自民党の佐藤正久外交部会長は28日、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」(日曜午前7時30分)に出演し、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、国連が機能しないことを前提に、新たな国際秩序をつくり西側諸国の主張を広げていく必要性を唱えた。

佐藤氏は「ロシアは相手が嫌がることをやる天才だ。国連はあまり機能しないという前提でウクライナ侵略をどういう形で決着に持って行くかを考えないといけない」と述べた。

その上で「日米同盟プラスQUAD(クアッド=日米豪印の枠組み)、あるいはNATO(北大西洋条約機構)との連携など、新たな価値観同盟、新たな国際秩序をつくって、自分たちの主張を広げていくしかない」と強調した。

番組コメンテーターの橋下徹氏(弁護士、元大阪府知事、元大阪市長)は、故安倍晋三元首相との間で国際情勢について話した時の内容を披露。安倍氏によると、首脳会談などの場で、ロシアのプーチン大統領はしばしば「コソボの独立」の話を持ち出し、欧米の首脳らの「二重基準」を批判するという。

欧米は、民族対立に端を発したコソボ紛争に介入し、主権国家セルビアからのコソボ独立を支援、国家として承認した。ロシア系住民救済という同様の目的に基づいた、ロシアによるウクライナ南部のクリミア半島併合や、同国東部の独立承認も正当化されるはずだ、という主張だ。

これに関し、欧米とロシアとの関係に詳しい東野篤子筑波大学教授は、プーチン氏の主張を真っ向否定した。

東野氏は「コソボ紛争は、国際社会や国連が長期間積極的に関与、交渉したがうまくいかず、結果として合意がまとまらずコソボの独立に至った」と説明。「プーチン氏は、これが『説得的でない』と言うのであれば、ロシアは国連安保理常任理事国としての資格はない。これだけ国連のシステムを使ってきちんと交渉したものが『説得的でない』と言うのなら、一体何が『説得的』なのか」と述べ、プーチン氏を批判した。

以下、番組での主なやりとり。


松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
佐藤さんは先ほど「ロシアは原発を盾にしている」とおっしゃったが、ロシアは原発を軍事拠点化して、そこから様々な攻撃をしているということか。

佐藤正久氏(自民党外交部会長、元外務副大臣):
ジュネーブ条約には、原子炉のような危ないところを攻撃してはいけないという規定がある。(戦争当事国は)互いに原発を盾にとるのもだめだし、原発を攻撃することもだめだ。原発を拠点として相手を攻撃することも、弾薬庫・補給庫的なものとして使うことも条約違反だ。ロシアは禁じ手を使っている。それよりもロシアの一番の狙いは、電力をウクライナ側に渡さないこと。ロシア化を目指すクリミアの方に電力を向け、自分たちでそれを使いたいという思いの方が強いではないか。
ロシアは相手が嫌がることをやる天才だ。国連があまり機能しないという前提で、我々は、このウクライナ侵略をどういう形で決着まで持って行くかということを考えないといけない。

松山キャスター:
膠着状態にあるウクライナでロシアが今後何をしようとしているのか。新しい動きが出ている。

梅津弥英子キャスター(フジテレビアナウンサー):
ウクライナの5つの州でロシアが住民投票を実施する方針を打ち出している。プーチン大統領は24日、これらの州に対し教育費の支援を指示した。6歳から18歳の子どもを持つ家庭に1万ルーブル、日本円でおよそ2万3,000円を支給するという。

橋下徹氏(弁護士、元大阪府知事、元大阪市長):
こういう形でロシアが住民投票を強行することは反対だ。ただ、ちょっと東野さんに伺いたい。安倍元首相から聞いた話だが、国際会議の場でプーチン大統領が西側諸国の首脳に迫ってくる時の一番の話題、テーマは「コソボの独立」だそうだ。とにかくプーチン大統領は「コソボ独立」の話を持ち出してくるという。その際、西側諸国首脳は皆明確に答えられないと。
武力によって解決をする戦争に僕は絶対反対だ。政治は言葉で対抗していかなければならない。要は相手が論理で来たときにはきちんと論理で返すというものを西側諸国は持っておかないといけない。セルビア国内のアルバニア人が迫害を受けたという事情があるにせよ、主権国家セルビアの一部地域コソボの独立を西側諸国は承認した。もちろんセルビアとロシアは反対している。主権国家から一部地域を独立させて国家承認することはいいのかどうか。日本も含め欧米はコソボ独立を認めている。であれば、プーチン大統領が同じ理屈でウクライナ国内のロシア民族を守るために一部地域を独立させるのだ、という論理で迫ってこられたら、西側諸国はどう対抗したらいいのか。

