敵に反撃できることになったが

自衛目的で敵のミサイル発射基地を攻撃する「反撃能力」を保有することで与党は2日正式合意し、これで国家安全保障戦略に反撃能力の保有が明記されることになる。ただ僕の素朴な疑問は「必要最小限」でいいのかということなのだ。

自民・公明合同の外交安全保障に関する実務者協議(2日)
自民・公明合同の外交安全保障に関する実務者協議(2日)
この記事の画像(4枚)

政府は与党の公明党に対し1日、反撃能力については「自衛権行使の3要件」のもとで国会の承認を求めることなどを示し、公明党は反撃能力保有を大筋容認した。

公明党内には敵の攻撃の着手をどう判断するのかについて、「明確化」を求める声があったのだが政府の「個別具体的に判断する」とのこの日の説明に異論は出ず、ちょっと拍子抜けだった。公明支持者の5割近くが反撃能力の保有に賛成しているということが大きかったのだろう。

「必要最小限」はいらない?

野党では日本維新の会と国民民主党がすでに反撃能力を容認している。共産党が反対するのはわかるが、立憲民主党はもし政権政党であり続けるつもりなら容認せざるを得ないだろう。

今週の国会審議では立憲の議員からは反撃能力の行使について「慎重」な対応を求める声が多かった。ただ政府が決めた反撃能力行使の3要件は①日本の存立が明白に危険②国民を守るために他に手段がない③必要最小限、となっているので十分抑制的だと思う。

岸田首相への質問で「必要最小限を強調する必要はない」と主張した維新・青柳仁士議員(衆院予算委・11月29日)
岸田首相への質問で「必要最小限を強調する必要はない」と主張した維新・青柳仁士議員(衆院予算委・11月29日)

国会の議論で僕が「おっ」と思ったのは維新の青柳仁士議員が「抑止力が重要となる中で必要最小限を強調する必要はない」と主張したことだ。これに対し岸田文雄首相は「必要最小限との見解を変更する考えはない」と答えた。

殺人鬼が家族に襲いかかってきたら

日本は自ら攻撃はしないが、もし相手に攻撃されたら反撃する。国民の命を守るために当然のことだ。例えば家族と道を歩いていて、凶悪な殺人鬼が襲いかかって来たらあなたはどうする。相手がナイフを振り回し、もしこちらが銃を持っていたら躊躇なく撃つでしょう。その時に「必要最小限」などとは考えないはずだ。

相手が亡くなって遺族から過剰防衛だと訴えられるかもしれないが、「明白に危険」な状況で「家族を守る」ために必要最小か最大かなど考えている時間はないだろう。まさに「個別具体的に」反応して反撃するしかない。反撃の手をあらかじめ縛ってはいけない。

国家安全保障戦略は年内に決定される。防衛省は敵の攻撃に実際に反撃するために長射程の「スタンドオフミサイル」として陸自の「12式地対艦誘導弾」の射程を現行の百数十キロから中国大陸まで届く1千キロ以上に伸ばすほか、米国からトマホークミサイルの購入も検討している。

安倍元首相が進めてきた日本の防衛力強化の今後は…
安倍元首相が進めてきた日本の防衛力強化の今後は…

亡くなった安倍晋三元首相が進めてきた日本の防衛強化はこの「反撃能力の保有」によってさらに進むことになるのだが、岸田首相はじめ政治家の皆さんには今後も「国民の命をどうやって守るか」ということを考えてほしいのだ。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。