長期金利は上限突破「0.545%」に

長期金利が、13日、日銀が上限として許容する水準「0.5%」を大きく超えた。

債券市場では、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが、1月6日から12日まで4営業日連続で0.5%の上限に達していたが、13日朝、上昇の勢いは一段と強まった。

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午前9時過ぎに、0.5%を上回ったあと、午前10時45分頃、一時、「0.545%」と、2015年6月以来7年7カ月ぶりの高い水準となった。

これに対し日銀は、0.5%の利回りで10年物国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」に加え、臨時の国債買い入れを断続的に実施し、13日は5兆円あまりの国債を買い入れた。1日の買い入れ額としては過去最大だ。

長期金利はやや下がったが、上限の0.5%の水準にはりついたままの状態が続いた。日銀は、臨時買い入れを16日も実施することを予告し、売り圧力への防戦に追われている。

日銀「さらなる緩和修正」の観測

景気下支えのため大規模緩和を進めてきた日銀は、短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に誘導する方針のもと、「長短金利操作」を実施し、金利を低く抑えようと、大量の国債の買い入れを続け、長期金利については、一定の変動幅を認めたうえで、2021年3月に上限を「0.25%」とした。

2022年は、後半にかけ、アメリカやヨーロッパで利上げが進み、日本との金利差が開いて円安が加速した一方、海外発で金利全体が上がっていく傾向が強まるなかで、日銀が操作目標にしている10年金利だけが低くなって金利構造に“ゆがみ”が生まれた。

日銀以外の参加者の間で10年物国債の取引が成立しない日が続いたほか、企業の社債発行にも影響が出るなど、日銀の緩和策の副作用によるデメリットを指摘する声が相次いでいた。

こうしたなか、2022年末に日銀は金融政策の修正を行って、長期金利の上限を「0.5%」に引き上げたのだ。

売り圧力への防戦に追われる日銀

日銀は10年物国債を0.5%の利回りで無制限で買い入れる「指し値オペ」を実施している。金利が上がれば、国債の価格は下がる関係にあり、市場で0.545%で売却するより、日銀に0.5%で売ったほうが、本来は高い価格で売却できる計算になる。

しかし、日銀がこの先、政策を修正すれば、長期金利はさらに上昇して国債価格は下落するだろうから、それを見越して国債を売っておこう――そうした思惑が長期金利を押し上げている。

国債を借りて「空売り」をしておけば、国債の利回りが上昇したとき、買い戻しにより利益が得られる。海外の投機筋の売り圧力も、金利押し上げの要因となっている。

物価上昇見通しは2%近辺に?

日銀は、政策を再び修正するのか。

金融政策決定会合の後、記者会見に臨む日銀・黒田総裁(2022年12月20日)
金融政策決定会合の後、記者会見に臨む日銀・黒田総裁(2022年12月20日)

2022年末、長期金利の上限を引き上げることを決めたあとの会見で、黒田総裁は「金融引き締めではない」と強調したが、市場では「事実上の利上げ」と受けとめ、日銀がさらに一段の利上げに向けた動きに踏み出すのではとの観測を強めている。

日銀が、黒田総裁のもとで金融政策を決める会合はあと2回だ。今週17日(火)18日(水)に開催される会合では、今後の物価上昇率の見通しも示される。

これまで、2023年度、2024年度は1.6%としてきたが、2%近辺に引き上げるのかが焦点で、目標としてきた「2%」に近くなったり、上回ったりする水準になれば、緩和修正への圧力がさらに増す可能性がある。

今週は、日銀の動きに大きな関心が集まることになる。

(執筆:フジテレビ経済部長兼解説委員 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員