日本の感染の実態は不透明 入院・外来患者に抗体も

三密=密集・密接・密閉に代えて、「集・近・閉を避けよう」という言い方があるらしい。

最初に誰が思いついたのか寡聞にして知らぬが、非常に良く出来たブラック・ジョークと感心する。それに、密集・密接・密閉より簡明である。検索すると結構前からネットでは使われているようだが、考案者のセンスに感心する他ない。

何故こんな言い回しが生まれたのか、中国の指導部には胸に手を当てて考えて欲しいと思う。だが、この願いは無駄に終わる。残念である。

先日、筆者の友人から「(20代社会人の)子供が同期に週末飲み会に誘われたと言ったので、アルコールの販売は19時までだから昼間やるのかと尋ねたら、なんとエアビー(民泊の部屋の意)を借りて夜に集まる計画だとさ、呆れたよ。当然、子供は断ったけどね。」と聞かされた。

この計画が実行されなかったことを願うが、失業や収入減の心配をする必要のない大企業の若手社員達が抜け道を狙ってこんな良からぬことを企んでいたとは…情けないことだが、企業にはこういう面からも社員指導を徹底して欲しいと思う。

それにしても、新型コロナウイルスを巡っては今なお分からぬことが多過ぎる。これがウイルスそのものへの恐怖を増幅させ、経済的な不安が加わって、極めて大きなストレスになっている。

例えば、無症状感染者や軽症の感染者が相当数存在し、その人達から感染が広がっているのは間違いないようだが、どのくらい居るのかはっきりしない。その結果、本当の致死率や重症化率も分からない。

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ニューヨーク州の大規模検査では、NY市で約20%が抗体を持っていた、すなわち感染していたという結果があるようだし、東京では慶應大学病院の検査で、サンプル数は少ないが、一般入院患者の約6%が陽性だったという報告がある。5月2日には、神戸市民病院が1000人の外来患者を調べたら、約3%が抗体陽性であったと発表した。

この時点で仮の話をするのは乱暴かもしれないが、神戸市民病院の例を参考に3%の陽性患者がいると仮定すると、東京都の感染者数は40万人程度で、この場合の致死率は0.03~0.04%になる。さらに、NY市並みの20%近くが既に感染していると仮定すると、極めて大雑把に言って200数十万人が感染済みという計算になる。そして、この場合の致死率は0.01%をかなり下回る。

しかし、4日現在の東京の累計陽性患者数4654人に対する死亡者数150人で計算すると、3%を超える。そして、この計算の致死率は最近上昇している。

やはり日本では検査数が少な過ぎて、どれも信じるわけにいかない。専門家会議自体も言っているように、実行再生産数もあまり当てにならない。何を目安にしてリスクを評価すればよいのかわからないわけで、新型コロナウイルスが怖いのもさることながら、どれくらい怖いかすら分からないという怖さがさらに不安を掻き立てる。

PCR以外の方法も活用し検査対象拡大へ

それにつけても日本では、検査はいつまで経っても増えない。

困窮する企業や国民の救済策も素早く実行に移っているとは到底言えない。

新型コロナ禍に加え、緊急事態宣言の延長に伴う経済禍に対する悲鳴もますます大きくなってくる。そこでどうすれば検査数を増やせるのか?

ウイルス学が専門の増田道明教授(獨協医科大学)は、「今でも日本の新型コロナウイルス感染症の公的な窓口は“帰国者・接触者相談センター”という名称のままだが、既に経路不明な国内感染が多くを占めている。発想を変えて『新型コロナ相談センター』といったニュートラルな名称にして、体制も拡充して対応すべきだろう。今後、PCRに代わる簡易検査キット(インフルエンザのようにウイルス抗原を検出する検査)が実用化されるのは確実であり、こういった診断技術や既に開発済みの抗体検査なども活用して検査対象を広げれば、流行の広がりや重症化率、致死率をより正確に推定できるようになるだろう」という。

PCR検査は時間と手間が掛かり過ぎる。インフルエンザのようにその場で結果が出るような検査が、早くできるようになってくれればよいのにと素人ながら筆者も思う。

突然の容態悪化は「サイトカイン・ストーム」が原因?

また、この病気は、容態がある日突然悪化するだけでなく、呼吸障害の他、脳梗塞や心臓発作で亡くなる患者もいるらしい。恐ろしい限りだが、何故なのか我々にはよく分からない。

増田教授は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、感染したウイルスが体内で増殖する段階と、免疫系の暴走『サイトカイン・ストーム』が起こる段階の2つがあるようだ。サイトカインというのは、免疫細胞の数や機能を調節し、本来はウイルスなどから我々の体を守ってくれる免疫ホルモンのようなものである。しかし、これが過剰に産生されると免疫系の暴走、すなわち嵐(ストーム)が起こり、正常な細胞まで攻撃されてしまう。容態がある日突然悪化するのは、サイトカイン・ストームが起こり、急速に進行する場合があるからだ」という。

