リニア新幹線の工事をめぐっては、静岡工区だけがいまだ未着工だ。そんななかで山梨県では、リニアが地上部分を走るための高架橋が公開された。沿線地域で着々と工事が進む中、どこに着地点を見出すのか、もう議論の出口が求められている。

孤立する静岡県

2023年6月9日 山梨県庁
2023年6月9日 山梨県庁
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2023年6月9日、山梨県の長崎知事は記者会見で「ナンセンスで時間の無駄」とリニア工事での静岡県の主張をばっさり切り捨てた。

山梨県・長崎 幸太郎 知事:(2023年6月9日)
そもそも静岡県の水というのは一体何なのか。そこを私たちとしては明らかにしてもらわないと、しっかり向き合うべき議論にならないのではないかと。「山梨県も入れて話をしましょう」なんて話もありますけれど、まったくナンセンスであるし、時間の無駄だと

2023年5月24日 都内
2023年5月24日 都内

また、JR東海の丹羽社長は、2023年5月の記者会見でリニア新幹線の早期開業に向け、改めて意気込みを語った。

JR東海・丹羽 俊介 社長:(2023年5月24日)
わが国全体にとって重要なプロジェクトだという認識で進めてきているわけであります。この問題にしっかり対応して、できるだけ早い時期の開業を目指して全力を尽くしていきたい

静岡県・川勝知事
静岡県・川勝知事

前に進まない水問題の議論、静岡県の立場は孤立を深めている。

着々と進む沿線での工事

最高時速 約500kmのリニア新幹線
最高時速 約500kmのリニア新幹線

最高時速 約500km、品川・名古屋間を40分でつなぐリニア新幹線。東海道新幹線のバイパスとしての役割が期待されている。

しかし、大井川の水資源や南アルプスの自然環境への影響を心配する静岡県は、県内区間の着工を認めておらず、当初の予定だった2027年の開業は難しい状況だ。

こうした中、静岡以外の沿線自治体では、開業に向けた準備が着々と進められている。

山梨県富士川町
山梨県富士川町

静岡市の中心部から車で約1時間20分の、山梨県富士川町。2023年5月30日、報道陣に公開されたのは、高さ21m、長さ76mの高架橋だ。

公開された高架橋
公開された高架橋

リニア新幹線は、品川から名古屋までの8割以上がトンネル区間だが、山梨県内では全長83kmのうち27kmが高架橋などの地上部分を走る。

沿線で初めて公開されたこの高架橋は、2020年7月に工事が始まり、2022年3月に橋脚が完成、その後、上部の工事を経て、6月中に竣工する予定だ。

ガイドウェイ設置のための鉄筋も
ガイドウェイ設置のための鉄筋も

高架橋には上り・下り2つの走行路が整備され、鉄道のレールにあたる「ガイドウェイ」を設置するための鉄筋が打ちこまれていた。

不可欠な“地元の理解”

名古屋方面の山にはトンネルの入り口
名古屋方面の山にはトンネルの入り口

高架橋から名古屋方面にある山に目を向けると、トンネルの入り口がある。トンネルの本坑工事が行われているという。

山梨県内では、トンネルの掘削や変電所の建設、橋梁の新設など多くの工事が行われている。

地元住民の見学会(2023年5月)
地元住民の見学会(2023年5月)

工事を進めるには地元の理解が不可欠だ。高架橋が作られた場所は、元々、町民体育館や児童センターがあった。その場所を富士川町が、いち早く更地にしたことで、工事を行うヤードが確保できたという。

いまは、月1回、必ず工事の進捗と翌月に行う工程表を地域の人に回覧している。

中川所長「徐々に打ち解け理解してもらいながら」
中川所長「徐々に打ち解け理解してもらいながら」

JR東海 山梨東工事事務所・中川 隆広 所長:
月1回ですが、会うことによって先方からも、「この日は地区の行事があるから、工事用車両の運行台数を控えて」など、ニーズというかやりとりのなかで、最初の時よりも徐々に打ち解けていって工事も順調に理解してもらいながら進めてまいりました

地元の住民は「すごいものができるという感じ」「リニアが走るのは、誇りだし名誉なこと」と語った。

“ボーリング調査”めぐり意見対立

南アルプス
南アルプス

山梨県で順調に進められている工事。ただ、その障壁となるかもしれないのが「水問題」だ。

静岡県・川勝知事「ボーリング調査で突発湧水もあり得る」(2023年5月15日)
静岡県・川勝知事「ボーリング調査で突発湧水もあり得る」(2023年5月15日)

静岡県・川勝 平太 知事:(2023年5月15日)
先進ボーリングで掘っていくと、これは水抜き工事を兼ねているので、突発湧水もあり得るわけです。そこにおいては慎重になってもらわないといけない

山梨県・長崎知事「情報収集に不可欠」(2023年5月26日)
山梨県・長崎知事「情報収集に不可欠」(2023年5月26日)

山梨県・長崎 幸太郎 知事:(2023年5月26日)
トンネル掘削が安全に進められるかどうか、これを進めていくための情報収集活動として、この事前の調査である先進抗のボーリング調査は不可欠であると考えています

提供:JR東海
提供:JR東海

JR東海が山梨県内で地質や地下水の状況を把握するための「ボーリング調査」。静岡県は、静岡県側の水が流出する恐れがあるとして、県境付近の「調査の中止」を、山梨県は「継続」を求め、意見が分かれている。

リニアをめぐる静岡県の対応について山梨県民は、「川勝知事も自然のこと、県民のことを考えてのことだと思うので難しい問題」と理解を示す声もある一方、「だだをこねているというイメージ。国家事業なのだから早くどこかでけりをつけてほしい」という意見もあった。

“味方”からも「調査すべき」

静岡県の専門部会(2023年6月7日)
静岡県の専門部会(2023年6月7日)

このボーリング調査については、2023年6月7日の静岡県の専門部会で委員を務める専門家から肯定的な意見が相次いだ。

2023年6月13日 静岡県庁
2023年6月13日 静岡県庁

そして2023年6月13日の記者会見で川勝知事は、「水はみんなのもの」と話し「静岡の水か山梨の水か」という主張は今後しないとの考えを示した。

一方で県境に迫ったボーリング調査の中止要請については撤回する考えがないとも語った。理由は「専門部会の総意かどうか報告をうけていないため」だとしている。

静岡県・川勝知事「委員が認めれば従う」
静岡県・川勝知事「委員が認めれば従う」

静岡県・川勝 平太 知事:
どこからどこまでが山梨、どこからどこまでが静岡、というのは行政的にはありますけれど、山はひとつの南アルプスです。委員の先生がお認めになれば私はそれに従います

今後 専門部会が調査の中止要請を検討し、総意を示すことになるのか。依然として先行きは不透明だ。

求められる議論の出口

リニア新幹線
リニア新幹線

リニア沿線の地域で着々と工事が進む中、工事の着手にすら至っていない静岡県。県とJR東海が互いに歩み寄り、どこに着地点を見出すのか、もう議論の出口が求められている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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