4月18日、東広島市安芸津町で赤ちゃんの遺体が見つかった事件。死体遺棄の疑いで逮捕されたのは、ベトナム人技能実習生の19歳の女だった。3年前の2020年にも同様の事件が…。なぜ教訓は生かされないのか?

「まじめで素直」赤ちゃんの母親逮捕

4月18日、東広島市安芸津町の空き地で、生後間もない赤ちゃんの遺体が裸のまま、うつぶせの状態で発見された。

現場は国道185号線沿いの車の通りが多い場所
現場は国道185号線沿いの車の通りが多い場所
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死体遺棄の疑いで逮捕されたのは、ベトナム人技能実習生の19歳の女、赤ちゃんの母親だった。

事件現場周辺は、昔からカキの養殖業が盛んに行われてきた地域。その多くの会社が、今では外国から来た「技能実習生」に支えられている。

この地域でカキの養殖業を営む人に話を聞いた。

カキ養殖業者・社長:
技能実習生をベトナムから8人受け入れています。日々のノルマもたくさんある中で、実習生がいないと人手不足なのが現状だと思います。月に1回ほど、一緒に飲み食いしたりコミュニケーションを取っているつもりではあります

女が働いていた会社の社長は、逮捕された女の印象を次のように語る。

女が働いていた会社の社長:
まじめで素直で、仕事もよく頑張っていた。ただただ残念で仕方ない

女は警察の調べに対し、「妊娠したら帰国させられると思った。まわりに相談できなかった」と悩んでいたことがわかる供述をしていることが、これまでにわかっている。

“妊娠したら帰国”は間違った認識

実は、技能実習生をめぐる同様の事件は3年前にも起きている。2020年11月、東広島市志和町でベトナム人の技能実習生が生後間もない子どもの遺体を埋めた事件。

2020年11月、東広島市志和町の事件現場
2020年11月、東広島市志和町の事件現場

事件の背景に「妊娠したら帰国させられる」との間違った認識や、出産にかかる費用面の不安などがある。裁判では「相談できなかった」と繰り返し話し、悩みを抱え孤立していた実態がわかっている。

3年前の事件を担当していた弁護士は…

佐藤浩太郎 弁護士:
十分な手当てがないことが問題だと思っています。労働基準法の適用があるので、形としては出産・妊娠に関して法律上のフォローはあるわけですが、実際には保障されていない。日本が労働力を安く買いたいという“技能実習生を消費対象と見てしまっている”ところが根本の原因。現行の制度の中では不十分な点が多々あると思うので、改善していったほうがいいと思います

出入国在留管理庁の調査によると、「妊娠したら帰国してもらう」などの不適切な発言を受けたことがある実習生は26.5%。誰から言われたのかという質問に対しては、73.8%が外国にある「送り出し機関」と答えている。

妊娠や出産を理由とした解雇は法律によって禁止されていて、労働基準法では産休取得の権利があり、それは技能実習生にも適用される。しかし、実態が伴っていないのが現状だ。
専門家は、制度の不備に加え、技能実習生が置かれた厳しい環境を指摘する。

広島文教大学・岩下康子 准教授:
技能実習生は、送り出し機関や監理団体を経て日本へやって来る。受け入れ先との間にいろんな中間の団体があるために、技能実習生はたくさんの借金を抱えてくることがあります。借金を返さなければならないというのが非常に重荷になっています

相談できる関係の構築と産休取得へ

制度だけでなく、地域とのつながりも重要な要素だ。

広島ベトナム平和友好協会・赤木達男 専務理事:
われわれのような交流団体、市民、受け入れ事業所、監理団体が同じテーブルに着いて、どうすれば技能実習生が地域社会にとけ込めるかを議論するべきです。地域や受け入れ事業所と関係を構築するためのプラットホームを行政がリードしていく、そういうシステム作りを国にも働きかけて、制度を改善していただきたいと思います

女が働いていた会社の社長は、今回の事件を受け、取材に対し次のように答えた。

女が働いていた会社の社長:
もっとコミュニケーションを取って、ちょっとした悩み事も聞けるような環境作りはやっていきたい

3年前と同じ悲劇が繰り返された今回の事件。しかし一方では、改善に向け、わずかに動き出しているケースもある。女の来日をサポートした監理団体は、技能実習生でも産休を取れるように、受け入れ先の企業側と調整を進めている事例があることを明らかにしている。

再び奪われてしまった罪のない小さな命。今後、労働人口が減る日本社会において外国人の受け入れ増加が見込まれる中、事件の教訓をいち早く生かしていく必要がある。

(テレビ新広島)

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