ロシアによるウクライナ侵攻で食料価格の高騰や供給不安が世界で広がるなか、日本からの緊急人道支援を迅速かつ効果的に届けることを目的とする「ジャパン・プラットフォーム」(以下JPF)が、中東・アフリカ地域の食糧危機についての勉強会を12月に開催した。

勉強会では、子供の支援活動を行う国際的なNGO団体「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」や、テロと紛争の解決に取り組む「アクセプト・インターナショナル」の代表者らが、アフリカのマダガスカルやソマリアでの支援活動について現状を報告した。

止まらぬ気候変動の“負の連鎖”

マダガスカルでは、水を確保するために井戸を目指して7kmの距離を歩くという。女性や子供たちは洗濯物を洗うためバケツを持って、2日に1回のペースで水を汲みに行く。

水を汲みに行く子供たち  ⓒSave the Children
水を汲みに行く子供たち  ⓒSave the Children
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「生活はすごく困難、その中でも明るさがある」。そう語るのは、セーブ・ザ・チルドレンの加藤笙子さんだ。加藤さんは「歩きながら歌を歌ったり、写真を撮っていいかと尋ねたら、ポーズをとってくれた」と話す。

加藤さんがマダガスカル南部の村に初めて到着したとき、目も開けられないぐらいの砂嵐が発生していた。気候問題はアフリカの食糧危機において大きな要因の一つだ。砂嵐が農作物を育てるのに大きな影響を及ぼしているという。

サボテンの実ーこの実が1日の食料となる家庭もある  ⓒSave the Children
サボテンの実ーこの実が1日の食料となる家庭もある  ⓒSave the Children

子供たちは収穫できた貴重な果物をバケツの中に入れて、水を汲みに歩く道中で食べたり、売ったりして生活していると、加藤さんは現地の状況を伝えた。

40年続く干ばつはここ10年間でさらに深刻化していて、農作物も家畜も育てられない。希少な雨が降ってもすぐに土地が乾いてしまう。さらに、サイクロンが農地を流していく。2022年1月から4月にかけても5つのサイクロンが直撃したという。気候変動の負の連鎖が止まらない。

その犠牲になっているのは子供たちだ。栄養不足による心身の発達への影響にとどまらず、食事を得るために労働に従事させられ、教育機会が奪われている。お金を得るために売買される子供もいるという。

ウクライナ侵攻で供給網がストップ

食糧危機の理由は干ばつだけではない。紛争により食糧が行き届かないケースもある。

例えば、ソマリアでは、紛争の影響で国内での食料生産や物流が限られている。他国からの輸入物資がライフラインなのだが、厳しい状況に追い打ちをかけるように、3月に黒海で穀物輸出ルートが封鎖された。小麦の9割はロシアとウクライナからの輸入に頼るなかで、重要な供給網がストップしたのだ。

刑務所で行われる元テロリストへの“脱・過激化”セッション  ⓒAccept International
刑務所で行われる元テロリストへの“脱・過激化”セッション  ⓒAccept International

国際NGO「アクセプト・インターナショナル」の山﨑琢磨さんは、ケニアやソマリアで活動を行ってきた。現地の若者がテロリストやギャング組織へ入会しないよう防止する活動や、組織から離れて社会復帰できるようにカウンセリングやジョブマネジメント研修などの更生支援をしている。

「できる、できないではない。問題を解決するために、私たちは何をすべきなのか?」「ニーズが高いにも関わらず支援から取り残されている人や地域、分野はないだろうか?」山﨑さんは問う。

「支援ができる・できない」の判断は「支援が必要か・必要ではないか」という見方とは大きく異なる。可能性で判断してしまうと、支援を必要としているにも関わらず、見つけてもらえない、手を取ってもらえない人が必ず出てくるのだ。

山﨑さんは、心に残った出来事として、長期にわたって支援してきた元ギャングの男性が映画俳優になったことを挙げた。

「社会から疎外され、ギャングになっていた同世代の若者が才能を開花させ、立派な映画館でハリウッド俳優とも共演している様子を見て大変誇らしかった」

日本の拠出金を確実につなげる

日本政府は8月、アフリカに対し、官民合わせて総額300億ドル(約4兆円)の資金投入を今後3年間で行うと明らかにした。インフラ設備や人材育成などの支援に投資するとしている。

コロナ禍やウクライナ侵攻で、それぞれの国で不安が高まるなかの多額の拠出表明に批判的な声もあるかもしれない。しかし、食料安全保障の上でアフリカにとって各国からの財政支援は欠かせない。

マダガスカルの市場  ⓒSave the Children
マダガスカルの市場  ⓒSave the Children

JPF渉外広報部の森山俊輔さんによると、日本政府からの中東・アフリカ食糧危機への資金拠出のうち、JPFには2022年に1000万ドル(約10億8000万円)が拠出された。資金は現在11カ国12団体で食糧危機の支援活動に使われている。実際に、セーブ・ザ・チルドレンは2020年10月からJPFからの資金を運用し、食料配布や医療提供、電気がなくても行える調理方法や栄養摂取の仕方を指導しており、現地への支援に着実に繋がっている。

一方で、支援が届いてない地域や分野は多い。セーブ・ザ・チルドレンの加藤さんは、「車両で行くことができない遠方の地域にも支援を行っているが、インフラも整ってなくあらゆる支援が不足している」と厳しい現状を明かす。

日本からの財政支援は国際協力機構(JICA)や国連機関を通して活用されているが、セーブ・ザ・チルドレンやアクセプト・インターナショナルなどのNGO団体は、国連機関が支援を届けることが難しい地域にも支援を行っているという。加藤さんは「SDGsのスローガンである「誰一人として取り残さない」という点からも、NGOへの拠出を増額していただきたい」と訴える。

栄養失調により歩行が困難になった子どもに緊急支援  ⓒAccept International
栄養失調により歩行が困難になった子どもに緊急支援  ⓒAccept International

支援を必要とする人々に確実に届けるにはどうするべきか。「食べる」ことは「生きる」ということだ。シンプルだけど単純な構造ではない。しかし、食料を手にすればその先に彼らの未来は大きく広がっていく。

(フジテレビ国際取材部・石黒綾菜)

国際取材部
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