2019年のクリスマス、仙台市の自宅に放火し、父親など家族5人を死傷させたとして殺人や現住建造物等放火などの罪に問われた男に対し、仙台地裁は3月16日、無期懲役の判決を言い渡した。火事の18時間後、自宅近くで顔などにやけどを負った状態で発見された被告は、裁判で一貫して黙秘を続け、弁護人は無罪を主張した。法廷で何も語らなかった被告。彼があの日何を考え、今どんな思いでいるのか、わからないまま重い判決が言い渡された。

「黙秘します」何も語らなかった被告
判決を受けたのは、無職、佐々木伸被告(26)。
判決によると、被告は2019年12月25日午前2時ごろ、当時住んでいた仙台市内の自宅に放火し、同居していた父親(当時76)と兄(当時29)を焼死させ殺害し、ほかの家族3人に加療3カ月から3週間のやけどを負わせたとして、殺人と殺人未遂、現住建造物等放火の罪に問われた。

裁判で被告はすべての質問に黙秘し、裁判長からの質問に対しても何も答えなかった。弁護側は「火災が被告の放火によるものであるという立証が不十分」として無罪を主張し、検察側は無期懲役を求刑していた。

やけどの跡、生々しく 出火当時「在宅」は明らか
被告は火事の18時間後、家から400メートルしか離れていない店舗敷地内にあるトイレで警察官に発見された。顔や手の甲、指にやけどを負い、頭髪は焦げ、顔面が腫れ上がった状態だった。つまり出火当時、自宅にいたことは明らかで、争点は「火災が被告の放火によるものなのか」、「家族に対する殺意はあったのか」に絞られた。被告が何も語らなかった裁判だったが、仙台地裁の中村光一裁判長は以下のような論拠で判決を導き出した。

放火したのは被告なのか
まず火元とされる1階和室などで広範囲に灯油の成分が検出されたことなどから「何者かが意図的に火をつけた」とした上で、「兄とはまともに会話していなかった」、「父親に対して不満を述べたり怒鳴ったりしたことがあった」、「父親にクリスマスイブの夕食に誘われても参加しなかった」などの家族の証言から、家族全員と良好とはいえない関係だったと指摘。他の家族には動機がなく、近隣の防犯カメラにも不審人物は映っていないことなどから「被告以外の者が放火を行った可能性はない」と結論づけた。

家族への殺意はあったのか
殺意については、動機が自殺や自室を燃やすことが主目的だった可能性も含め一つに特定できないことや、家族の誰か一人を確実に殺そうと考えた場合には放火以外にも方法があり得ることを考え合わせると、殺害しようとする強い意欲があったとまでは認められないとしながらも、家族の避難の手助けをしなかったことなどから、「家族が死んでしまえばよいとか、死んでもかまわないという程度の殺意があった」と認定した。
その上で「家族が寝ている深夜の時間帯に灯油をまいて火をつけ、家族がなすすべなく死亡する危険性が非常に高い犯行」として、求刑通りの無期懲役の判決を言い渡した。
裁判員「動機がわからなかった」
被告が黙秘を続けた裁判員裁判。
黙秘は憲法で保障された正当な権利である。しかし、2人が死亡し3人がやけどを負うという結果が重大な放火殺人事件。極刑の可能性もあっただけに一般市民から選ばれた裁判員は難しい判断を迫られたのではないだろうか。判決後の会見に出席した裁判員の一人は「被告が最後まで黙秘をしていたので、知りたい情報や動機がわからず、苦労した」と述べ、判決の中で裁判長も「犯行に至った経緯や動機といった被告の主観面については、限られた証拠だけでは断定できないところも多い」と述べた。

被告の内心は本人にしかわからない
被告は裁判の開廷前や休廷中、仕切りに傍聴席を気にする様子を見せていた。傍聴席に人が出入りするたび、落ち着きなくキョロキョロと視線を動かした。その姿は、私には被告が何か言いたいことや誰かに聞いてほしいことがあるように思えてならなかった。
(仙台放送 澤田滋郎)