リニア中央新幹線の工事を静岡県が認めない大きな理由は、大井川の水だ。その水問題で流域市町がJR東海に要望する協議会に静岡市の新市長が参加の意向を示したが、川が市の真ん中を流れる“大井川の街”島田市の市長が難色を示した。県とJRの協議にも苦言を呈している。
市の真ん中に大井川
この記事の画像(14枚)島田市は人口9.6万人、市のほぼ真ん中を大井川が縦断している。JR東海にモノ申す「大井川利水関係協議会」の10市町のなかで、唯一 大井川に水利権を持ち、市が取水施設を設け水道事業を行っている。
大井川は江戸時代には「越すに越されぬ」と言われた東海道の難所の一つで、旅人は川越人足の肩や蓮台に乗って渡った。当時の様子を知ることができる「川越遺跡」があるなど、島田市は“大井川の街”だ。
島田市長が静岡市長に「加入は難しい」
その島田市の染谷絹代市長は2023年4月27日の定例記者会見で、静岡市の難波市長に対し、望んでいた大井川利水関係協議会への加入は「難しい」と伝えていたことを明らかにした。
島田市・染谷 絹代 市長:
(Q.難波市長に「協議会入りは難しい」と話したか?)はい
静岡市の難波市長は2023年4月13日の就任会見で「加わらない選択はない」と、大井川の水問題を話し合う利水関係協議会への加入を強く希望していた。
静岡市・難波 喬司 市長:
静岡市も流域なんですね。大井川の流域で市町がつくっているものに参加していないというのは、普通に考えると変だなと
しかし21日 難波市長が流域市町を就任あいさつに訪れた際、島田市の染谷市長は難波市長に「加入は難しい」と伝えたという。
島田市・染谷 絹代 市長:
“立ち位置が違う”ということ、“利水者ではない”というこの2点で、「今すぐに大井川利水関係協議会に入ることはなかなか難しいところがあるというのが、大方のご意見です」と伝えしました
「立ち位置が違う」とは、2018年に静岡市がJR東海と、「リニア建設と地域振興に関する合意文書」を交わしたことを指している。静岡市が求めていた山間部のトンネル建設をJR東海が進め、静岡市が市内の山間部を通るリニアの工事に協力するというものだ。
また「利水者ではない」は、静岡市は北端の山間部に大井川上流部が流れているものの、上水道や農業・工業などに使う水は他の水系から取っていることを指している。
静岡市長の“加入”意欲に変化 背景は?
13日の就任会見で加盟に向けた希望、強い意欲を見せていた難波市長だが、島田市長に面会した後の25日の会見では発言の内容が大きく変わった。
静岡市・難波 喬司 市長:
(Q.協議会に加わることにはこだわっていない?)そうですね、こだわっていないですね。連携を強化、一体的に動いていく方がいいと思っています
発言の慎重さは流域市町からのけん制が背景なのか。
27日定例会見での島田市長の発言をどう受け止めたのか、難波市長が取材に応じた。
静岡市・難波 喬司 市長:
「(JR東海と静岡市が)協定を結んでいるから一緒にやれない」という論理が良く分からないので、何とも申し上げられません。連携すれば良いので形にこだわっていません。良い形で連携できればよいかなと思っています
知事も“静岡市加入”に賛同したが…
水問題を話し合う「利水関係協議会」への静岡市の加入をめぐっては、知事は難波市長が表明した当日に前向きな発言をしていた。
川勝 平太 知事:
これまでは異常な状態であったと受け止めている。正常に戻すためにも入るのが望ましい。私は歓迎している
島田市の染谷市長が静岡市の加入に難色を示したことが、今後 大井川の水問題をめぐる議論にどう影響していくだろうか。
JRと県の協議にもチクリ
その染谷市長は、リニア新幹線の工事をめぐる静岡県とJR東海の協議についても、興味深い発言をした。
染谷市長は、20日に大井川流域の市長たちと国土交通省を訪れた際に、リニアをめぐる県とJRの協議について「“ああ言えばこう言う”という状態が続いている」と苦言を呈した。
これに対し川勝知事は、27日の定例会見で「言い争いではなく、疑問点を解消する業をしている」と反論した。
川勝知事:
“ああ言えばこう言う”というのは、ぜひもう少していねいに議論の中身を見てもらって、何がまだ解決するべき論点として残されているのかという観点で見ていただきたい
そのうえでJRとの対話については、流域市町の意見を尊重して臨んでいるとの認識を示した。
大井川の流量減少や環境保護の問題から、こう着状態にあるリニア静岡工区。
静岡県側のキーパーソンたちの“足並みの乱れ”ともとれる今回の動き、JR東海はどんな思いで見ているのだろうか。
(テレビ静岡)