吹き荒れる値上げの嵐が、子どもたちを支える取り組みにも影響を及ぼし、暗い影を投げかけている。

物価高が“運営費”を直撃

福岡市南区の「子ども勉強広場」。地域の小学生から高校生が集い、思い思いの時間を過ごせる場所として開放されている。希望者には夕食も無償で提供。「めちゃうま」と子どもたちがおいしそうに頬張るこの日のメインは、大人気のチャーハンだ。

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長住団地自治会長・松尾清さん:
不景気になってきて、お母さん方が共稼ぎだとか、母子家庭だとか、結構多いですので、頑張ってるお母さんたちを応援せないかん。子どもたちくらいは、僕たちが預かりますよって。一緒にね、みんなで温かいものを食べてほしい

最近、利用者が急増しているという「子ども勉強広場」。運営費は、国や市からの補助金がメインだが、それだけでは賄いきれないことも多く、この日は足りない分を自治会費から3,000円捻出した。

子ども勉強広場スタッフ・櫛原久子さん:
子どもたちがいっぱい食べてくれるから大変です。量が量やけんね。きょうはですね、サニー(ストア)で安くなってるのを買ってきました。半分になってる“お値打ちの価格”のもの

子ども勉強広場スタッフ・櫛原久子さん:
運営は確かに厳しいと思います。日々の食材については、フードサポートを受けながら、あとの物をなんとかしのいでやってますね

フードバンクへ各家庭からの依頼が急増

物価高の影響が、子どもたちへの支援にも及んでいる。無償での提供を続けるには、こうした子ども食堂などに食品を提供する「フードバンク」の存在が不可欠となっている。

フードバンクの活動を行っている福岡市内のNPO法人「いるか」は、助成金や企業からの食材支援などで運営されていて、様々な食品を必要なところに届けている。

NPO法人「いるか」 田口吾郎代表:
子ども食堂だけではなく、子ども食堂につながっていない方とか無数にいるので、キリがない状態というか

物価高や新型コロナの影響で困窮する家庭が増え、フードバンクには子ども食堂だけでなく、各家庭からの依頼も急増しているという。

NPO法人「いるか」 田口吾郎代表:
かなり物価高っていうことが出てきて、急に電話がバンバンかかってきたりとか、そういったのが、ずっとひっきりなしに続いてる状態ですね。毎日のように電話がかかってきてる状態

企業などから寄せられた食品や日用品は、福岡県内各地で配布される。この日は、飯塚市の会場に予約していた15家族が訪れた。

フードバンク利用者:
対応される方もすごく優しくて、「何個でもいいよ」と言われると、すごくホッとした気持ちでもらえることができたのでよかったです

フードバンク利用者:
食品とか全て値上がりしているので、家計には結構来ますから。こういうのは、ちょっとでもありがたいなと思います

母子世帯の実情は…

食品を無償で提供するフードバンクを利用している福岡・大野城市の壽美さん。シングルマザーで、コロナ禍前までは子どもを養うため、美容系の会社で働いていた。

この春、息子は中学に入学する。2020年に個人事業主としてエステサロンを開いたが、直後にコロナの波に襲われた。

フードバンク利用者 壽美さん:
コロナ禍が来て、がく然と。3分の1くらいに収入が落ちたので、何かを削らないといけないと。難しかったりとかしますね

家賃さえ賄えない状況に陥り、店舗での営業を諦めざるを得なかった。
そんな追い込まれた状況で知ったのが、フードバンクの存在だった。

フードバンク利用者 壽美さん:
何て言うんですかね、言葉に表せないんですけど、(食品を)“いただく”っていうのができなくて、申し訳なさが先に来るんですよね。どうしても…。1年か2年前くらいだけど、うちの子がLINEを見て、何か子ども向けのものがあったんですよね。それで連れていってあげようかなっていうのがきっかけですね

壽美さんは、息子の言葉をきっかけにフードバンクの利用を始め、米や乾麺などを受け取るようになった。

フードバンク利用者 壽美さん:
親としては、子どもが食べてれば安心するので、どんなおかずがなくても。お米は必要ですもんね

この日、壽美さんは夕飯の買い物にスーパーを訪れた。

フードバンク利用者 壽美さん:
育ち盛りというか、体ができあがる年頃なので気を遣いますよね。んー、高い…

相次ぐ食品の値上げで、これまで3万円程度に抑えていたひと月の食費は1万5,000円ほど上がったという。

壽美さんは「食べ盛りの息子のために安くて量の多いものを」と値段を確かめ、商品を吟味する。

フードバンク利用者 壽美さん:
買おうかなと思っても、やめておこうかなとかはありますね。子どもがオムライス好きなので、卵は頻繁に使うんですよ。なのに諦めますね。卵は高いです。考える金額です

2021年度の厚生労働省の最新の調査によると、母子世帯の就労による年間収入は平均で236万円。割合は年収200万円未満の世帯が、ほぼ半数を占めている。それに対して父子世帯の場合は、平均約500万円。母子世帯は父子世帯の半分にも満たないのが現状だ。

長引くコロナ禍と、一向に吹き止まない値上げの嵐。困窮した世帯のみならず、それを支える社会の取り組みにも暗い影を落としている。

(テレビ西日本)