謝る、こういったことを伝えています。
一方、辞退を含む企業対応において該当学生の評価にも通じ、将来社会で再度会うケースもあるので、一期一会の対応は誠意をもって行うこと、と伝えています。
――「セクハラ」についてはどう?
オワハラとセクハラは性質が異なり同じ土俵で議論するものではありません。この件は慎重に対応することが重要です。加害者・被害者双方の個人情報漏洩や事実把握、特に被害者に不利益が生じないように組織対応(大学キャリアセンター)することが必要だと考えています。
高額セミナー、オワハラ、セクハラなどの就活トラブルは後を絶たないようだ。しかし、いずれにせよ学生自身で判断せず、何かあった際には、大学や全国の消費生活センター等に相談してほしい。