全国各地でドローンを使った配送の実証実験が行われる中、岩手県では「ラーメン」が配送された。

ドローン技術の研究開発のスタートアップ「エアロネクスト」は岩手県岩泉町で2月21日、セイノーホールディングスなどと共同で、新しい物流サービスの構築を目指した「中山間地域におけるドローン配送」の実証実験を行い、ドローンで「ラーメン」を届けた。

実証実験が行われた岩泉町は、食料品アクセス困難人口の割合が県内で唯一、40%を超えており、全国的に見ても非常に高い水準にある。また、今後、中山間地域の高齢化が進むことで、日常の買い物や薬の受け取りなどでの生活利便性の低下が懸念されている。

そこで、輸送手段にドローン配送を組み込み、買い物代行や観光資源の創出などを行う仕組みづくりに、行政と民間企業が協働して取り組んでいる。

今回の実証実験は、こうした取り組みの一環。実証実験では、「道の駅いわいずみ」にある「レストラン岩泉」で作られた「龍泉洞黒豚みそラーメン」を、「道の駅いわいずみ」から対岸にある「ふれあいらんど」まで届けた。

ラーメンを配送したドローンの飛行ルート(提供:エアロネクスト)
ラーメンを配送したドローンの飛行ルート(提供:エアロネクスト)
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この実証実験で気になるのは、配送後のラーメンの状態だ。スープはこぼれず、麺はのびなかったのか? また、人が運ぶフードデリバリーのように、ドローンがラーメンを個人宅に運ぶことは可能なのか?

エアロネクストの担当者に“配送後のラーメンの状態”と“実用化の可能性”を聞いた。

「スープはこぼれず、麺ものびていませんでした」

――岩手県岩泉町でドローンによる配送の実証実験を行った理由は?

今回の実証実験は、岩手県による「令和4年度岩手県中山間地域におけるドローンを活用した地域課題解決に係る実証実験等業務」における委託業務とし、内閣府地方創生交付金事業として採択されて、実施したものです。

岩泉町は、2016年の「台風10号」の影響で甚大な被害を受け、孤立集落が発生した地域があったことや高齢化率が高いということもあり、2019年より防災観点や買物代行などを見据えて、ドローン配送の実証実験に取り組まれているという背景があります。

今回、岩手県様のご推薦で、岩泉町で実施させていただくという運びとなりました。


――ドローンが配送するものとして「ラーメン」を選んだ理由は?

今回の実証実験では、2つのルートを飛行しています。

そのうち、ラーメンを配送したルート「道の駅いわいずみ→ふれあいらんど」の目的は「観光資源の創出」でした。「龍泉洞黒豚みそラーメン」は、「道の駅いわいずみ」のレストランの人気メニューです。

「ふれあいらんど」にあるコテージの宿泊客に、寒い中、道の駅まで歩いて来てもらわなくても、近くまでドローンで配送できるということと、ドローン配送のエンターテインメント性で集客にもつながる可能性があると考えました。


―――「道の駅いわいずみ」から「ふれあいランド」までの距離と、かかった時間は?

距離は片道が約600メートル。時間は約2.5分(2分30秒)で配送されています。


――ラーメンを配送するときの状態は、プラスチック容器にフタをかぶせただけ?

プラスチック容器に入ったラーメン2人前を、仕切りのある箱に2段重ねで入れて運びました。

ドローンが配送したラーメン2人前と箱(提供:エアロネクスト)
ドローンが配送したラーメン2人前と箱(提供:エアロネクスト)

――スープはこぼれず、麺はのびなかった?

スープはこぼれず、麺ものびていませんでした。

受け取って食べた方からは「少しでも冷めるかなと思っていたけど熱々のままだった」「汁もこぼれていないし、普通にレストランで食べるのと同じだった」「ラーメンが飛ぶというのが本当にできるんだなと感心した」というコメントをいただいています。

「ラーメンをドローンで個人宅に配送」は可能?

――ドローンがラーメンを配送するとき、どのように水平を保った?

エアロネクストはドローン技術の研究開発のスタートアップで、そのコア技術である「4DGRAVITY(R)」は機体の安定性、効率性、機動性を各段に向上させる技術です。

今回、使用した物流専用ドローン「AirTruck」は物流に特化して、ゼロから開発された機体で、この技術も採用されています。

空力特性(機体が空気によって受ける力の特性)や重心制御を考慮した設計で、例えば、荷物を入れる「荷室」と本体が分離されていることで機体が前進する時に前傾したり、風で揺れたりしても、荷室の部分は常に水平を保ちます。

また、通常、よく実証実験で使われているドローンでは、荷物は下にぶら下げるタイプのものが多いのですが、この「AirTruck」では荷物を機体の重心部に置き、カバーをかけて飛行することで荷物自体に当たる空気抵抗も最小限です。

さらに、荷物は上から入れて下からそっと置き配する機構のため、荷物を切り離す時も安定しています。

以上のことから、「AirTruck」は飛行している時、着陸する時でも安定していまして、ラーメンでも汁をこぼさずに運べる機体と言えます。

物流専用ドローン「AirTruck」(提供:エアロネクスト)
物流専用ドローン「AirTruck」(提供:エアロネクスト)

――今回の実証実験で分かった課題は?

ドローンの飛行には「通信環境」が必要です。岩泉町においてドローンの飛行をサービスとして実施していくには「通信環境」が整うことが、より必要になり、「通信環境の整備」について検討が必要と感じています。


――ラーメンをドローンで個人宅に届けることは可能?

エアロネクストは「セイノーホールディングス」様と連携して、陸送とドローン配送を組み合わせた新たなスマート物流「SkyHub(R)」を、山梨県小菅村、北海道上士幌町、福井県敦賀市など5つの自治体でサービスとして社会実装しております。

しかし、多くのドローン配送は、集落の中にある空き地や畑などにドローンを着陸させ、そこまで取りに来ていただく形をとっています。

一方、いわゆる無人地帯と言われる中山間地や離島などでは、十分にスペースがある場所であれば、個人宅であっても飛行申請の許可がおりやすく、北海道上士幌町のように、ご自宅の庭が広い場合には個人宅までお届けしている状況です。

航空法が改正されたとはいえ、ドローンを飛行させるための多くの条件を満たさなければいけないため、ラーメンを各家庭に届けるのは、まだ少し時間がかかるかと思われます。

「ふれあいランド」にラーメンを配送したドローン(提供:エアロネクスト)
「ふれあいランド」にラーメンを配送したドローン(提供:エアロネクスト)

――可能にするためには、どのようなことが必要?

実装という意味では法的な問題、ビジネスとして成り立たせて持続していくためには現実的なニーズの確認、それに沿った体制面や配送におけるコストの削減も含む、全体のビジネスモデルの構築が必要になると思います。

ドローンが配送したラーメンを食べる様子(提供:エアロネクスト)
ドローンが配送したラーメンを食べる様子(提供:エアロネクスト)

今回の実証実験で配送した「ラーメン」は、配送後、スープはこぼれず、麺ものびていなかったことが分かった。ドローンの「ラーメン」配送には様々な課題があり、まだ時間がかかりそうだが、近い将来、実現することを期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。