女性の生き方を考え、さまざまな課題や活動と真摯に向き合うことは、サステナブルな(=持続可能な)社会を目指す「SDGs」につながる。サステナブルな社会作り・職場作りを進める先進企業を紹介する「サステナビリティストーリー」。

トイレ、お風呂、キッチンなどの水まわり製品や、窓やドア、エクステリア、インテリアなどの建材メーカーである株式会社LIXILは、30年以上も前から温水洗浄便座のビデ洗浄における女性特有の悩みに対応する専用ノズル=「レディスノズル」の開発・改良を重ねてきた。その開発秘話や設計思想について、トイレ空間商品部・手原実香さんと、同部部長の田中伸幸さんに聞いた。

いま話題の「フェムケア(=女性の体や健康のケアをする製品(商品)やサービス)」に迫る。(聞き手:フジテレビCSR・SDGs推進室部長・木幡美子)

LIXILが30年以上前から取り組む「フェムケア」

1988年に誕生した「レディスノズル」。

従来のビデはおしり洗浄用のノズルと共通で1本のノズルであるのに対し、LIXILが展開するINAXブランドの現在のシャワートイレはノズルが2本になっている。

この仕様が、”女性にやさしい”洗浄を可能にしたという。

おしり洗浄用とビデ洗浄用でノズルが2本あるINAXブランド(LIXIL)のシャワートイレ(使用時、2本のノズルが同時に出ることはありません)
おしり洗浄用とビデ洗浄用でノズルが2本あるINAXブランド(LIXIL)のシャワートイレ(使用時、2本のノズルが同時に出ることはありません)
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今でこそ認知されるようになった「フェムケア」だが、LIXILは同製品を通して30年以上前から取り組んできた。

誕生した当時はまだジェンダー平等への意識が薄い時代。そんな当時に、なぜLIXILは女性目線に立った製品の開発ができたのか。まずは手原さんに聞いた。

「ダイバーシティ&インクルージョン」がLIXILの企業風土

株式会社LIXIL トイレ空間商品部・手原実香さん
株式会社LIXIL トイレ空間商品部・手原実香さん

――女性にやさしい商品開発を心掛けているそうですが、LIXILのパーパス(存在意義)を教えてください。

手原実香さん(以下、手原):
LIXILは「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」というパーパス(存在意義)を掲げ、ダイバーシティ&インクルージョン(多様な人材を生かし、その能力が発揮できるようにする取り組み)を推進しています。

ジェンダー平等の意識が薄かった時代から商品開発に多くの女性が携わっていました。それぞれの立場の多様性を受け入れながら、女性はもちろんのこと、年齢や障がいの有無などに関係なく、さまざまな従業員が活躍しています。

また、ダイバーシティ&インクルージョンの考えは製品にも反映されており、LIXILではユニバーサルデザインのものづくりを心掛けています。

その中でもLIXILのINAXブランドのシャワートイレはその典型です。

LIXILのINAXブランドのシャワートイレ サティスSタイプ(左)とサティスGタイプ(右)
LIXILのINAXブランドのシャワートイレ サティスSタイプ(左)とサティスGタイプ(右)

手原:
女性は生理中や出産後、更年期などの時期にデリケートゾーンが特に敏感になり、ケアが難しくなることがあります。

そうしたお悩みも、1日1回のお風呂でのケアとは別に、トイレ空間で適切に、快適に、こまめにお手入れができるようになれば解消できるという発想から、ビデ製品の改良を重ねてきました。

その中で開発されたおしり洗浄用のノズルとビデ洗浄用のノズルを分けた2本のノズルを用いた仕様は、INAXのシャワートイレだけのものです。

「レディスノズル」ってどんなもの?

――「レディスノズル」にはどんな特徴があるのですか。

手原:
INAXのシャワートイレは全ての機種において、おしり洗浄用ノズルとビデ洗浄用ノズルの2本で構成されていて、ビデ洗浄専用の「レディスノズル」には洗い心地の面と衛生面でメリットがあります。

まず、洗い心地についてです。女性のデリケートゾーンはまぶたの皮膚よりも薄く、繊細な場所なので、おしりよりもやさしく洗ってあげる必要があります。

そういった洗浄を可能にするために、INAXのビデ洗浄専用ノズルは、たくさんの穴から空気を含んだ水の噴出によるやわらかな水流を実現しました。

次に衛生面についてです。利用者の中には、「ノズルに汚れがついているのでは?」と不安を抱く人もいると思いますが、INAXのノズルは2本ともに、使用前後に洗浄することでノズルに汚れが残らないように配慮しています。

