2023年春にも、日本で初めて“肥満改善薬”が薬局で買えるようになる見通しです。いったいどんな薬なのでしょうか。

“肥満改善薬”「アライ」承認へ 処方箋いらず薬局で購入可能

11月28日に行われた厚生労働省の専門家部会で、国内初の“肥満改善薬”の承認が了承されました。2023年3月にも正式に承認される見込みです。

この記事の画像(11枚)

現在日本で承認されている“肥満改善薬”は1種類のみです。ただしこれは、医師の処方が必要となっています。
しかし今回新たに承認される見込みの“肥満改善薬”は、処方箋なしで、薬局で購入可能です。

その薬が大正製薬の“肥満改善薬”「アライ」。
効果は「脂肪の吸収を抑制」。容量は1回1錠で、用法は1日3回食事中か食後1時間以内。前提として、生活習慣改善と併せて補助的に使用するものとなっています。

「アライ」が承認されることについて、日本肥満学会のメンバーで、肥満症について20年以上研究・診察をしている、水道橋メディカルクリニックの砂山聡院長に話を聞きました。

水道橋メディカルクリニック 砂山聡 院長:
現在日本で承認されている“肥満改善薬”は12週間しか使えません。中枢に効くような薬は少し副作用がある薬なんです。
今回の「アライ」は長期にわたって、1年以上使える薬と言われていますので、こういった形で出てくるということは喜ばしいことです。

臨床試験では偽薬と比べ約2倍の効果

臨床試験での効果はというと…

前提条件として、運動や食事の質など生活習慣の改善に取り組みながらの服用ですが、約1400人が参加した海外の臨床試験では、有効成分が入っていない偽薬を服用した人は約1年後の結果が体重平均2.3kg減、「アライ」を服用した人は平均4.8kg減。

参加者200人の日本の臨床試験では、約半年後の結果が、偽薬が平均1.0kg減、「アライ」が平均2.2kg減と、「アライ」を服用した場合は約2倍の効果がありました。

脂肪分の分解を阻害 脂肪になるのを防ぐ

そもそもどうやって、脂肪がついていくのか。脂肪分を吸収するメカニズムはこうです。

一般的に腸内では、食物を食べると、脂肪分解酵素が食物の脂肪分を細かく分解します。分解されて初めて細胞に吸収され、これがたまって脂肪になっていきます。

しかし“肥満改善薬”を服用すると、脂肪を分解する脂肪分解酵素の働きが阻害され、脂肪は分解されず大きいままになります。すると、大きな脂肪分は細胞内に入れず、吸収されないまま脂として体外に排出されるというメカニズムです。

日本肥満学会の横手幸太郎理事長によると、“肥満改善薬”「アライ」は飲んでも体内にはほとんど吸収されないといいます。つまり、中毒性の懸念は弱く、体への害は少ないと考えられるということです。

18歳以上・メタボ基準の腹囲以上の人が対象

しかし、「アライ」は誰でも服用できるわけではありません。

服用できるのは、18歳以上と決められています。
また、腹囲は男性が85cm以上、女性が90cm以上と、メタボリックシンドロームの基準と同じです。加えて、高血圧や脂質異常などの健康被害を伴わない肥満の人に限られます。

購入の際は必ず薬剤師の指導を

また、薬局で購入する際も注意すべき点があります。

「アライ」は薬剤師による対面での情報提供・指導が義務づけられる「要指導医薬品」に指定されており、オンライン購入はできません。
薬局で購入する場合、服用1カ月前から腹囲・体重などを記録し、薬剤師のチェックを受けなければなりません。
さらに、6カ月服用して効果がない場合は、使用中止を求められることもあります。

下痢などの副作用に注意 痩せ型の人は健康リスクも

また、副作用にも注意が必要です。

脂肪を吸収せず便として排泄するということで、下痢や軟便、油を伴う放屁などの排便関連症状が出ることがあります。

海外の報告では、成分量の違う薬剤を含めたデータで、“脂溶性ビタミン”(ビタミンAやK)が不足しやすくなるといったことがあります。このことからマルチビタミンの摂取が推奨されています。

日本肥満学会の横手理事長によると、痩せ型の人が使用した場合、免疫力低下や骨粗しょう症など健康被害のリスクもあるので、薬剤師による見極めが重要だということです。

副作用はどの程度起きる可能性があるのでしょうか。

水道橋メディカルクリニック 砂山聡 院長:
脂肪分による下痢ですが、これはほぼ必発だと考えていいかと思います。程度次第なんですけれども、特に脂分が多い食事をとると、特にひどい下痢になる脂肪分になります。
以前、類薬の治験に参加したことがあるんですけれども、その時は脂分を取ると下痢がひどくなるのでそれを避けようとして脂分を控えるという方が多く見られます。
他には特に大きな副作用はないかと思います。

価格はどうなる?

そして、気になるのはやはり値段。
大正製薬に聞いたところ、「販売戦略上、回答は控えさせていただきます」とのことで、回答は得られませんでした。
ただ、アメリカでは60錠(20日分)で約44ドル(約6120円)で販売されています。日本でも海外と同じような値段で販売されるのでしょうか。

水道橋メディカルクリニック 砂山聡 院長:
今回の販売の形態が市販薬です。処方薬と違って、薬価という形では決まらないと思います。仕入れ値に基づいてそれぞれの薬局が決めるという形になると思います。
今回、薬の処方だけではなくて、指導というのがパッケージになっているので、その辺の手間賃を上乗せする形になると思います。ですから、ちょっと高くなるのではないかと思います。

“肥満改善薬”には元々ついている脂肪をそぎ落とす効果はなく、食事の改善や運動をしながら併用して服用することが重要です。むやみに購入・使用することのないよう、きちんとした管理ができる環境作りも大事になっていきそうです。

(めざまし8「わかるまで解説」12月1日放送)