東京都がはじめて開催した、国際的なスタートアップのイベント「City-Tech.Tokyo」。当初の予想を上回る41の国と地域から約330のスタートアップが集まり、会場は熱気にあふれた。最も注目されたビジネスコンテストを制したのは日本のスタートアップだった。

東京をスタートアップの集積地に 

スタートアップとは、革新的なビジネスで急成長を目指す、起業から間もない企業のことだ。東京都は2023年2月27日、スタートアップのイベント「City-Tech.Tokyo(シティテック東京)」を初開催し、二日間で329のスタートアップ、100を越える投資会社などが集まった。

2日間で329のスタートアップ、100を超える投資会社が集結。あちこちで商談が展開された
2日間で329のスタートアップ、100を超える投資会社が集結。あちこちで商談が展開された
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会場では各社が活発に自社の技術をアピールし、あちこちで商談まで展開された。参加者は、のべ2万5000人にも上り(来場とオンライン)、当初予定の2倍以上と大盛況だった。 

小池都知事も会場を訪れ、さまざまな企業のブースに足を運んでいた。 

小池都知事は、使用した水の98%以上を殺菌、消毒し、その場で再利用できる手洗いスタンド「WOSH」を視察
小池都知事は、使用した水の98%以上を殺菌、消毒し、その場で再利用できる手洗いスタンド「WOSH」を視察

都知事が視察したのは、使用した水の98%以上を殺菌、消毒し、その場で再利用できる手洗いスタンド「WOSH」。2014年に設立された東京大学発のスタートアップ「WOTA(ウォータ)」が開発した製品で、その技術は2023年2月にトルコを襲った大地震や、日本国内の災害現場の支援にも使われている。

WOTA建物循環実証実験画像(提供:WOTA)
WOTA建物循環実証実験画像(提供:WOTA)

WOTAはこうした水の再利用装置の開発だけでなく、建物単位の水再生利用システムの開発にも挑み、水不足などの構造的な解決を目指している。 

小池都知事は「まさに世界のイノベーション。技術革新を引っ張っていく方々がここに集まっている」「投資家の方々にも参加していただいて、選ばれる企業がたくさん出てくればいいなと。そうした企業が東京を舞台にして花開いてほしい」と語った。 

グランプリは京都発の“核融合発電” 

今回のイベントで最も盛り上がったのは、スタートアップの自社技術アピールコンテストだ。グランプリの賞金は1000万円で、特別賞は東京進出のサポートなどが提供される。約330社の応募の中から20社が選ばれ、各社5分という限られた時間で熱いプレゼンが行われた。審査員からは「競合は?」「次のステップに必要な資金、開発期間は?」など具体的で鋭い質問が飛んだ。 

コンテストの様子 5分という限られた時間で熱いプレゼンが行われた
コンテストの様子 5分という限られた時間で熱いプレゼンが行われた

参加企業20社のうち日本発のスタートアップは8社だった。 

・AIによる感情解析の「I’m beside you(アイムビサイドユー)」 
・治験・臨床研究のクラウドシステムの「アガサ」 
・核融合ビジネスの「京都フュージョニアリング」 
・衛生システムの「Synspective(シンスペクティブ)」 
・データビジネスの「DATAFLUCT(データフラクト)」 
・新素材ライメックスの「TBM」 
・子宮フローラ検査の「Varinos(バリノス)」 
・フードロス解決システムの「ファーメンステーション」 

中央に立つプレゼンターに審査員(大画面)が質問
中央に立つプレゼンターに審査員(大画面)が質問

2日間に渡って行われたコンテストの結果、グランプリは“核融合ビジネス”の京都フュージョニアリングだった。2019年に設立された京都大学発のスタートアップで、ディープテック(科学的な新技術による社会問題解決への取り組み)領域で注目されている。

核融合技術とは、水素など軽い物質の原子を融合させることで、膨大なエネルギーを取り出すものだ。太陽でも核融合反応が起きており、核融合技術は「地上の太陽」とも例えられる。この研究において日本は世界トップレベルで、その知見を活かし、京都フュージョ二アリングは“二酸化炭素を排出しない発電”を目指す。企業ブースには大手電力会社の関係者も訪れ、話を聞いていた。 

京都フュージョニアリング・上之段琢磨マネージャー
京都フュージョニアリング・上之段琢磨マネージャー

京都フュージョニアリングの上之段琢磨マネージャーは「ここでアピールし、世界を目指したいという思いで参加した」と話す。国内外のほかの企業との交流の場にもなり、新たな気づきにもつながったそうだ。 

スタートアップの投資環境 

「お互いがお互いのサービスを使って面白いことができるかもしれないので、東京で国際イベントをやってもらえるのはめちゃくちゃ良い」

I’m beside you・神谷渉三CEO
I’m beside you・神谷渉三CEO

こう話すのは、AIの感情分析システムのI’m beside youの神谷渉三CEO。コロナ禍の2020年に設立した企業で、オンライン上での人の表情などをAIが読み取り、感情の“見える化”をする。リモートワークが増える中で、新たな形のメンタルヘルスの支援をうたう。 

I’mbesideyouのサービス画像
I’mbesideyouのサービス画像

日本のスタートアップの投資環境をどう見るか。 

神谷CEOは「今回のイベントのタイミングは最高」と答える。日本では、海外の投資会社からの投資が減少し、スタートアップに資金がまわらなくなっていた中で「スタートアップ5か年計画」が2022年末にまとめられ“逆張り”のお金の流し方ができていると見ている。

神谷CEOは「問題は、お金をどこ流し込むか。グローバル展開して海外からお金を引っ張れる企業でないと解決しない」「そして集中投資が必要。“こいつはいける”と思ったスタートアップだけに集中投資し、他の国が追いつけないような環境を作り上げる必要がある」と話す。 

3つの“10倍”目標 

東京都の政策企画局・福永真一部長は今回のイベントについて、「これだけ多くの地域からスタートアップが出展頂けたというのは、東京、日本の市場への興味と関心がまだ高いのだと感じた」と嬉しそうに振り返った。さらに、「日本のスタートアップがこれから活躍するためには、最初から海外志向の“ボーン・グローバル”な企業を増やす必要がある」と抱負を語る。

東京都政策企画局・福永真一部長
東京都政策企画局・福永真一部長

 東京都は今後5年間で3つの10倍拡大目標を掲げている: 
・スタートアップの起業数 
・時価総額が1000億円を超える未上場企業いわゆる「ユニコーン」の数 
・スタートアップと行政の連携(協業)の数 

日本経済の成長だけでなく、世界が抱える問題解決の鍵のひとつを握るのはスタートアップだ。今回のイベントのような、日本発のスタートアップが世界で活躍できるための土壌作りが進められていく。 

(フジテレビ経済部 内閣府担当 井出光)

井出 光
井出 光

2023年4月までフジテレビ報道局経済部に所属。野村証券から記者を目指し転身。社会部(警視庁)、経済部で財務省、経済産業省、民間企業担当などを担当。