そして「患者の約8割は軽症とされ、中には39℃以上の高熱や筋肉痛など、辛い症状の人もいるようだが、1週間ほどで軽快していく。一方、15%ぐらいの人は肺炎症状がひどくなって呼吸困難になるなど重症化する。サイトカイン・ストームが起こり始めている可能性があるのだが、これが起こる人と起こらない人がいるのはなぜか、どういう人に起こりやすいのか、どうすれば防げるのか、残念ながらまだ分かっていない」という。

また、この新型ウイルスで脳梗塞や心筋梗塞が起きるケースがあることについては、「肺から血液に入ったウイルスの血管内皮細胞への感染や、サイトカイン・ストームによる炎症の影響などで、血管の内壁に血の塊(血栓)ができてしまい、この血栓が脳や心臓に飛んでいって細い血管に詰まると、脳梗塞や心筋梗塞を起こす。これは、肺炎が重篤化する前に起きることもあるようだ」という。

獨協医科大学の増田道明教授
獨協医科大学の増田道明教授

サイトカイン・ストームなる現象は、新型コロナ以前にはあまり話題になることがなかったと思うが、聞けば、その恐ろしさは明白である。

接触機会の8割削減も何となく理解をして我々は我慢を続けているが、何をもって8割というのか、実はよく分かっていない。また、いつまで続ければよいのか、経済活動を如何にして再開していくのがよいか、トンネルの出口がどこにあるのか分からない。

そして、今の流行が一旦収まっても、経済活動を再開させればいずれ次の波が来ると言われている。治療法が確立されてワクチンができるまで“集・近・閉”を避けながらひたすら耐えるとしても、その耐え方の明確な指針はない。

増田教授も、経済については専門外と断りながらも「活動レベルを少し上げて、様子を見る。そして、入院を要する重症者数の動向を見ながら、次の活動レベルを決めていく、といった試行錯誤を1~2週間単位で繰り返しながら、新たな生活様式を社会全体で考えていくことが必要になるのではないか」

「ただ、無症状の感染者が少なからずいるという新型コロナウイルスの性質を考えると、ウイルスが完全に無くなるまで活動再開は待つというのは現実的ではない」と言う。

集団免疫を得てもウイルス収束に至らない可能性

一方、ウイルスそのものついて考えてみても、起源が武漢であることは周知だし、人工的に作られたものでないことは、細菌兵器の専門家を始め世界の研究者がほぼ断じているのだが、それ以外ははっきりしない。最初、コウモリから直接ヒトに移ったのか、間に別の動物がいたのか、この異種間の感染が武漢の研究所で起きたのか、別の場所で起きたのか、本当はいつ頃だったのか、はっきりしない。

中国政府は調べているのだろうが、真相を世界が納得するような形で公表する気配はないし、WHOは調査に乗り出すようだが心許ない。トランプ政権が旗を振るだけでは、起源不詳のまま終わってしまう恐れも否めない。トンネルの入口も出口も見えないように思えるのが、このコロナ禍を一層辛いものにしているのである。

人類は最終的に集団免疫を得て、この危機を克服することになるのか?それとも当分苦しみ続けるのか?見通しを増田教授に尋ねた。

「最近、欧米や日本国内での抗体保有率に関する情報が少しずつ明らかになってきており、無症状の感染者が思いのほか多い可能性が示されている。その一方、抗体ができてからもウイルス感染が持続するケースも結構あるようで、集団免疫ができればウイルスが収束するということでもなさそうだ」

とすると、人類はインフルエンザと同じように未来永劫、このウイルスと付き合うことになる可能性が高いということになる。

しかしながら、「近いうちに迅速診断法が実用化されるのは確実であり、治療薬についても既存の薬の転用だけでなく、新型コロナウイルスを標的とする新薬が出てくる可能性もある。ワクチンについては容易に実用化できるか不明だが、開発の努力は進められている。こういった技術の進歩は、感染者の身体的苦痛だけでなく、多くの人の精神的苦痛や社会不安の軽減に役立つと期待される」という。

新型コロナウイルス治療に効果があると報告される抗インフルエンザ薬「アビガン」
新型コロナウイルス治療に効果があると報告される抗インフルエンザ薬「アビガン」

この新型ウイルス感染症が、滅多に死なない病気に早くなってくれることを願うばかりである。

それまでは腹を括って忍ぶしかないようだ。同時に政府の迅速な対応と、一層の経済支援を強く求めたい。

(フジテレビ報道局解説委員 二関吉郎)

二関吉郎
二関吉郎

生涯“一記者"がモットー
フジテレビ報道局解説委員。1989年ロンドン特派員としてベルリンの壁崩壊・湾岸戦争・ソビエト崩壊・中東和平合意等を取材。1999年ワシントン支局長として911テロ、アフガン戦争・イラク戦争に遭遇し取材にあたった。その後、フジテレビ報道局外信部長・社会部長などを歴任。東日本大震災では、取材部門を指揮した。 ヨーロッパ統括担当局長を経て現職。