全土で雨不足「危機的状況」 熱波直撃もエアコンなし…

フランスでは、この夏、ほとんど雨が降っていない。2021年7月の降雨量が90.8ミリだったのに対し、2022年7月の降雨量はわずか9.7ミリ。乾燥した状態の中、各地で大規模な山火事が発生し、東京ドームの1万2800倍ほどの広さの6万ヘクタール以上が焼けた。(2022年1月~8月20日)さらに、南部では、ひまわりと大豆の収穫量が最大70%減ると予想されるほど、農業は大きな被害を受けているほか、一部の自治体では飲料水が不足している。

政府は8月、緊急の対策チームを立ち上げた。ほぼ全ての地域を「危機的状況」と分類し、洗車や芝生の水やりなどに制限を設けるなど、雨不足は深刻だ。

水不足の深刻度を表した地図(フランス政府HPより)
水不足の深刻度を表した地図(フランス政府HPより)
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苦しめられているのは、雨不足だけではない。熱波が市民生活を直撃している。7月にはパリ市内で42.6度を記録するなど、この夏、3回にわたり熱波が押し寄せた。

セーヌ川沿いで日光浴する人たち
セーヌ川沿いで日光浴する人たち

日本では、家で冷房を付けたり、外出中は涼むためにコンビニなどに立ち寄ることも出来るが、フランスではそうはいかない。というのも、冷房の普及率が低く、4世帯のうち3世帯は、自宅に冷房がないのだ。

私の自宅も、その“3世帯”のひとつだ。家を決める際は、窓を開けて換気をすればどうにか暑さはしのげるとも思っていたが、甘かった。石造りの建物のため、いったん熱がこもるとサウナのような状態になる。暑さから避難しようとカフェに行ったが、そこにも冷房はなく、結局、自宅で凍らせたタオルを首に巻くなどして、気温が下がるのを待つしかなかった。

シンプルな方法で暑さを乗り切る

一体、パリの人たちは、うだるような暑さを冷房無しでどのようにやり過ごしているのだろうか。街ゆく人に聞いてみた。

パリ市民「日中は雨戸を閉めます」
パリ市民「日中は雨戸を閉めます」

パリ市民:
ことしは例年より暑いですよね。日光浴を楽しもうにも、なかなか大変です。家では、(熱がこもらないように)日中は雨戸を閉めています。

パリ市民「冷水シャワーを浴びます」
パリ市民「冷水シャワーを浴びます」

パリ市民:
基本が大事です。日中に水のシャワーを浴びるようにしています。それから、体力をできるだけ使わないように過ごしています。

回答はとてもシンプルだった。その中で、すぐにでも実行できそうなものは3つだ。

まず1つ目は、家に外気を入れないこと。石造りの建物は、いったん熱がこもると、まるでサウナ状態だが、外気温が室温を超える前に雨戸を閉めると、比較的涼しい状態を保つことが出来る。たしかに、パリ市内では、日中にも関わらず、雨戸が閉められている部屋が多く見られる。部屋に日光を取り込めないが、暑いよりかはましだ。

ちなみに、地元メディアでは、夜に窓を開けた状態で寝て、その間に冷たい外気を取り込み、朝5時半に目覚ましをセットして雨戸を閉めるのが有効だと紹介されていた。睡眠を犠牲にしてまで……とも思うが、背に腹は代えられないのだろう。

外気を入れないために雨戸を閉めている部屋が多い
外気を入れないために雨戸を閉めている部屋が多い

2つ目の暑さを乗り切る方法が、冷水シャワーを浴びることだ。

外出中でシャワーを浴びられない場合は、「evian(エビアン)」などの”霧吹き”を使うのも有効だそうだ。日本では化粧水として利用されているが、フランスでは暑さ対策として、顔に吹きかけたり口に吹きかけて喉を潤すのに使われたりしている。

スーパーに並ぶ暑さ対策に有効な“霧吹き” 口に吹きかけて喉を潤す使い方も
スーパーに並ぶ暑さ対策に有効な“霧吹き” 口に吹きかけて喉を潤す使い方も

そして最後に、室内に洗濯物を干すことだ。打ち水と同様、気化熱を利用して室温を下げることができる。そもそも、パリの人たちは、街の景観を損ねたくないという理由で、洗濯物の外干しを嫌っている。家事の一環として洗濯物を室内に干すだけで簡単に暑さ対策ができるという、優れた対策だ。

フランス人流の暑さをしのぐ方法は分かったが、そもそもなぜ、彼らは冷房を設置しないのだろうか。

――40度を超える日が多くなってきたら、冷房の設置を検討しますか?

パリ市民:

いいえ。45度以上になっても、欲しくもありません。生態系に影響を与えるから、車でも冷房は付いてるけど使いません。

パリ市民:
冷房を付けると、二酸化炭素の排出で地球温暖化が進みますよね。一番簡単なのは、扇風機を使うことです。

パリ市民「冷房で地球温暖化が進みます」
パリ市民「冷房で地球温暖化が進みます」

彼らの考えに根強くあるのが、環境への配慮だ。冷房を使うと、それだけ電力を消費し、温室効果ガスが排出される。結果として、気温上昇に繋がるので、冷房への抵抗感が強いようだ。また、設置したくても、歴史ある石造りの建物では難しい。冷房のホースを通すための穴を壁にあけたり、室外機を外壁に取り付けたりすることが出来ないのだ。

セーヌ川の水を利用した冷却システム

ここまで個人単位での対処法を紹介したが、パリ市も暑さ対策に取り組んでいる。そのひとつが、セーヌ川の水を利用した冷却システムの採用だ。

セーヌ川の水を冷却システムに活用
セーヌ川の水を冷却システムに活用

セーヌ川近くの工場で水を4度ほどに冷やし、パリ市内の地下に80km以上にわたり張り巡らせた送水管を通して、建物に送るというものだ。地元メディアによると、このシステムは従来の冷房よりも二酸化炭素の排出量を減らすことができ、今のところ、ルーブル美術館や百貨店などで利用されているという。さらに、2042年には供給範囲がパリ市内全域に拡大され、病院や学校、地下鉄の駅などでも、この冷却システムが使用されるそうだ。

パリ市はこのほかに、木陰のある公園など1100カ所以上の「涼める場所」を示した地図をインターネットで公開するなど、エコな方法で暑さを乗り切る方法を市民に提示している。

記録的な熱波に襲われてもなお、環境に配慮した方法での快適さを追求するフランス。今後もこの姿勢を維持することができるのか、注目したい。

【執筆:FNNパリ支局 森元愛】

森元愛
森元愛

疑問に感じたことはとことん掘り下げる。それで分かったことはみんなに共有したい。現場の空気感をありのまま飾らずに伝えていきます!
大阪生まれ、兵庫育ち。大学で上京するも、地元が好きで関西テレビに入社。情報番組ADを担当し、報道記者に。大阪府警記者クラブ、大阪司法記者クラブ、調査報道担当を経てFNNパリ特派員。