手話サークルへの若者の問い合わせが増えている。聴覚障がい者の恋愛を描いたフジテレビ系列のドラマ「silent」が人気で、関心をもったようだ。聴覚障がい者の皆さんも「手話が通じる人が増えてくれるといい」と、歓迎している。
ドラマで若者の問い合わせ増加 聴覚障がい者も歓迎
静岡市の手話サークル「するがの会」。
1970年(昭和45年)に設立された、静岡県内でも歴史ある手話の団体だ。

会員数は2022年12月現在80人で、障がいの有無を問わず手話を用いてコミュニケーションを行い、週1回 楽しみながら手話を学んでいる。

そんな手話サークルに、最近ある変化が起きているそうだ。
2022年10月から、若い人からの問い合わせや見学者が増えているという。取材した日も、20歳の大学生が見学に訪れていた。

見学した大学生:
もともと特別支援教育を勉強していて手話に興味を持っていたのですけど、やっぱりドラマの影響かな。「きょうだ」と決めて見学に来ました
影響を与えているドラマが、2022年10月からフジテレビ系列で放送されている「silent(サイレント)」だ。 聴覚障がいを題材としたラブストーリーで、手話を交えた熱演が話題となっている。

11月下旬にマーケティング会社が発表した、10代後半から20代前半にあたる、いわゆる「Z世代」のトレンドランキングで、2022年のドラマ・映画部門で1位になるなど話題の作品だ。
ドラマを通じて手話への注目が高まることを、聴覚障害者も好意的に受け止めている。

するがの会・桑子 照雄 会長:(手話)
だんだんドラマの影響で、(手話サークルに)来る方が増えていくのかなと思っています。良いことだと思います。理解してくれる方が増えて、手話が通じる方が増えてくれるといいなと思います
「障がいが見えづらい」聴覚障がい者の困惑
この影響を前向きにとらえている1人が、静岡市の杉山実沙さん(20)だ。

天真爛漫で笑顔が印象的な杉山さんは声でも会話をすることができ、一見 障害がないように見えるが実は「難聴」の障がいを持っている。

するがの会・杉山実沙さん:
(障がいに)気づいたきっかけは、小学校に入る前の健康診断で初めてわかった。もともと補聴器をしていなかった時は、周りは聴覚障がいとして対応してくれなくて大変だった
それでも杉山さんのモットーは…

杉山実沙さん:(手話)
とりあえず興味を持ったことはやる! 行く!
自社開発のコミュニケーションアプリに意見
家電メーカーに勤務する杉山さん。

普段は事務を担当しながら、「しゃべり描き」という聴覚障がい者と健常者のコミュニケーションを助けるアプリの改善にも携わっている。

杉山実沙さん:
ふつうの会話だったらポンポンとやりとりできるけど、(このアプリだと)手間があるのでその分 (やりとりの)ラリーがゆっくりになる
忌憚のない意見をぶつける杉山さんのまっすぐな姿勢は、自然と周囲をひきつけていた。

「しゃべり描き」アプリ開発者・平井 正人さん:
僕たちが作ったものに遠慮なく、良いところも悪いところも言ってくれるので、僕らとしてはとても参考になる。耳が聞こえるとか聞こえないとか全然関係なく、一緒に仕事したりおしゃべりしたりが楽しいです
「偏見がなくなれば良いな」
普段から、会員同士で積極的なコミュニケーションを図っている杉山さん。
11月23日、サークルの先輩たちを招いた交流会を開催した。

するがの会・石井 清五郎さん:(手話)
ろう者が困っているのは何かというと、マスクをして手話をしても通じないことがある。少し距離をとってでもマスクを外してしゃべる、そういう交流の仕方をしてもらった方がわかります
相手のことを知りたいと思う強い気持ちがあるのは、大勢の友達が杉山さんを支えてくれたことも影響している。

杉山実沙さん:
(Q苦しい思いをしたことは)めっちゃある。本当に周りにはわかってもらえない、“見えない障がい”という感じだった。でも本当に友達には恵まれていた
他の人から見えづらい「聴覚障がい」。
その辛さを友人たちのサポートで乗り越えたからこそ、人と人とのつながりの大切さを実感している。

するがの会・杉山実沙さん:
他のろう者と健聴者の友達が話してくれることがうれしいです。聴覚障がいだけに限らず、視覚や知的な障がいなどに対してまだまだ偏見があると思います。偏見がなくなれば良いなと思います
手話に限らずまっすぐに向き合い、相手を知ろうとする杉山さん。
杉山さんのような積極的な姿勢が、支え合う現代社会には何より欠かせないものなのかもしれない。
(テレビ静岡)