東日本大震災の発生からまもなく12年。2019年から、宮城県仙台市にある震災遺構・荒浜小学校に、継続的に訪れている人たちがいる。東北少年院で出院を控える少年たちだ。過去に犯罪を繰り返した少年が、変わるきっかけに…。
「人のために…という気持ちが根本的にあれば、自分が崩れることはないのかな」
震災遺構での更生プログラムで気づいた“失われた命と絆の重さ”。過去と決別し前に進んでゆく姿を取材した。
男性が初めて身近に感じた「あの日」
宮城県仙台市若林区にある、震災遺構、仙台市立荒浜小学校。
海岸から約700メートルの位置にあり、12年前の東日本大震災では、約9メートルの津波が校舎2階まで襲来した。
仙台市では、あの日、児童や教職員、住民など約320人が避難した校舎を、震災遺構として整備し、2017年4月から公開している。

2023年2月下旬。
東日本大震災の発生から12年を前に1人の男性が、この場所を訪れた。
男性は中学入学後に仲間たちと犯罪行為を繰り返し、現在、東北少年院に収容されている。

語り部:
ここに、がれきがのっていますよね、ここが壊れています
荒浜小学校では、“語り部”から震災当時の状況を聞くこともできる。
男性が初めて身近に感じた「あの日」。約1時間にわたって校舎を見学した。
東北少年院では、2019年から、更生プログラムの一環として、出院を控える少年を荒浜小学校に引率している。
多くの命、暮らし、日常が奪われた東日本大震災を知ってもらうことで、少年たちが自分自身の犯した罪を振り返り、社会復帰への一助にしてもらうことが狙い。
男性が語り部の説明を受けた後、向かったのは校舎のベランダ。
実は、ハトによるふん害に悩んでいるという話を聞いた東北少年院が清掃を手伝っている。
清掃は、コロナ禍で活動できなかった時期を除き、年に3回ほど。
こびりついたふんは、雑巾で拭くだけではダメで、ヘラでこすらないと落ちない。
床や手すりなど、あらゆるところにこびりついたふんを、一つ一つ丁寧に落としていく。
男性が犯罪行為を繰り返していた学生時代。
“校舎の掃除をする”そんなことは考えたこともなかった。

男性:
これまでも誰かがこうやって掃除してくれていたんだってことがわかりました
過去の自分と決別
少年院に収容後、罪と向き合う中で、ボランティア活動を通して社会に貢献したいという思いが芽生え始めていた男性。しかし、ボランティア活動の経験は一度もなく、そもそも「ボランティア」とは何か、分からなかった。
男性:
今回、自分がやったことは本当に小さなことかもしれません。それでも、過去に非行を繰り返していた自分が震災遺構を訪れて清掃活動をしたということに、自分の中では意味を感じています。やったことがないことに挑戦することに壁を感じていましたが、今回この機会を頂いたことで、出院後もボランティア活動を続けていく大きな一歩になったと思います

自己満足かもしれないので…。
取材のため話を聞く記者に対し、しきりに謙遜する男性でしたが、その表情は、過去の自分と決別した確かな手ごたえを感じているようだった。
被災地にある少年院として何ができるのか、常に考え続けているという東北少年院の山本宏一院長。東日本大震災を通して、少年たちが学ぶことは、想像よりも多いと感じています。
更生プログラムに参加したある少年は、参加後、「命や建物のほかに、絆や思い出も一瞬で失われたということに気がついた」と話した。
東北少年院 山本宏一院長:
相手の気持ちや思いを考えられずに、非行に走ってしまっていた少年たちがそういう部分まで考えが至っているということは、彼らの立ち直りに大きくつながると思う
山本院長は、これからも震災遺構での更生プログラムを続けていきたいと話している。
今振り返ると、自分の弱さゆえの犯罪行為だったと語る男性。
男性:
これからもうまくいかないことや、逃げたいときもあるかもしれません。それでも、人のためにとかそういう気持ちが根本的にあれば自分が崩れることはないのかなって、今回のボランティア活動を通して思いました。自分ができることって小さなことかもしれないんですけど、これを変わっていくきっかけにしたいと思います
今春、出院し就職を控える男性。
過去の過ちと向き合いながら、少しずつ前へ歩みを進めています。

(仙台放送)