先日開幕したCOP27でも注目された、地球温暖化による南極への影響。
いま南極の氷はどうなっているのか、これからどうなるのか。そんな南極の異変も探るのが、「南極観測隊」の調査です。南極の氷を調べれば、地球の未来が分かるというのです。
11月11日に南極観測船「しらせ」が日本を出発するのを前に、今回の調査に同行取材するフジテレビの大塚隆広記者に話を聞きました。

南極観測隊に同行 観測の最前線を取材

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まず、今回の南極観測船「しらせ」が辿るルートです。
11月11日に日本を出発した後、南下し、赤道を渡って26日にオーストラリア・フリーマントルに入港、必要物資を補給します。そして南緯55度を通って、12月23日ごろに南極・昭和基地に到着予定です。
夏隊は2023年までの約4カ月、越冬隊は2024年3月までの約1年4カ月という長期的な調査を行います。

今回、フジテレビの大塚隆広記者が南極の調査に同行。なぜ同行することになったのでしょうか。

南極調査に同行するフジテレビ・大塚記者
南極調査に同行するフジテレビ・大塚記者

フジテレビ記者 大塚隆広:
温暖化による海水面の上昇と異常気象は世界各地で起きていますが、この要因が南極の氷が解けているためと見られているからです。しかし、南極で調査・研究が始まったのは60年くらい前からで、まだまだわかっていないことだらけなのです。日本の南極観測船に同行して、観測現場の様子や、現在進行形の研究の最前線を見てこようと思っています。
通常はオーストラリアまで飛行機で行き、そこから「しらせ」に乗船するのですが、今回コロナ対策もあり、日本から「しらせ」で出発することになっています。日本から「しらせ」で南極に行かれたことがある、元越冬隊長・三浦さんは「『しらせ』に乗って南極まで行くと、地球の良さを感じることができた」と話してくれたので、私も地球の良さを感じながら南極を目指そうと思っています

24年で日本の生活水192年分が…環境変動「積み重ねの調査・研究が重要」

今回の南極地域観測隊の一番の目的は、地球の環境変動についての調査・研究です。生物・氷・オーロラ・隕石・大気など、様々なものを日本は60年以上にわたって観測してきました。1982年には、日本の観測隊がオゾンホールを世界で初めて発見しています。

温暖化の影響で南極の氷が減少していると言われていますが、どのくらい減少しているのでしょうか。1992年~2016年の24年間で解けた氷は、2500ギガトン。この水量は、日本の生活水約192年分にあたります。
今回調査に向かう第64次南極地域観測隊・樋口和生越冬隊長は、これからの研究は「過去も含めて“積み重ね”の調査が重要で、次につなげて生かしていくことがさらなる大発見に至るのではないか」といいます。

過去の環境・空気…歴史が詰まる南極の氷

では、南極の氷をどのように調査・研究していくのでしょうか。

南極は、大陸の上に氷が覆い被さっている状態です。平均的な氷の厚さは約2000m。もっとも分厚いところは約4900mにもなります。
南極の氷は、降り積もった雪が、長い年月をかけて押し固められてできています。過去の環境・空気が氷に保存されているということから、調べられているのです。
今回の第64次南極地域観測隊・伊村智隊長は「過去と現在の南極を知ることで、未来の予測につなげる」と話しています。

普通の氷は、水の中でできていき、空気に触れる面積があまりないので半透明です。対して南極の氷は大陸の上にどんどん積み重なっているものなので、空気をたくさん含み、真っ白です。この白い気泡が“過去の空気”になるので、これを調査することで、気温・海洋・宇宙など、当時の状況がわかるということです。
調査方法は、全長約12mのドリルで南極の氷床を掘削し、奥深い場所の氷を取り出すというもの。取り出した円柱状の氷が「アイスコア」と呼ばれるものです。

挑戦!100万年前のアイスコア掘削へ

日本が研究できる最も氷床の高いエリアは、「ドームふじ基地」。そこからドリルで掘り下げていき、「アイスコア」をとっていきます。今回目標となるのは、100万年前のアイスコアの掘削です。
2007年までの4シーズンで、72万年前までのアイスコアを掘削しています。一度に掘れる深さは平均2.8mという中で、その深さは3035mに達しました。今後6年間で、さらに深い100万年以上前までの掘削を目指す計画です。

それではこの調査で、具体的にはどんなことがわかるのでしょうか。

フジテレビ記者 大塚隆広:
世界で最も古い氷を掘削する「オールデストアイスコア掘削計画」、100万年前の氷の掘削にチャレンジするということですが、南極の氷の中には過去の空気が閉じ込められているので、これは数十万年以上前の大気の情報を知ることができる非常に貴重なタイムカプセルと考えられています。
約100万年前に、地球が氷河期になったり温暖化したりという周期が、4万年周期から10万年周期に変わりました。しかしその理由はまだ解明されていません。その謎を読み解く鍵となる情報が、この100万年前の氷の中に閉じ込められているはずなのです

様々な職種で構成される「南極地域観測隊」

今回南極に行く第64次南極地域観測隊は総勢94人です。各分野のスペシャリストで構成されている「観測部門」と、エンジニア・調理師・医療従事者・建築士など、観測・研究を支える様々な職種の人で構成された「設営部門」の人々です。

フジテレビ記者 大塚隆広:
日本の観測隊は世界でも珍しくて、研究者とともに、設営を担当する土木や建設作業のプロたちも隊員の1人として参加しています。設営チームは新しい建物を建てるだけでなく、火星に近い環境とされる南極で、将来人類が宇宙に移住するための“宇宙でも住める建築の研究”も行っています。
最も必要なのは美容師で、隊員の中にはいません。1年以上南極にいれば髪が伸びてしまいます。そのために、美容師役の隊員をあらかじめ決めておいて、その隊員が事前に髪を切る練習をしておいてから、日本を出発するということも必要なのです

隊員同士でしか助け合えない…過酷な現場

地球の未来をかけた南極の研究。しかし、その研究はとても過酷です。命の危険と隣り合わせの中行われます。
晴れていれば、一面外は白く、空は青い。白夜ということもあり、非常に幻想的な光景が広がります。しかし一転、天候が悪くなりブリザードが起きると、数m先の視界は真っ白。すぐ目の前の人の姿が時折見えなくなるほどです。安全を確保するため、建物の間にはライフロープが張られていて、カラビナを付けてそれに沿って移動します。
当然現地には、警察官やレスキュー隊はいません。なので、隊員同士でしか助け合うことができません。自分の命を守るすべを身につけておかなければならないのです。

今回同行する大塚記者も、出発前に身を守る訓練を受けたといいます。

フジテレビ記者 大塚隆広:
2月下旬から5日間、長野県の湯の丸高原で、冬季総合訓練に参加しました。そこで、雪原でのテントの設営や、テント内で火を使った調理、コンパスを使って地図のルートを作っていくルート工作などの訓練をしました。
最も大変だったのが、ロープ投降訓練。氷の裂け目=クレバスに転落したときに必要となるもので、ロープの結び方が難しく、全体重を両腕で引っ張り上げなければならないので、あまり上手にできませんでした。過去に隊員がクレバスに転落してけがをしたり、雪上車が落ちる事故が起きたりしています

いよいよ11月11日に出発する南極地域観測隊。南極での研究で、温暖化のメカニズム解明など地球の未来につながる発見が期待されます。

(めざまし8「わかるまで解説」11月10日放送)