リニア新幹線の工事で流量減少が懸念される大井川の流域で、農家の人たちが新たな特産品づくりに取り組んでいる。着目したのは「花粉症対策」だ。増えている茶園の耕作放棄地で、花粉症緩和効果のある果物の栽培を始め、商品化にこぎつけた。
大井川…地域を潤す“命の水”

大井川は南アルプスを水源とし、静岡県の市町を通って駿河湾に流れ出る。流域の市町では上水道や農業用水、工業用水などに利用され、まさに地域の人たちの生活を潤す“命の水”だ。

その大井川の流量がリニア新幹線の工事で減少する懸念があり、静岡県は県内の工事を認めていない。県や大井川流域の市町などは「大井川利水関係協議会」を立ち上げ、工事で流出する水と同じ量を大井川に戻すよう、JR東海に求めている。
耕作放棄の茶園が2倍に増加
その大井川流域の島田市で、水以外にも深刻な問題がある。
伸びすぎたままのお茶の木。

島田市農業振興課・山本敏幸課長:
ここは元々お茶畑ですが、今は見ての通りこれだけ荒れてしまっています
島田市菊川地区。毎年4月から5月にかけては新緑の美しい茶畑が広がっていたが、今はもうない。
後継者不足に加え、茶葉の価格低迷や燃料などの高騰で、お茶の栽培を続けられない農家が増えている。

島田市農業振興課・山本敏幸課長:
農業従事者の高齢化や後継者不足などで農業を続けられない農家が多い。特に市内の農地の約7割を占める茶園では、山間地を中心に耕作放棄地が年々増加している状況です

島田市では2020年までの4年間で、1年以上栽培がおこなわれていない、いわゆる耕作放棄地は2倍近くに増えている。
ジャバラの花粉症緩和効果に着目

こうした耕作放棄地を活用した取り組みが始まっている。目を付けたのは「ジャバラ」という柑橘類だ。

中心になったのは、地場産品を地域の活性化につなげようと、農家の人たちが立ち上げた「合同会社 大井川地域再生」だ。
荒れた茶園だったところを会社の園地にして、ユズに似た柑橘類のジャバラを生産している。

合同会社 大井川地域再生 紅林貢さん:
荒廃茶園を少しでもなくしたいという思いと、この地区の農家の皆さんに元気になってもらいたいという思いの中で、では何を作ったらいいんだろうと

ジャバラはもともとこの地区で栽培されていなかった。
和歌山県で多く生産され、大学の研究で「花粉症の症状緩和に効果を示した」と報告されてから、和歌山県で“村おこし”に活用されていることを知った。
ジャバラの皮に含まれる「ナリルチン」という成分が、花粉症に効果があるそうだ。
合同会社 大井川地域再生 紅林貢さん:
花粉症で困っている人が非常に多い。そこでたまたまジャバラというものに出会って

それに冬に収穫するジャバラは、春や秋の茶摘みの時期と重ならず、茶農家に収穫や加工の協力をしてもらえることも、栽培を決めた理由だ。
ジャバラに似たユズを栽培している農家が近くにいて、栽培方法を教えてくれた。
果汁やマーマレードを製造

紅林さんたちは、ジャバラから加工した粉末や果汁、マーマレードなどを製造し、地元の観光施設やネット通販などで販売している。

合同会社 大井川地域再生 紅林貢さん:
去年からパウダーとジュースにも取り組み加工しました。全てのものは添加物なし、100% ジャバラだけで作っています
耕作放棄地の活用と茶農家の収入アップにつながる、この取り組み。合同会社は、地域全体で耕作放棄地を減らす取り組みにつながればと考えている。

合同会社 大井川地域再生 紅林貢さん:
我々は(荒廃茶園対策を)ジャバラでやっていますけど、いろんなやり方があるんだ、いろんなことができるんだというのを、(農家)の皆さんが感じてくれて、お茶以外のものに挑戦してくれたらありがたい

大井川の水とともに これまで地域を潤してくれた茶畑を、新たな特産品の生産地に変えることはできるだろうか。
(テレビ静岡)