今回を逃すと、二度と見られないかもしれない「ZTF彗星」が地球に近づいている。

彗星は二酸化炭素や一酸化炭素といったガス成分の氷と、塵や砂粒などが混じり合って固まった天体のこと。主成分が氷のため、太陽に近づくと表面はとけていくが、この時にガス成分が気体となって放出され、塵や砂粒などと一緒に飛び出てくる。

彗星の模式図 (引用:国立天文台)
彗星の模式図 (引用:国立天文台)
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そのため、地球の夜空では「ほうき」のような尾をひいて、ぼんやりと輝く姿で見えるという。

太陽に前回接近したのは“5万年前”

今回のZTF彗星(C/2022 E3)は2022年3月、米・カリフォルニア州のパロマー山天文台が発見。2023年2月時点では、太陽との接近を終えて遠ざかり始め、彗星としての活動も弱まってきているが、地球では見ごろを迎えるという。

国立天文台三鷹キャンパスで撮影したZTF彗星(引用:国立天文台)
国立天文台三鷹キャンパスで撮影したZTF彗星(引用:国立天文台)

地球に最接近するのは日本時間の2023年2月2日未明で、約4200万kmまで近づく。約5等級の明るさになるとみられ、十分に暗い空なら、肉眼でもぼんやりとした姿が見られるという。

見られる方角と明るさ※東京の場合(引用:国立天文台)
見られる方角と明るさ※東京の場合(引用:国立天文台)

観察できる方角は日時の経過によって変わるが、例えば、東京の2月1日夜~2日朝にかけてだと、北から北北西で確認できるという。

長周期彗星の軌道のイメージ(引用:国立天文台)
長周期彗星の軌道のイメージ(引用:国立天文台)

そして注目したいのが、観察や撮影できる機会の貴重さ。この彗星が太陽に前回近づいたのはなんと、5万年ほど前とみられるという。彗星は惑星の引力の影響で軌道が変化するため、将来的に太陽系から離れ、二度と帰ってこないと考えられるとのことだ。

星空ではどう見える?見間違えに注意

ただ幸いにも、今回は最接近を過ぎても観察のチャンスがあるという。観察、撮影でのポイント、楽しむための知識を、国立天文台の担当者に聞いた。


――今回のZTF彗星の規模や特徴を教えて。

経験則からですが、彗星の核(本体)の大きさは2~4km程度。ガスや塵が薄く分布する、ぼんやりと見える部分(通称:コマ)の直径は30~50万kmと思われます。地球から月までの距離が約38万kmというので、そのくらいですね。

彗星は数自体はありますが、多くはとても暗く、ニュースにもならずに遠くに行ってしまいます。今回のZTF彗星のように明るく見えるタイプは、そうそう訪れません。

実際に撮影されたZTF彗星(撮影:国立天文台・内藤誠一郎)
実際に撮影されたZTF彗星(撮影:国立天文台・内藤誠一郎)

――実際の夜空ではどのように見える?

彗星は望遠鏡などで拡大し、時間をかけて観察した場合に、星々の間を動いていくのがわかる程度の「大変ゆっくりとしたもの」です。惑星や星座の星はくっきり見えますが、彗星はほとんど動かず、ぼんやりとした見え方をするでしょう。肉眼で見ている間にも移動がわかるような光の点は、人工衛星や飛行機などですのでご注意ください。

ZTF彗星の位置が分かる星図(引用:国立天文台)
ZTF彗星の位置が分かる星図(引用:国立天文台)

――観察前にはどんな準備をしておけばいい?

最低でも15分程、暗さに目を慣らしてから観察しましょう。双眼鏡や望遠鏡を用意してもいいでしょう。彗星は移動するので、他の星との位置関係を星図で確認しておくと探しやすくなります。国立天文台のウェブサイトにある「ほしぞら情報」「今日のほしぞら」では、星図や彗星の位置を調べることもできます。

ZTF彗星をきれいに観察・撮影するポイントは?

――ZTF彗星の観察、撮影に適した条件(時間帯、天候、周囲の環境)を教えて。

時間帯は2月だと、夕方から深夜にかけてが観察に適した時間帯です。2月1日午後7時ごろ~3日午前3時ごろまでが、最も見ごろだと思います。彗星は姿がとても淡いため、天候は晴れが望ましいです。もや、薄雲があると見えづらくなります。

環境は、市街地から離れた暗い場所がお勧めです。市街地で双眼鏡などを使って観察する場合も街灯から離れ、暗い場所で見るとよいでしょう。暗い場所は危険もあるので足下を照らしたり、複数人で見るなど安全の確保に十分注意を払ってください。

一眼レフや双眼鏡などがあればよい(画像はイメージ)
一眼レフや双眼鏡などがあればよい(画像はイメージ)

――撮影に向いている機材、撮影のポイントは?

もしも肉眼で見えなくても、カメラだと写る可能性があります。撮影条件を設定できる、一眼レフやミラーレスのカメラが向いていると思います。暗いものが写るよう、感度(ISO)を高くする、シャッター速度を遅くする必要があります。ブレを防ぐため、三脚にカメラを固定する必要もあるでしょう。望遠レンズがあると写しやすくなると思います。写真だと緑かかって写るかもしれませんので、色にも注目してみてください。


――スマホでも撮影できる?望遠鏡ではどう?

スマホで撮影するのは簡単ではありません。小さくてかすかな姿になるでしょう。全くの無理ではありませんが、難易度が高いと思います。望遠鏡はより大きく詳しく見えますが、用意が難しいので既に所有しているならというところでしょうか。

2月2日以降も「10日間くらいは」チャンス

――最接近を過ぎても、観察や撮影はできる?

2月2日未明が一番明るくなると予想されますが、彗星はいきなり暗くなるものではないので、10日間くらいはチャンスがあると思ってよいでしょう。


――観察の際に楽しんでほしいポイントは?

彗星が淡い天体であることを体感していただければと思います。双眼鏡や望遠鏡でじっくり見ると、いびつな形だったり、ぼんやりとした中に構造が見えることもあります。彗星から少し長く伸びているような部分は「尾」と呼ばれる部分で、ここを観察してもいいでしょう。


――彗星に興味を持った人に伝えたいことは?

彗星は千差万別で、どう見えるのか予想しづらい不思議な天体でもあります。姿は見た時、その日限りのものですので、目に焼き付けるように観察してみてください。彗星に思いをはせることができる、貴重な機会と思っていただければうれしいです。

星撮り日記(nabe)さんが撮影したZTF彗星(提供:星撮り日記さん)
星撮り日記(nabe)さんが撮影したZTF彗星(提供:星撮り日記さん)

すでに、今回のZTF彗星は撮影報告が相次いでいる。望遠鏡で美しく撮影した、Twitterユーザーの星撮り日記(nabe)(@starphoto_nabe)さんに、撮影のコツを聞いたところ、やはり「街灯かりの少ないところに行くこと、事前にその日の位置を調べておくこと」が大事だという。

気になる天気だが、1日夜からあす朝は、関東から九州にかけて晴れる時間帯がありそう。一方、中国地方から東北の日本海側や北海道は雪の予報だ。
なお、全国的に北風が強まり、体感温度が低くなるので、晴れる所でも天体観測は身体を冷やさないようにしてほしい。

肉眼や双眼鏡で観察するのもよし。カメラや望遠鏡で撮影に挑戦してもよし。貴重なこの機会を楽しんでみてはいかがだろうか。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。