地域を元気にするお試し移住「保育園留学」が子育て世代で人気となっている。

この記事の画像(23枚)

岐阜県にある古民家を改装して作られたホテル。東京から訪れ、宿泊しているこの家族の目的は“旅行”ではないーー。

岐阜県美濃市は江戸時代に商人の町として栄え、今も古い建物が軒を連ねる。

都内から来た北條さん一家は、この町に2週間限定で滞在している。

登園を見送る北條さん夫妻
登園を見送る北條さん夫妻

北條​さん夫妻:
ばいばーい。お願いします。

北條さんの子どもたちは、宿泊しているホテルのすぐ近くにある保育園へ…。

この家族が利用しているのは、“保育園留学”という取り組みだ。

“保育園留学”は、スタートアップ企業「キッチハイク」が、内閣府の子育て支援「一時預かり事業」を活用したサービス。

この留学システムでは、子どもを地域の保育園に通わせながら、周辺の宿泊施設に約2週間滞在する。

地域の子どもたちと一緒に遊ぶ
地域の子どもたちと一緒に遊ぶ

滞在中は、保育園に通っている地域の子どもたちと一緒に遊ばせることができる。

保育園留学を利用した北條華子さん:
(上の子が)幼稚園に入っていなくてずっと自宅にいて、だけど下の子がハイハイとかしてあんまり遊びに連れて行けなかったんですけど…。東京だと一時保育も全然取れない。2カ月に1回しかとれなかったり…。親は旅行がてらにもなるし、子どもたちは言葉とかも違う子たちと触れ合えるから、いい経験になるかなと思って。

保育園では、地方ならではの広々とした敷地の中で、自然と触れ合いながら思いっきり体を動かして遊ぶことができる。

また、岐阜県の木材を使用した園舎の中で、木のおもちゃで遊ぶ「木育(もくいく)」を体験することもできる。

保育園留学を利用した北條​華子さん:
いつもお迎えのとき「楽しかった?」って聞くと、「楽しい」って言うし、次の日も「そろそろ保育園行こう」って言うし、楽しんでいる様子はすごくあります。

超長期的な関係人口を

北條さん家族が滞在するのは、古民家を改装したホテル「NIPPONIA 美濃商家町」。

古民家「NIPPONIA 美濃商家町」で過ごす北條さん一家
古民家「NIPPONIA 美濃商家町」で過ごす北條さん一家

古い建物の中で非日常の空間を楽しむことができる。

また、美濃市の保育園留学では、長屋を改装したコワーキングスペース「WASHITA MINO」の利用もプランに含まれている。

保育園留学基本プランの料金は、預かり保育・宿泊代込み(大人2人・子ども1人 2週間の場合)で20万円から。子どもを保育園に通わせている間、充実した環境でのリモートワークができる。

岐阜県美濃市のほかにも、北海道や熊本県など、「保育園留学」のシステムは全国に広がっている。

首都圏に住む家族から好評で、キャンセル待ちは約2500組と多数発生しているという。

子育て世代の家族を過疎地に招くことで、地域経済への貢献が期待できるほか、地方創生に重要な「関係人口」を創出していくこの取り組み。

北海道・厚沢部町へ“移住” キッチハイク・山本雅也代表取締役CEO:
「超長期的な関係人口」を作っていくというのを僕らとしては言っています。

長らく思い入れがあるので何回も行ってみようですとか、ふるさと納税をして応援しようですとか、そういった心の繋がりとかが大きくなっていくのが大切なことだなと思います。

 “柔らかな定住”のような、期間限定のようなものがより普及していきますと、日本全体の流動性が子育て世代をきっかけに高まって、いろいろな地域がより盛り上がっていったりですとか、子どもがより成長していったりですとか可能性があると思っていますので、そういった「関係人口」からのやわらかな定住みたいなところを推進していけたらいいなと思っています。
 

顔が思い浮かぶ「関係人口」で濃密な交流

「Live News α」では、コミュニティデザイナーでstudio-L代表の山崎亮さんに話を聞いた。

堤 礼実 キャスター:
保育園留学という「関係人口」のつくりかた。山崎さんは、どうご覧になりましたか。

コミュニティデザイナー・山崎亮さん:
「関係人口」という言葉がよく使われるようになったが、具体的にその入口としてどんなものがあるのかは、まだ出揃っているとはいえない。

これまで「関係人口」づくりのアプローチとして、名所旧跡や自然の恵みにひかれ、ある地域を訪れるようになったり、美味しいお取り寄せを繰り返すといった、“ファンづくり”に力を入れる場合が多かった。

実は、これらのケースでは地域の方たちと交流を深めるきっかけとしては、もしかしたら弱いかもしれない。

今回の保育園留学ならば、子ども同士に加え、親同士が交流する機会があり、「保育」に加えて「友達」という面でも新たな関係性を生み出すことができる。

やはり誰かの顔が思い浮かぶ「関係人口」からは、濃密な交流が生まれやすい。

 “会いたい“が「関係人口」を強化

堤 礼実 キャスター:
確かに、会いたい人がいるから、会いに行く。これは、子どもたちにとってはもちろん、親にとってもさまざまなメリットがありそうですね。

コミュニティデザイナー・山崎亮さん:
都心部の保育園は待機児童も多く、なかなか預けられない。一方で親の仕事はリモートワークが可能になり、場所を選ばなくなってきている。とはいえ、一足飛びに「地方移住」とはならない。

だとすれば、まずは一定期間だけ地方でリモートワークしつつ、子どもを地元の保育園に通わせるという手がある。

すると、「保育」「友達」に加えて「仕事」という面でも、新たな関係性を生み出すことができるかもしれない。

堤 礼実 キャスター:
幼い頃の交流がその後もずっと続くと良いなと思いますが、これについてはいかがですか。

コミュニティデザイナー・山崎亮さん:
子どもが小学校、中学校と成長するごとに、定期的に地域を訪れるような関係性になることも考えられるし、なかには移住する人も出てくる可能性がある。保育園留学の広がりに期待したい。

堤 礼実 キャスター:
保育園留学というのは地域の活性化につながり、「関係人口」となる都市住民にとっても、生活の選択肢が広がる良いきっかけとなるのではないでしょうか。

なによりも、子どもたちにとって貴重な経験となり、その後の成長にも良い影響を与えるはずです。保育園留学という、新しい取り組みが広がっていくといいですね。

(「Live News α」4月4日放送分より