――確かに、心理的に「汚れているのでは?」と心配になる方は多いかもしれません。

手原:
そのためか、公共の場ではビデを使用しない女性が多いようです。

ですが、INAXのノズルは2本に分かれているので、おしり洗浄時の汚れの跳ね返りなどを気にすることなく、もう一方のビデ専用ノズルで安心して洗浄ができます。

おしり洗浄時の汚れの跳ね返りなどを気にせず使用できるINAXの「レディスノズル」
おしり洗浄時の汚れの跳ね返りなどを気にせず使用できるINAXの「レディスノズル」

――女性のことを考えた設計思想が生きているのですね。改めて、ビデの適切な使い方について教えてもらえますか。

手原:
ビデというと、多くの女性は「生理時の経血の洗浄」を思い浮かべるかもしれません。

そういった方にぜひ想像していただきたいのですが、たとえば手が汚れた際に、ペーパーでごしごし拭くのと、温水で洗ったのちにペーパーでやさしく拭き取るのとで、どちらがきれいになるでしょうか。

おそらくイメージ通りだと思いますが、後者の方が汚れは落ちますし、摩擦が少ない分、肌にも優しいです。デリケートゾーンにも同じことが言えます。

ビデは、生理時の経血の洗浄以外にも、尿漏れ時やお風呂に入れない場面ですっきりしたい時、夏場のべたつきを解消したい時など、さまざまなシーンで活用できます。

「ビデ洗浄の最適な位置」に多くの女性の声

株式会社LIXIL トイレ空間商品部長・田中伸幸さん
株式会社LIXIL トイレ空間商品部長・田中伸幸さん

まさに、フェムケアの典型ともいえる「レディスノズル」は、その誕生時期の「早さ」も注目すべきだ。多様性や女性を尊重してきたLIXILの企業風土は、開発の現場にどのように影響したのか。

――「レディスノズル」が生まれた経緯についてお聞かせください。

田中伸幸さん(以下、田中):
業界史上初のビデ洗浄を搭載した商品をLIXILが開発したのは1984年で、それは1本ノズルの仕様でした。その後、お客さまのニーズに合わせて、1988年に「レディスノズル」が誕生します。

開発当時から多くの女性従業員に商品開発に携わってもらい、モニターアンケートも実施。そこで出た声を反映したのが2本ノズル式の形態です。

――当初から女性の声を生かそうとされていたのですね。レディスノズルの開発で、苦労された面はありましたか。

田中:
おしり洗浄とビデ洗浄は、洗浄の位置がミリ単位で異なります。その「ビデ洗浄の適切な位置」を定めるのに苦労しました。

女性であってもどこが最適かを言葉にするのは難しかったですし、そもそも、そのようなことは堂々と聞くことがはばかられます。

そこで、女性従業員へのアンケート等と真剣に向き合って商品開発をしていたと聞いています。

女性従業員自身が、そういった製品が世に出ることを喜んでいたので、アンケートにはみな協力的だったようです。

試作品をつくって、モニターをしてもらって、その声を反映した試作品をまた作って…、ということを何度も繰り返したと聞いています。

――女性の声を一つも置き去りにしない、という信念を感じるお話です。この開発にはどんな思いがありましたか。

田中:
かつては家の設計をすると、トイレが隅に追いやられがちでした。しかし、今では、清潔感も増したシャワートイレが普及し、トイレ自体がリビングの横などに配置されるようになりました。

とにかくトイレをきれいで清潔な場所にして、トイレが家の中心になるような時代を創ろうと努めてきたのが、LIXILの製品開発にかける思いです。

――そのような思いがある中で、女性の声と開発の現場を丁寧にリンクさせてきたのですね。

田中:
トイレを利用している女性の声もそうですが、実際のトイレにどのようなものが置かれているのか、またどのように掃除をしているのか等もよくよく見るようにしています。

モニターに参加して頂いた方の掃除のシーンをカメラで撮って見たりもして、それらを開発に生かしています。

――そういった姿勢が、ひいては「女性が活躍するLIXIL」につながっているのかもしれません。

ライフステージに寄り添った商品を作るLIXIL

「女性のため」を机上の空論で終わらせない、そんな姿勢が垣間見える企業努力は、女性を含めた誰もが臆せずに意見を述べられる現在の企業文化にも直結していると2人は語る。

声をあげやすい環境があるからこそ、LIXILの製品は女性に寄り添うものになっている。今後の展望について手原さんはこう語る。

手原:
ビデを使用することの大切さやメリット、そして「レディスノズル」を世に広めていきたいです。

また、女性のニーズはライフステージによっても変わってきます。私自身も子どもを出産して母になった時にそのことに改めて気づきました。

幼い子どもと一緒にトイレに入ると、トイレの「狭さ」が気になるのです。

そういったライフステージごとのニーズを大事にし、その知見を商品に反映させることで、女性ユーザーに喜んでいただければと思っています。

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