観光需要が急激に回復する中、宿泊施設などでは繁忙期の人手不足に悩む声が多く聞かれる。コロナ禍で減ってしまった人材が、元の水準に戻る見通しもなかなか立たないのが現状だ。

こうした中、旅行者が、旅を楽しみながら人手不足の現場を手伝うという新たな”カタチ“が、いま全国的に注目されている。このシステムを導入している富山県内の宿泊施設を取材した。

普通の旅とはちょっと違う「おてつたび」とは?

富山・朝日町。日本海の荒波で打ち上げられるヒスイが採取できることで知られる「ヒスイ海岸」。

大学生4年生(東京在住)佐宗玲音さん:
日本海はなかなか見ないので、新鮮ですね

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朝日町にひとりで旅行にやって来たのは、東京の大学生4年生、佐宗玲音さん。旅先に富山を選んだ理由は、ある目的があった。

大学生4年生(東京在住)佐宗玲音さん:
大学で地方自治・人口減少問題などを学ぶ中で、過疎地域(の様子)を見てみたいという思いがあって、そんな中で「おてつたび」で富山県の募集を見て

「おてつたび」で…?。

一方、こちらも同じく朝日町へのひとり旅。東京都でIT関連の会社を経営する長浜篤さん。朝日町の名物「たら汁」を堪能していた。

IT関連会社経営(東京在住)長浜篤さん:
おいしいですよ。なんでこれ知らなかったんだろう。ちょっと寒くなってきたので、魚を食べるついでに「おてつたび」を。「おてつたび」をすると宿代が浮く

こちらも「おてつたび」。そして「宿代が浮く」?どういうことなのだろうか。

人材不足の現場と「働きながら旅をしたい」という人をつなぐ

2人が宿泊しているのは、朝日町の山あいにある「ホテルおがわ」。夕方、部屋から出てきた2人が身に着けていたのは、ホテルのスタッフの制服。

ホテル従業員:
きょうから「おてつたび」スタッフさんとして、お手伝いしていただきます。長浜さんと佐宗さんです。よろしくお願いします

今回2人が選んだのは、普通の旅ではなく「おてつたび」。「お手伝い」と「旅」を掛け合わせた造語で、東京のベンチャー企業が2018年に立ち上げた人材マッチングサービスだ。

繁忙期の宿泊施設や農家など人材不足の現場と「働きながら旅をしたい」という人をつなぐもので、富山県内では5つの事業者が登録している。

受け入れ先が寝床を用意するため宿泊費は無料で、旅をする側は旅費を抑えることができ、空き時間には地域を巡るなど観光を楽しむこともできる。

今回、このホテルでは、3連休に合わせて求人を募集。仕事は夕食の準備や配膳などが中心。

ホテル従業員:
なるべく、こぼさないように…こぼすとベタベタしますので…あ!

大学生4年生(東京在住)佐宗玲音さん:
なかなか普段やらないことばかりなので難しいです

金曜から月曜の4日間であわせておよそ22時間の勤務になり、報酬は2万円ほどだが、参加者にとっては金額以上に得られるものがあるという。

IT関連会社経営(東京在住)長浜篤さん:
稼ぐというよりは、行った先の街が知りたいなとか。半分旅行で半分お手伝いというシフトを組んでくれるところが多いので、そこが魅力

大学生4年生(東京在住)佐宗玲音さん:
旅でも、たくさんのことを知ることができる。仕事の面でも学べることがたくさんある。わたしにとっては最高の制度(サービス)

宿側は「働き方改革」 運営全体を見直すきっかけに

一方、ホテル側にとって、雇い主としてのメリットは、人手不足の解消だけではないという。

ホテルおがわ 総務経理部・松原綾子さん:
今後の人材の募集のヒントを得たり、お客さまの集客につなげていけたらいいかなと

ホテルおがわでは、2022年春から「おてつたび」を導入し、これまでに訪れたスタッフは10代から60代の30人。

旅慣れた人も多いため、メニューや宿泊プラン、従業員の働き方についても意見を聞くなど、運営全体を見直すきっかけになっているという。

ホテルおがわ 総務経理部・松原綾子さん:
今後、やっぱり若いスタッフ(従業員)を受け入れていく中で、山の中の一軒宿はどう思うんだろう。率直な意見を聞きながら「働き方改革」で、宿として見直していく部分を見つけたい

「お手伝い」を通して生まれる新たな関わりは、参加者・事業者双方にとって大きな刺激になっている。

IT関連会社経営(東京在住)長浜篤さん:
普通の旅だったら、カニ食べたいから北陸行く、みたいなイメージ。カニ食べておしまい。でも「おてつたび」の場合は、カニの周辺の街とか、今まで見過ごしてたところが、働くことをきっかけに知ることができる。その街に住む人の働き方や気持ち、悩みなども見えてくる。それが(普通の旅とは)ちょっと違う

ホテルおがわ 総務経理部・松原綾子さん:
「おてつたび」を通じて、この温泉、地元の朝日町、そして富山県のファンを増やして、よりたくさんのお客さまにお越しいただければと

観光需要が戻ってきてはいるというものの、コロナ禍で減ってしまった人材をすぐに元の水準に戻せるのか見通しを立てるのも難しい状況で、とても興味深いカタチ。

新たな旅のカタチは、人手不足の解消だけではなく、観光名所が少ない地域にも人が訪れる。その仕組みづくりのヒントになりそうだ。

(富山テレビ)

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