6月2日公開の映画「怪物」。カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞し、ますます注目が集まっている。豪華俳優陣への思いや坂本龍一さんに映画音楽を依頼したエピソードなど、是枝裕和監督がTSSの単独取材に応じた。

初タッグの「怪物」タイトル決めに2年

監督・是枝裕和、脚本・坂元裕二。

これまでに、是枝監督は「万引き家族」や「誰も知らない」など数々の映画作品で国内外から高い評価を受け、脚本家の坂元裕二さんはテレビドラマ「東京ラブストーリー」や「カルテット」、映画「花束みたいな恋をした」など多くのヒット作を生み出してきた。長年、人々を魅了してきた2人の初タッグが、映画「怪物」で実現したのだ。
インタビューで、是枝監督は坂元裕二さんについて次のように話している。

映画「怪物」の是枝裕和 監督(左)と脚本家・坂元裕二さん(右)
映画「怪物」の是枝裕和 監督(左)と脚本家・坂元裕二さん(右)
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是枝裕和 監督:
ずっと彼のキャリアを遠くから見ていて、同じ時代を生きている作り手だな、同じモチーフに別の角度から光を当てているなという、そういうシンパシーは感じていたんですね

是枝裕和 監督
是枝裕和 監督

是枝裕和 監督:
一体何が生まれるんだろうかっていう、ワクワクが僕の側にもありましたし、僕には書けないセリフ、作れない構成というものが、エンターテインメントとして成立している。そこが今回ご一緒できて、一番新鮮だったところでした

映画「怪物」で描かれるのは、小さな町の小学校で起きたささいな事件。シングルマザー、教師、そして子どもたち…互いの食い違う主張が次第に社会やメディアを巻き込み、大ごとになっていく。

映画のタイトルでもある「怪物」とは一体何なのか。そのタイトルが決まるまでには時間を要したという。

是枝裕和 監督:
2018年の12月に、僕は脚本の前の段階のプロットをいただいて、その時には別のタイトルがついていたんですね。そこから3年かけて定期的に坂元さんとミーティングをして、意見交換をして…。タイトルが決まるまでに2年ぐらい過ぎたんじゃないかな

是枝裕和 監督
是枝裕和 監督

是枝裕和 監督:
最終的には「怪物」でいきましょうって話になってから、また脚本のディテールがかなり書き加えられて、より一層いろんなところに立ち現れる怪物をめぐる話に着地していった。とてもいいタイトルだったのではないかと思います

一瞬も、緊張感が途切れない作品

俳優陣の熱演からも目が離せない。まず光るのが子役の2人だ。

是枝裕和 監督:
非常に複雑な葛藤を抱えた役だなと思っていたので、いつものように子どもの個性を作品の中に移植して、口伝えでセリフを伝えながら言ってもらうというようなアプローチではない方がいいなと。事前に台本を渡して、湊(みなと)と依里(より)という役柄を一緒に作っていこうという、そんなアプローチを一緒にやったつもりです

麦野湊役の黒川想矢(左)、星川依里役の柊木陽太(右)
麦野湊役の黒川想矢(左)、星川依里役の柊木陽太(右)

是枝裕和 監督:
全然セリフのようには聞こえてこないっていうんですかね。ちゃんと作品の中で生きてくれていて、本当に素晴らしい2人だったなと思います

そして日本をけん引する実力派俳優が出演。

安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子、高畑充希、角田晃広、中村獅童など多彩な豪華キャストが集結する。

是枝裕和 監督
是枝裕和 監督

是枝裕和 監督:
一瞬も弛緩(しかん)することのない、本当に僕が観客として見ていても緊張感が途切れない作品になっていて、それはやっぱり役者の力だと思います

中でも、安藤サクラさんは「万引き家族」に続いて2度目の是枝作品への参加である。

是枝裕和 監督
是枝裕和 監督

是枝裕和 監督:
安藤サクラは一緒に答えを探す作業を楽しめる役者さん。そこが魅力。彼女がたどり着く場所というのが、ある種、僕の想像を超えてくるので、まだまだ先へ行けるような気がします

坂本龍一さんの音楽と不思議な共振

そして音楽は「ラストエンペラー」でアカデミー賞を受賞し、海外でも活躍した坂本龍一さん。

2023年3月に71歳で逝去し、この作品が手がけた最後の映画音楽となった。

是枝裕和 監督
是枝裕和 監督

是枝裕和 監督:
まだ仮編集でしたけど、編集したものに坂本さんの既成曲を仮あてしたものを送らせていただいて、お手紙を添えて依頼しました。見ていただいて「とてもおもしろかったので引き受けますが、映画全体の音楽を作る体力は残っていないので、1、2曲作ってみるので気に入ったら使ってください」というお返事がきました。結果的に2曲作っていただきました

是枝裕和 監督:
坂本さんの曲が、映画の中の少年2人に寄り添うように何か不思議な…音楽と子どもたちと映画との共振が実現していて、その部分に関しては本当に自分でもうれしく思っています

坂元裕二さんとの次なるコラボに期待

映画「怪物」を通して是枝監督が描きたかったこととは何なのだろう。

是枝裕和 監督:
普遍的な何かをこの映画を通して伝えるということをむしろ考えずに、小さな町の小さな小学校で起きた小さな事件を徹底的に掘り下げていくというか、そこに翻弄(ほんろう)されていく人たちの話を丁寧にやろうという、そういう発想です。登場人物も観客も映画の中に怪物探しをするように、まあ言い方は悪いですけど仕向けられていると思うんですけど、最終的にはそれが見た人の方に降りかかってくるっていうんですかね。そういう観客の巻き込み方をしている映画なんじゃないかなと思います

カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したこの作品をきっかけに、脚本家・坂元裕二さんと是枝監督の今後のコラボの可能性に期待が高まる。

是枝裕和 監督:
チャンスがあれば、僕はお願いしたいと思っています

カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した凱旋(がいせん)記者会見にて
カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した凱旋(がいせん)記者会見にて

脚本家・坂元裕二さん:
もう一回やりましょうと言われることが、仕事をしていくうえで最もうれしいことですから。2回目という必然があったら、こんなに幸せなことはないです

監督、脚本、音楽の分野で日本最高峰の才能が手がけた映画「怪物」。えたいの知れぬ怪物を探しに、映画館へ行ってみたくなった。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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