世界で初めて「液体水素で走る車」がレースに参戦。カーボンニュートラルの新たな選択肢がまたひとつ示された。
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週末、静岡県の富士スピードウェイにはたくさんのモーターファンが集まった。その人波をぬって向かった先にあったのは、トヨタ自動車が開発中の“水素エンジン車”。
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27日に開催された「スーパー耐久富士24時間レース」。
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トヨタは2年前から、ガソリンの代わりに水素を直接燃焼させて走る“水素エンジン車”を開発しており、今回は“世界初”の画期的な試みがあった。
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この日会場にあったトヨタ自動車が開発中の“水素エンジン車”は、水素は水素でも気体の水素ではなく、“液体水素“を燃料として走る。
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これまでの気体に代わり、真空2重層液体水素専用のタンクを搭載。マイナス253度という超低温を保つことで、よりコンパクトに大量の水素を搭載することができる。
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満タンに充塡するために必要な時間は、気体と同じ約1分半。航続距離は気体に比べて約2倍に伸ばすことができるという。
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さらに、気体の時には充塡のために大型の設備が必要だったため、ピットとは別の場所に専用のスペースを設けていたが、液体にすることで省スペース化を実現。設備の設置面積が4分の1になり、ピット内での充塡作業が可能になった。
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液体水素を燃料とした車のレース参戦は、世界初のこと。
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今回、トヨタ自動車の豊田章男会長もドライバーとしてハンドルを握り、24時間無事に走り切った。
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トヨタ自動車・佐藤恒治社長:
モータースポーツの現場、特に24時間レースのような技術、人を鍛えていく究極のステージで、将来のカーボンニュートラルに資する技術を発見し育てていくことが非常に大事。今見えている技術限界をゴールとしない。この中で鍛えてさらに未来をつくるための挑戦をしていく。
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「水素で世界を動かせ」。カーボンニュートラル社会の実現に向けたさらなる選択肢として、液体水素エンジン車は未来に向けて走り続ける。
燃料タンク技術が長距離走行を可能に
「Live News α」では、早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚さんに話を聞いた。
堤 礼実 キャスター:
レースへの参戦・完走で、水素エンジン車の新たな可能性が示されましたね。
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早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
従来からトヨタは水素エンジン車でレースに参戦していましたが、ガソリン車に比べて航続距離が難点でした。
今回、気体よりも密度の高い液体水素を使うことで、同じタンク容量でも、長距離を走ることができるようになりました。
水素を液体の状態に保つためには、マイナス253度の温度にする必要があり、車の燃料タンクを超低温に保つ技術的なハードルをクリアした事で、水素エンジン車の航続距離が飛躍的に長くなり、その実用可能性が高まったと言えます。
堤 礼実 キャスター:
その実用性という点では、すでにEVがありますよね。ドライバー視点では、EVと水素エンジン車に、どんな違いがあるのでしょうか。
早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
カーボンニュートラルの未来に向かって、確かにEVも選択肢の一つです。
ただ、一回の充電で走れる航続距離に課題があり、しかも、その充電にも時間がかかるのを難点としてとらえるドライバーも多いようです。
今回、水素エンジン車に液体水素タンクが使えることで、航続距離の課題がクリアされ、さらに、その充塡も2~3分と素早くできます。
こうしたドライバーの使い勝手に加えて、未来の車は、一部の国の都合だけではなく、グローバルな視点で考える必要があります。
いたずらなEV転換でガソリン車高騰も
堤 礼実 キャスター:
そのグローバルな視点とは、具体的には。
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早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
水素エンジン車は、ガソリンエンジンと同じ様に内燃機関を使いながら、CO2の削減に寄与できる技術です。
内燃機関を使うということは、ガソリンエンジンなどの生産に携わる多くの企業が、そのまま未来の車づくりにタッチできます。
いたずらにEVシフトを加速させてしまうと、内燃機関の生産コストが上昇して、ガソリンエンジン車の価格が引き上がる可能性があります。
EVだけではなく、水素という選択肢を持つことは、これからも内燃機関を必要とする新興国などの市場に、内燃機関車を低価格で供給することにつながります。
EVだけでは自動車のカーボンニュートラルが実現できないことが分かりつつある今日、日本はもちろん、欧州でも水素が注目されています。
堤 礼実 キャスター:
今回のようにレースに参戦することで、世界へのアピールにもつながりますよね。実用化という点ではまだ課題があるのかと思いますが、未来への大きな一歩だと思います。
いま技術的に困難なことも、多くの人の努力によって、数年後には当たり前になっているかもしれません。
(「Live News α」5月29日放送分より)