脱はんこと言われるようになってしばらく経つが、「はんこ」は、日本人なら人生で必ず必要となるものだ。そんなはんこを今も手彫りで製作しているはんこ職人の仕事にスポットをあてた。

脱はんこと言われても…手彫りにこだわる「はんこ職人」

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記者:
長時間気を張っていないといけない仕事だと思うが、苦にはならない?
鶴見昌平さん:
苦にはならないですね、どう使ってもらいたいかとか、どんな風に仕上がったら(注文してくれた)その方はどういう風に使うだろうと想像しながら彫っているので。

黙々とはんこを彫る鶴見昌平(つるみしょうへい)さん。創業から150年の老舗鶴見印舗の5代目だ。高校卒業後、はんこ職人を養成する専門学校で学んだ鶴見さん。2002年、県内では5人しか持っていない国家資格、「一級印章彫刻技能士」を取得した。

記者:
鶴見さんのはんこで、ここだけはほかに負けないぞっていうポイントはどういったところ?
鶴見さん:
うちのはんこで他に負けないぞと言う所は…あ、綺麗に押せるところですかね。(文字の)彫刻面を平らにする作業から入るんです。平らにしてあるってことは押した時にもきっちり押せるはずなので。

ここだけは負けない所は「きれいに押せる」

本当に誰でも綺麗に押せるのか?はんこを押しなれていない記者が家から持ってきた機械で彫られたはんこと比べてみた。(撮影は、小中学校で放送部だった鶴見さんにお願いした。)

まずは記者が持ってきたはんこ。

記者:
いきます、あー!いつもこんなものです。

文字は読めるが、回りのふちの部分が欠けてしまっている。

続いて鶴見さんのはんこを押してみる。

記者:
あー、ちゃんと円の部分が、綺麗に押せてる気がします。

はんこを立てて指ではじいて比べてみても、鶴見さんのはんこは機械で作ったはんこに比べ、印面が平らなためすぐに揺れが収まる。

「字入れ」「荒彫り」彫刻刀は自分専用

その鶴見さんのはんこ作りを見せてもらった。

鶴見さん:
(文字を)彫る場所を決める字入れといって、一番重要なんです。

はんこ作りは大きく3つの工程に分けられる。薄く引かれた十字線を基準に文の配置を決める「字入れ」だ。

鶴見さん:
この線とこの線の部分が縦でズレがないか、あとは(田の字の)この横線とこの横線が一緒な場所にあるかとか。

次は文字の大枠を彫っていく「荒彫り」。使う彫刻刀は全て鶴見さんの手作りだ。

鶴見さん:
自分の角度に合わせたり、幅を変えたりするのは自分の加減でするので。
記者:
他の人の道具では彫れない?
鶴見さん:
彫りにくいですね、彫れないことはないだろうけど。

記者:
はんこ彫る時間は楽しいですか?
鶴見さん:
楽しいですよ、良いものを仕上げたい気持ちはありますし、なんで注文してくれたかなんで頼んでくれたかってことを思いながら彫る。

3時間ノンストップで彫り続け…

鶴見さん:
はい、できました。

はんこが完成した。

記者:
出来栄えに点数を付けるなら?
鶴見さん:
70点。
記者:
いままで100点だと思った作品はあるんですか?
鶴見さん:
ないですね。100点はないね、お客様が思う100点と僕が思う100点が合致していたら100点の品物だろうけれど、相手が100点でも僕が20点だったら品物としては100点ではないだろうし…

記者:
100点これから出せそうですか?
鶴見さん:
100点に近づきたいなあっていうのはありますね。(100点出せるように)なるのかね?やってみたいけどね!

鶴見さんのはんこについて父でもあり師匠でもある4代目の健一(けんいち)さんに聞いてみると…

父で4代目の健一さん
父で4代目の健一さん

父 鶴見健一さん:
87点ですよ、100点はまず無理でしょう。まだまだまだまだやらなきゃ、私らだってそうなんです。彼が亡くなる時に初めて(何点だったか)分かるでしょう。私はその時分いないでしょうが(笑)
記者:
5代目としてはんこを作っている姿を見てどう思いますか?
父 鶴見健一さん:
うれしくも思うし、恐ろしいとも思うんですよ。実際自分が歩いてきて50何年間やってきていろんなことがあったのを清算するとそのまま繋いでやっていってもいいのかなって、特に今の時代。

手彫りのはんこ屋さんならではの“特技”

ここで、細かい作業が得意なはんこ屋さんならではの特技を見せてもらった。

鶴見さん:
これなんですけど。
記者:
お米ですか?
鶴見さん:
お米に字が書けるんです。

幅3ミリほどの米粒に筆で文字を書いていく鶴見さん。

書いてくれたのは…

記者:
あ!石川テレビ!

細かく、精密な作業が求められるはんこ作りを手作業でしている鶴見さんだからこそできる技だ。

そんな鶴見さんが手彫りにこだわるわけがある。

鶴見さん:
手で彫っているものの価値を見出してくれている方がいらっしゃるから私は彫っていますし、機械で彫ったものとは違うものが手で彫ると出てくるので、(機械に出せない)味のところを追求していきたい。

手彫りの良さ、手彫りの味を追求して、脱はんこ時代に抗いながら鶴見さんははんこを彫り続ける。

(石川テレビ)

石川テレビ
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