東日本大震災で被災した宮城、岩手、福島の今を伝える「明日への羅針盤」、今回は宮城から。津波で住宅の8割が全壊した宮城県石巻市雄勝町で親元を離れた子供たちが1年間の「漁村留学」をしている。留学を通じて成長する子供たちは、地域にとっても大きな刺激となっている。

都会から初めての漁村留学

宮城県石巻市雄勝町にある複合型体験施設「MORIUMIUS」。ここで暮らす子供たちが漁村留学生。東京・神奈川・大阪と三人とも家族と離れ一人で雄勝にやってきた。

この記事の画像(13枚)

梅島三環子 アナウンサー:
初めての漁村留学、なんで来ようと思った?

神奈川から 川村貴羽さん(中一):
自立する力を身に付けたいと思ったのがきっかけです

東京から 安達遥さん(中二):
都会ではできない経験が一番大きいと思う

大阪から 参河遼さん(中一):
モリウミアスでは、山とも多く触れ合える

今年度から、公益社団法人が始めた漁村留学の取り組み。子供たちは施設で共同生活を送り、炊事・洗濯・掃除など身の回りのことを全て自分で行う。企画した担当者は留学の狙いについてこう話す。

MORIUMIUS 安田健司さん:
ここで一年間、子供たちと一緒に過ごしながら、彼らの生きる力を育めたらいいなと思ってやっている。いいところ、悪いところ両方を自分たちで受け止め合って、コミュニケーションをとっているし、すごく関係性を築く過程を見させてもらっている

梅島三環子 アナウンサー:
子供たちは震災後に建設された小中一貫校、雄勝小中学校に通っています。ここで地元の子供たちと一緒に学校生活を送っています

最大21メートルの津波に襲われ、大きな被害を受けた雄勝地区の小学校と中学校。雄勝小中学校は、そのあとを引き継ぐ小中一貫校として、2017年、雄勝湾を望む高台に建設された。学校に通うのは33人。そのうち中学生は3人の留学生を含めた10人。留学が始まってわずか半年でも、留学生と地元の子供たちとの間には信頼関係がしっかり築かれていた。

地元の生徒:
一人増えたことによって新しい思い出などできるようになって楽しい
都会(出身)だから頭の考え方が違うのが面白い

地元の生徒:
一つ下に後輩ができたのが初めてで、女の子が入ってきたことがとてもうれしくて、仲良くできたのがとてもうれしい

担任の先生は、雄勝で生まれ育った子供たちの変化を感じていた。

雄勝中学校 小出菜摘 先生:
新しい子が入って、人とのコミュニケーションや関わり方のいい練習になっていると感じている。雄勝の子たちが経験していないことをたくさん経験している子供たちなので、いろいろ刺激をもらうことが多い

雄勝の外からやってきた留学生と過ごす日々。雄勝の子供たちにとっては、ふるさとの魅力を改めて知るきっかけにもなっているという。

雄勝中学校 小出菜摘 先生:
きょう、海キラキラしているねと話をしても見慣れているしという反応で終わったりする。モリウミアスから通っている子供たちは具体的な雄勝の魅力を語ってくれるので、改めて自分たちの地元がいいところと実感しているような気がします

漁村留学がつなぐ地域の輪

休日に留学生の子供たちを追ってみると、地元の漁師と一緒に漁業を体験していた。休日を含め、日常の過ごし方は子供たちで話し合い決めている。今回は漁師の協力のもと民泊をしながら、地元の暮らしや仕事を体験していた。

この日は地域の住民などと一緒に雄勝で栽培されたオリーブの収穫にも取り組んだ。震災前の2010年、人口が4000人を超えていた雄勝地区。2022年10月末の人口は1074人と4分の1に減った。外からやってきた子供たちの存在は、地域にとっても大きな意味があるようだ。

地元の人は:
子供たちが増えることは地域の明るさにもつながるし、子供の声も聞こえる。今までは年寄が多いから、やっぱりいいですよね。子供の声って

地元の人は:
雄勝という地域を続けていくには、外の方の力が無いと続かない。希望そのもの、子供は

漁村留学は雄勝にやってきた子供たちにとっても、迎え入れる地域にとっても貴重な機会を与えてくれている。

大阪から 参河遼さん(中一):
家族だけでなく、いろいろな人から刺激をもらって考え方も変わってきた

東京から 安達遥さん(中二):
自分の地域は人が多いので、他人感が強いけれど、ここは地域一帯が家族みたいで優しさが伝わってくる

神奈川から 川村貴羽さん(中一):
一人で暮らしていく力をつけたり、神奈川ではできないことにチャレンジすることが身に付いたと思う

漁村留学がつなぐ地域の輪。津波で傷ついた被災地を未来へ導く力になるかもしれない。

(仙台放送)