血のついた服をみそに1年以上つけても血の赤みは残るのか、それとも黒く変色するか。その結論が1人の男性の運命を左右する。有罪判決の決め手になった“最大の証拠”が崩れるからだ。死刑囚が無実を訴えて続けてきた袴田事件。再審の扉が開くのか、東京高裁が3月13日に判断する。

事件から57年 袴田元被告は今…

2023年1月、事件が発生した静岡県の旧清水市、今の静岡市清水区で支援者集会が開かれた。

支援者集会に出席した袴田元被告と姉のひで子さん(2023年1月)
支援者集会に出席した袴田元被告と姉のひで子さん(2023年1月)
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袴田巖元被告
根性が通じた。闘いはまだある。結果としていろいろな闘いはある

姉・袴田ひで子さん
巌はこの通りでございますが、私たちの裁判も大詰めにきております。3月中に確定が出るということで、再審開始になることを願っています。もう一区切りつけてもらいたい

支援者集会を途中退席する袴田元被告
支援者集会を途中退席する袴田元被告

袴田巖元被告、86歳(2023年2月現在)。
支援者へのあいさつの大半は、脈絡のない話となった。釈放から9年が経とうとしているが、長年の拘禁生活の影響が色濃く残る。

事件から57年。
裁判をやり直すかどうか、東京高裁の判断がまもなく示される。

地裁は再審開始決定 高裁が取り消す

みそ会社専務一家4人殺害事件の現場(旧 清水市)
みそ会社専務一家4人殺害事件の現場(旧 清水市)

1966年6月、当時の清水市でみそ会社の専務一家4人が殺害された袴田事件。

逮捕当時、袴田元被告は30歳
逮捕当時、袴田元被告は30歳

従業員だった袴田巖元被告が死刑判決を受けたが、無実を訴え、裁判のやり直しを求め続けてきた。

静岡地裁が再審開始を決定
静岡地裁が再審開始を決定

加藤洋司記者
走り出てきます。幕を持っています。広げます。再審開始、再審開始です

2014年3月、静岡地裁は裁判のやり直しを認め、袴田元被告は48年ぶりに釈放された。

再審開始決定をうけ釈放される袴田元被告
再審開始決定をうけ釈放される袴田元被告

姉・ひで子さん
みなさま、本当にありがとうございます。再審開始でございます

「これ以上 拘置を続けることは、耐え難いほど正義に反する」
静岡地裁は、きわめて強い言葉で捜査機関を非難した。

静岡地裁「(犯行着衣は)ねつ造された疑いがある」
静岡地裁「(犯行着衣は)ねつ造された疑いがある」

静岡地裁が再審開始を決めた最大の理由は、犯行着衣とされた衣類についた血痕だ。
静岡地裁は、弁護側のDNA型鑑定をもとに、「(血は)袴田元被告のものとも、被害者のものとも言えない」とし、5点の衣類という最も重要な証拠は、「捜査機関にねつ造された疑いがある」と断じた。

東京高裁「弁護団のDNA鑑定は信頼性が低い」
東京高裁「弁護団のDNA鑑定は信頼性が低い」

これに対して、東京高裁は2018年6月、一転して再審開始決定を取り消す決定を出した。
弁護団のDNA型鑑定は、「信頼性が低く、新証拠になりえない」とした。

最高裁「5点の衣類 審理が尽くされていない」
最高裁「5点の衣類 審理が尽くされていない」

そして、弁護団の特別抗告をうけ、最高裁は2020年12月、「5点の衣類について審理が尽くされていない」と高裁に審理を差し戻した。
差し戻し審では、「血痕の色」を焦点に審理が続けられてきた。

犯行着衣の“血痕の色”をめぐり対立する主張

東京高裁で約2年にわたって再び行われた審理。
最大の争点は「犯行着衣についた血痕の色の変化」だった。

犯行時に着ていたとされる衣類の血には赤みが残る
犯行時に着ていたとされる衣類の血には赤みが残る

発見当時に撮影された写真を見ると、半袖シャツにもステテコにも大量の赤い血痕が付着しているのがわかる。この衣類が決定的な証拠となり、袴田元被告は死刑判決を受けた。

弁護団は「犯行着衣であるならば血痕の色は黒くなる」と主張、一方で検察側は「血痕は赤い可能性もある」と主張している。

衣類が見つかったみそタンク
衣類が見つかったみそタンク

5点の衣類が見つかったのは事件発生から1年2カ月後だ。みそを仕込む2メートル四方のタンクの中からだった。タンクは事件直後に警察によって捜索されたが、その時は何も見つからず、その後に新たなみそが仕込まれていた。

衣類が見つかったみそタンク
衣類が見つかったみそタンク

事件直後、タンクの中に残っていたみそはたったの80㎏。
なぜ、犯人は、少量のみそしか入っていない、すぐに見つかりそうなタンクの中に隠したのか。警察の捜索では見つからなかった衣類が、事件から1年以上たって、なぜでてきたのか。
弁護団は捜査機関による「ねつ造」と訴えている。

弁護団のみそ漬け実験
弁護団のみそ漬け実験

清水袴田救援会・山崎俊樹 事務局長:(2015年)
(検察側が)1年2カ月漬かったと主張しているような衣類が、短時間でもできるということです

弁護団は「ねつ造」を証明するため、支援者とともに、2000年頃から様々な条件で血の付いた布をみそに漬ける実験を行ってきた。

弁護団のみそ漬け実験
弁護団のみそ漬け実験

その結果、「みそ漬け衣類は短時間で作れる」、「みそに漬けられた時間が短時間であれば、血痕は赤みが残るものの、長時間 漬かると黒く変化する」という結論を導き出す。

差し戻し審では検察もみそ漬け実験

最高裁はこの血痕の色の変化について、「審理が不十分」と東京高裁に審理を差し戻した。

差し戻し審では検察もみそ漬け実験
差し戻し審では検察もみそ漬け実験

これを受け、今回の差し戻し審で検察側は独自にみそ漬け実験を行い、色の変化の検証を行った。
検察側と弁護側 それぞれの鑑定人の証人尋問が行われ、2022年12月に双方が最終意見書を提出して審理は終結した。

弁護側「1年以上みそ漬けすると、赤みは残らない」
弁護側「1年以上みそ漬けすると、赤みは残らない」

袴田事件弁護団・笹森 学 弁護士
(鑑定人は)血痕、血液を1年間もみそ漬けにしておけば、赤みが残ることはないという理屈、化学的機序について(裁判所に)説明してくださいました

弁護側は「1年以上みそ漬けされた衣類の血痕に、赤みが残ることはない。5点の衣類は犯行着衣ではない」と主張する。

検察側「長期間漬けられても、赤みが残る可能性はある」
検察側「長期間漬けられても、赤みが残る可能性はある」

一方 検察側は1年2カ月かけて行った実験の結果から、「長期間みそに漬けられた血痕に、赤みが残る可能性を示すことができた」と結論づけている。

弁護団「一番中心の証拠が崩れる」
弁護団「一番中心の証拠が崩れる」

これに対し弁護側の弁護人は…。

袴田事件弁護団・小川秀世事務局長
5点の衣類が犯行着衣でないことが明らかになって、一番中心の証拠が崩れるので、再審開始はほぼ間違いないと確信している

東京高裁の判断は3月13日
東京高裁の判断は3月13日

長時間みそ漬けになると血痕は黒く変化するのか、赤みが残るのか。
東京高裁が、最大の証拠の“犯行着衣”の信用性を見極め、再審の可否を決定する。
判断は、3月13日に示される。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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