米司法省がフリン元補佐官の起訴取り下げ

新型コロナウイルス対策に忙殺されているはずの米国政界で、また「ロシア疑惑」をめぐる連邦捜査局(FBI)の問題が浮上してきた。

この問題の象徴的な存在だったマイケル・フリン元安全保障担当補佐官について、米司法省が7日起訴を取り下げると発表した。

同元補佐官は、就任前に駐米ロシア大使とロシアに対する制裁問題について話し合ったことが「民間人の外交交渉を禁じた」ローガン法に違反し、その事実をFBIの取り調べで認めなかったことで「虚偽証言の罪」に問われ起訴された。

フリン元補佐官は当初嘘の供述をしたことを認めていたが、その後FBIの取り調べに問題があったと弁護士を替えて無罪を主張していた。

起訴取り下げの理由

今回の起訴取り下げについて司法省はその理由を次のように発表している。
「最近になって発見され新たな情報を含めてこの事案の事実と状況を再検証した結果、フリン氏の(虚偽発言をしたという)供述はFBIの捜査の証拠とはなり得ないことを示している」

その新事実というのが、先月連邦判事によって公開されたFBIの内部文書で、フリン元補佐官の捜査をどう展開すべきか議論した幹部たちの記録で、その中には次のような発言もあった。

「面談にあたって(元補佐官に)これが虚偽発言を処罰する連邦法1001条に関わるものであることを予告すべきだろうか。(中略)もし予告しないので良ければ会話をさりげなく展開できるのだが、勿論それは連邦法違反になるが・・・」

(gov.uscourts.dcd.191592.188.0_8.pdfより)
(gov.uscourts.dcd.191592.188.0_8.pdfより)
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「この捜査の目的は何なのだ?真実の追求か、或いは彼に嘘をつかせて訴追したり(ホワイトハウスを)クビになるよう仕向けることなのか?」

連邦判事によって公開されたFBIの内部文書(gov.uscourts.dcd.191592.188.0_8.pdf)
連邦判事によって公開されたFBIの内部文書(gov.uscourts.dcd.191592.188.0_8.pdf)

FBIが仕掛けた罠

つまり、FBIはトランプ政権中枢の補佐官の失脚をねらって罠を仕掛けたと思えるのだが、フリン元補佐官の弁護士のシドニー・パウエルさんは起訴取り下げ決定後、FOXニュースに次のように話している。

「FBIの捜査官たちは、フリン氏が捜査の対象になっていて彼らに嘘をつくことが連邦法に違反することになると感づかないように企てたので、フリン氏は安心して無防備になり彼らの罠にはまったのです」

またパウエルさんは、こうも言った。
「このことはオバマ(前大統領)も知っていたのよ」

バラク・オバマ前大統領
バラク・オバマ前大統領

これは、司法省が起訴取り下げの際に発表資料に添付してあったFBIの内部捜査で明らかにされているもので、2017年1月5日トランプ大統領が就任する直前にホワイトハウスで行われた会合でFBIが次期政権でフリン氏が駐米ロシア大使と連絡を取っていたことを報告すると、オバマ大統領は「そのことなら知っているが、これ以上詮索するな。ホワイトハウスとしてフリンをどう扱うべきか考えなければならない」と言ったという。

司法省発表資料の添付文書より
司法省発表資料の添付文書より

フリン元補佐官への取り調べと起訴は、FBIの幹部がトランプ政権の失墜をねらった「ロシア疑惑」捜査の取っ掛かりのようなもので、当時のコミー長官ら幹部の関与についていま司法省で捜査が行われているが、共和党系のメディアはオバマ前大統領までが関わっていた可能性があると騒ぎ出している。

そうした中で、フリン元補佐官は嫌疑が晴れたもののこの三年間のFBIとの戦いで500万ドル(約5億5000万円)を使い、ワシントンの家も売り払ってしまったという。
これがもし罠だったとすれば、FBIも罪なことをしたものだ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。