東野篤子氏(筑波大学教授):
その安倍元首相とプーチン大統領のエピソードは非常に興味深い。プーチン大統領としては、西側は「説得的な論理を示すことができていない」ということなのだろう。おそらく説得的な論理を展開したところで、プーチン氏の耳に届いていない。「説得的」というのは国際社会や国連の関与だ。コソボの独立は2002年に国連が準備会合を立ち上げ、地位交渉の準備のために非常に長い時間をかけて双方に聞き取り調査をし、長い長い時間をかけて準備をした。そして2005年から7年まで2年間、国連が仲介して交渉したけれどもうまくいかなかった。2007年に米国とロシア、EU(欧州連合)が入って交渉して、これもうまくいかなかった。全ての手を尽くしたけれども合意できず、結果として2008年に独立に至った。プーチン氏が、これが説得的でないというのだったら、やはりロシアは国連安保理常任理事国としての資格はない。これだけ国連のシステムを使ってきちんと交渉したものが説得的でないと言うのなら、一体何が説得的なのかと言いたい。

橋下氏:
今の戦後秩序では、五大国の同意がなければ物事を動かせない。国連がどれだけ介入しようがなんであろうが、ロシアが認めないならものごとは動かない。仮に東野さんが言うように、手順を踏んで、協議を踏んで、それでも解決ができない場合に独立を認めてもいいという話になれば、プーチン大統領はそれを使う。ウクライナ東部地域について、さまざまやろうとしたが、解決できなかったから独立させるんだ、という話になりかねない。仮にこの住民投票について、国連等が監視団を送ってきちんと行った場合、主権国家から住民投票で一部地域を独立させるというのは認めることができるのか。

佐藤氏:
昔のように、国連がお墨付きを付けるというのはもう馴染まない。冷戦後、米国が世界の警察官をやめるという時代になり、民族紛争、宗教紛争が出てきていて、これはもう多分それでは収まらない。コソボはアルバニア人という民族がコアになっている。ウクライナ南部や東部での住民投票も、ロシア化ということは裏返せば、ウクライナ人のアイデンティティをなくし、ロシアに同化させるというのが目的だ。それを国連が認めても認めなくてもやろうとしてるのがロシアだ。新たな価値観を持った国々で、新たな価値観同盟ではないが、新たな国際秩序をつくるという方向に徐々に舵が切られている。
            
橋下氏:
佐藤さんはコソボの独立を認めるのか。日本政府は認めている。コソボ独立については、賛成国が110ぐらいで、反対している国は80ぐらいある。我々西側諸国、日本も米国もセルビアの中の一部の独立を認めている。繰り返しになるが、プーチン大統領から「西側だって一部地域の独立を認めているではないか」と言われとき、佐藤さんならどう反応するか。

佐藤氏:
反論しても多分平行線のままだろう。こういう理屈で様々な手順を踏んで、国連も認めたといっても、プーチン氏は認めない。今後、同じようにウクライナについてプーチン氏は正当な手続きでやったと。これは、ロシアよりもヘルソン共和国やドネツク共和国の主権の問題だと彼らは言うだろう。平行線のままだ。でも、そういう時代なんだ。そういう中でいかに同じような価値観を持つ仲間がグループを広げていくかだ。国連は国連としてあるが、日米同盟プラスQUAD、あるいはNATOの連携とか、そういう新たな国際秩序をつくり、自分たちの主張を広げていくしかない。

日曜報道THE PRIME
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