資産運用として投資を始めたいと考えている若者もいるだろう。
株式投資では通常、売買の金額や回数によって手数料が発生する。ところが、ネット証券ではこうした費用を無料化する流れがある。

GMOクリック証券では、2022年12月5日から、27歳以下の株式取引手数料を無料とした。これまでも1日定額プランでは年齢に関係なく1日あたり100万円までの取引は手数料が無料だったが、27歳以下ではこの金額に上限がなくなったことになる。

公式サイトの掲載内容(GMOクリック証券のサイトより)
公式サイトの掲載内容(GMOクリック証券のサイトより)
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手数料は契約のプラン、約定(売買)代金などで変わるが、数十円から数百円程度、場合によっては1000円以上かかることも考えられるので、それが無料になるのはありがたい。ただし、今回無料になるのは現物取引の売買に限られ、信用取引の売買は対象外。それぞれの取引には以下のような違いがある。

・現物取引=自己資金のみでの運用する方法。元手以上の金額を取引することはできない。売却できるのは保有する株式のみ。

・信用取引=自己資金を担保として証券会社から資金や株式を借りて運用する方法。元手以上の金額(約3倍まで)を取引できる。保有していない株式を売却し、後から買い戻すこともできる(空売りと呼ばれる)。

こうした手数料の無料化、実はネット証券で広まりつつある。手数料体系は各社で異なるが、1日100万円の取引までを無料としたり、25歳以下は無料とするところもある。証券会社としては収益の減少につながりかねないが、なぜ進んでいるのだろう。

成人以降の「10年」を考えて無料

GMOクリック証券によると、同証券の顧客は20代が約6%、30代が約24%、40代が約30%、50代が約22%、60代が約11%、残りがその他。ミドル層が目立っている。(2022年6月時点) 

GMOクリック証券の顧客層(GMOフィナンシャルホールディングスの決算資料より)
GMOクリック証券の顧客層(GMOフィナンシャルホールディングスの決算資料より)

今回の手数料無料化でどんな影響を期待しているのだろう。27歳以下の年齢設定にはどんな意図があるのだろうか。GMOクリック証券の担当者に聞いた。


――27歳以下の手数料を無料としたのはなぜ?

より多くの方々が、資産形成によって人生の選択肢の幅を広げることができ、より豊かな人生を実現していただくことができるよう、日本で投資の裾野を広げたいと始めました。何事も体験から学ぶことは大切ですが、投資でも同じだと考えています。

若い時は投資に回せるお金がない、投資に対する不安を覚える人もいると思いますが、若い頃に投資を体験して経験値を積むことで、年齢を重ねてきてからの資産運用で、より適切な選択ができるようにもなるのではないか。今回の手数料無料化が、若い人たちが投資のはじめの一歩を踏み出すきっかけになればと考えています。


――対象年齢を「27歳以下」とした狙いは?

2022年は成年年齢が18歳に引き下げられ、証券口座も親の同意がなくても作れるようになりました。そこからの約10年間は無料にしようということで、27歳に設定しました。

株式は保有による恩恵もある(画像はイメージ)
株式は保有による恩恵もある(画像はイメージ)

――無料対象を現物取引のみにしたのはなぜ?

信用取引は、現物取引に比べると、リスクが高いので、初心者がいきなりリスクの高い取引をされるのは好ましくないと、対象外にしました。また、株式は現物取引で保有していると、株主総会での議決権、株主優待の権利も受け取れます。これらも大事な投資体験ですので、現物取引で経験してほしいと思いました。

若者でも投資を通じて、企業や社会とのつながりを持てる

――今回の無料化でどんなことを期待している?

資産形成のための投資は、何も特別なものではなくて、生活の延長線上にあるものであるとも思っています。株は価格の動きだけを見るのではなく、企業の業績、その会社で働いている人たちがどのような思いを持っているか、将来性などで選ぶことも大切です。投資を通じて、企業、社会とのつながりを持つことができる、それがめぐって日常が少しでも豊かになることを期待しています。

就職活動の経験も投資に活かせるという(画像はイメージ)
就職活動の経験も投資に活かせるという(画像はイメージ)

――27歳以下にはどう活用してほしい?

株式の商品は大きく分けて、個別株と投資信託があります。個別株は自分で企業を選んで株を買う、投資信託はプロに運用を任せるものです。一般的に投資信託が初心者向けと言われますが、個別株にも挑戦してほしいです。個別株は購入の過程で経験を積めますし、株主総会の議決権、株主優待も受けられます。20代は就職活動で、色々な企業分析をするタイミングでもあると思うので、投資での企業分析にも活かせる部分がたくさんあると思います。若いからこそ、体験してみてほしいですね。


――証券会社としては利益減につながらないの?

無料にした分の利益は減りますが、日本中に投資経験が広がれば、業界全体のメリットになります。投資が当たり前の社会になれば、当社にもビジネスチャンスが広がっていくと考えています。

投資で「儲かった、損した」で終わらずに振り返りを

――手数料の無料化がネット証券で進むのはなぜ?

20数年前までは、個人投資家は対面証券まで出向いて株を売買していましたが、そこにネット証券が誕生して、もっと安い手数料で、インターネットでどこにいても手軽に投資ができるようになりました。そして、昨今ではインターネットでの取引が主流になる中、FinTech企業の金融業界への参入も増えています。証券会社のビジネスは他社との差別化が難しいので、各社ともに顧客の囲い込みをより重視しているのではないでしょうか。

増えた、減ったで終わらずに振り返りを(画像はイメージ)
増えた、減ったで終わらずに振り返りを(画像はイメージ)

――投資に興味を持った人へのアドバイスをお願いしたい。

投資に「必ず」はありません。儲かることもあれば、損をすることもあります。大事なことは投資の振り返りをすることです。資産が増えたなら、時期やタイミング、銘柄の選び方などが良かったのか。逆に資産が減ったのなら、何が良くなかったのか。

資産が増えて「良かった」、減って「もうやらない」では、そこで終わってしまいます。この指標を参考にしてみよう、ここを改善しようといった行動を続けると投資の経験値も増えます。その積み重ねが資産形成につながり、人生の財産にもなるのではないでしょうか。


27歳という年齢設定には、成年年齢が18歳に引き下げられたことが影響していた。投資の裾野を広げたいという証券会社側の思惑があったが、手数料がかからないのは利用者にとって運用上のメリットでもある。興味を持った人は基礎知識やリスクを理解した上で、商品の特徴や恩恵を調べてみてもいいかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。