上司が部下を怒鳴りつけている声が響くと、同じ職場にいるだけで気が滅入ってしまうもの。そして、その怒りの矛先が同僚に向いているとしたら、その状況を改善してあげたいと考えることだろう。

では、どの程度の言動ならば、パワハラと判断していいのだろうか。また、誰にどのように報告すれば、パワハラを抑止できるのだろうか。パワハラに関する著書を多く執筆している笹山尚人弁護士に、周囲ができるサポート方法を教えてもらった。

「あの人の言動って威圧的だな」と感じたら、相談窓口に報告

「もし、上司の言動がひどく、職場環境として不快であったり、仕事が進めにくかったりしたら、自分の価値基準で判断していいと思います。法的な意味で厳密にパワハラといえるかは気にせず、動くことが大切です」

上司のあの言動は行きすぎだと感じたら、誰に伝えればいいのだろうか。

「一番いいのは、その上司に直接『そういう言い方はないんじゃないかと思います』と伝えること。部下から上司にパワハラの危険性を訴えられる職場は、問題に発展しにくいといえます。ただ、直接伝えるのはハードルが高いと思うので、上司の直属の上長や専用の窓口に相談してもいいと思います」

6月1日に施行された改正労働施策総合推進法によって、企業は従業員の相談体制を整えなければならないと定められた。そのため、今後は社内に相談窓口が設けられていくだろう。

「企業によっては、既にコンプライアンス委員会やハラスメント相談窓口を設けているところもあります。その窓口に、外部の弁護士など、ハラスメントの専門家を置いている場合もあるので、安心して話せるでしょう」

第三者が手を挙げることが、問題解決の糸口になることも

笹山弁護士がかつて担当したパワハラ問題の中にも、周囲の人間からの相談で発覚したケースがある。

「総務部の方からの相談だったのですが、問題自体は別の部署で起こっているものでした。上司が部下に対していじめのようなことを繰り返し、部下の方は休職してしまったのです。その状況を総務部として傍観していていいのか、という相談でした」

相談者や当事者だけでなく、職場の人にも聞き取りを行い、職場の状態を把握していったという。その過程で、衛生委員会がしっかり機能している企業だということがわかり、衛生委員会と精神科医との連携もきちんとあったようだ。

「精神科医に、休職中の部下の状態や職場復帰の方法を説明していただき、職場の意識を高めるとともに、衛生委員会で議論を尽くしてもらって、パワハラに関するルールを新たに設定しました。このように対応できたのは、総務部の方が動いたからです」

教えてもらった事例は、中小企業のケース。6月1日の改正労働施策総合推進法の施行は、現在は大企業が対象になっているが、中小企業だからといってパワハラ防止の取り組みに動かなくていいわけではない。

「そこまで大きくない規模の企業だと、かえって『あの課長ってすぐ怒鳴るって有名だよね』のような共通認識を持ちやすいので、取り組みを進めやすいかもしれません。1人ひとりが問題意識を持ってほしいですね」

「共感の心」を持つことが、同僚を守る第一歩

笹山弁護士は「何よりも大切なことは“消極的な加担者”にならないこと」と、教えてくれた。

「パワハラの問題が起きる職場では、周囲の人が消極的に傍観しているか、積極的に加害者の味方をしているか、どちらかのケースがほとんどです。味方にはならないまでも、つい見て見ぬふりをしてしまうことはあると思いますが、それは許されない行為です」

上司の言動に追い詰められている同僚に気づかないふりをするのは、ケガをして血を流している人を見て、何もしないことと同じだというのだ。

「たとえ自分が引き起こしたことでなかったとしても、職場でパワハラのようなことが起きているなら、アクションを起こしてほしいです。『あの人、辛そうだな』と思える共感の心を持つことが大事で、それだけで職場は変わっていくと思います」

常に気を張っている必要はなく、職場にいて「なんとなくおかしいな」と感じたら、注意して周囲を見てみるだけでもいいという。

「周りから見て『あの人の言い方ってキツくない?』『あの人ばっかり仕事を押しつけられてるよね』と感じるということは、何かしらの改善が必要かもしれません。また、その気づきが、職場環境を改めるきっかけになると思います。“消極的な加担者”にはならないでくださいね」

社内に相談窓口が設置されれば、職場内での不快な言動に関して相談しやすくなるだろう。もし、同僚が思い詰めているようなら、その人の代わりに一歩踏み出してみてはいかがだろうか。

笹山尚人弁護士

笹山尚人
弁護士。第二東京弁護士会会員、東京法律事務所所属。弁護士登録以来、青年労働者や非正規雇用労働者の権利問題、労働事件や労働運動を中心に扱って活動。著書に『それ、パワハラです~何がアウトで、何がセーフか~』『人が壊れてゆく職場~自分を守るために何が必要か~』など多数。

東京法律事務所:
https://www.tokyolaw.gr.jp/

取材・文=有竹亮介(verb)