6月に入り観光については岩手県内に限って徐々に緩和され、観光地や宿泊施設も営業を再開する動きが出てきた。ただ、宿泊施設の影響は深刻となっている。
岩手県が宿泊施設を中心に4月に実施した調査では、2月から6月までの例年と比較した減収額は約65億円。5月は約半数の宿泊施設が例年と比較して8割以上減収する見込みと回答。キャンセル数は全体で約41万2000人分にものぼった。中でも、沿岸の宿泊業は東日本大震災や台風被害の上に観光客の激減と苦境に立たされている。
1カ月の休館から営業を再開…不安も
岩手・宮古市では浄土ヶ浜遊覧船の運航が4月30日に再開され、徐々に観光客の姿が戻ってきている。
こうした中、観光の拠点となる宿泊施設も再開している。
宮古市の浄土ヶ浜旅館も1カ月あまり休館していたが、6月1日から営業を再開させた。
浄土ヶ浜旅館・山根千春女将:
まだまだお客さまの出足は少ないんですけど、私たちもお客様をやっと迎えられるということで、非常に安堵してますし、非常に楽しみです
女将の山根千春さん。
再開の一方で、他県からの客も受け入れることに不安も…。
浄土ヶ浜旅館・山根千春女将:
ウイルスについては心配な面も多いので、私たちもお客さまもみんなでルールを守って、ぜひ楽しい旅をしていただけたらなと思っています
利用客と従業員の安全を守るため、部屋はこまめな消毒や換気など感染防止対策を徹底。
食事する場所もマスクの着用や間隔を空けて座ることも呼びかけることにした。
苦難の連続を乗り越えてきた浄土ヶ浜旅館
ようやく営業を始めた浄土ヶ浜旅館。これまでも苦難の連続だった。
東日本大震災前は、心のこもったおもてなしが人気の宿だったが、津波で建物が全壊した。
それでも当時若女将だった山根さんが中心になって、震災から2年後に再開させた。
経営が軌道に乗ってきたかと思えた2016年。
浄土ヶ浜旅館・山根千春女将:
館内も80cmの浸水で、ちょうど茶色い板の部分までが台風によって浸水して直した部分
台風10号によって旅館は再び浸水。約2600万円の損害を出し、3カ月間の休業を余儀なくされた。さらに2019年は、台風19号によって三陸鉄道が不通になり、観光客が激減。
浄土ヶ浜旅館・山根千春女将:
利用客が少なくなって、非常に困ってた状態。そこに新型コロナが来て、せっかく三陸鉄道が再開するといっても、大々的にお客様を迎えることができない。コロナウイルスの影響だけで、宿泊事業が伸び悩んでいるわけではなく、台風の影響も非常に大きい
浄土ヶ浜旅館・佐々木匡子若女将:
これが4月、5月(のキャンセル)
実際、5月末までのキャンセルは、宴会・宿泊合わせて約1000件にのぼった。
このため売上は例年に比べ、3月は3割減、4月は6割減、5月は、さらに悪化して7割減となった。
従業員は15人ほどいるが、生活を守るためにも解雇はしなかった。持続化給付金を申請したが、浄土ヶ浜旅館の給付額は200万円。
8部屋ある中小規模の旅館でも、ひと月の経費は約600万円。厳しい現実に変わりはない。
それでも山根さんは前を向いてできることに取り組んでいる。
コロナ渦に負けない!女将の取り組み
浄土ヶ浜旅館・山根千春女将:
いつかの宮古のファンという方たちのために、思いを伝えたくてマスクを作っている。これは、私たちの希望・期待を持ってることが伝わればいいなと思ってやっています
このほか、利用客に安心してもらうため、感染予防対策の取り組みをホームページに載せる動画を撮影した。
浄土ヶ浜旅館・山根千春女将:
さまざまな災害を念頭に、災害に負けない観光の取り組みも、これから必要かなと思う
宮古の特産品の販売など、宿泊業に限らない新たなサービスも検討している浄土ヶ浜旅館。
生き残りをかけた模索の日々が続く。
当面の運転資金の支援として、日本政策金融公庫から最大6000万円借りられる特別貸付制度があるが、台風による経営の落ち込みが懸念材料として融資は受けられないケースもあるという。
このことからも、沿岸の宿泊施設は厳しい現状にあるといえそう。
一方、県では、売上が落ち込んだ宿泊業者に100万円を支給するほか、県民が県内の宿泊施設を利用した際に、一泊当たり2000円を助成する支援策も講じるとしている。
このほか自治体で宿泊補助をしているところもあり、例えば、宮古市では最大5000円を上限として2分の1を助成する。県と合わせると最大7000円の割引となる。
(岩手めんこいテレビ)