全国公開中(2022年7月25日現在)の映画「こちらあみ子」は、広島市出身の芥川賞作家・今村夏子さんのデビュー小説を映画化したものだ。撮影は全て広島で行われたという。この映画に込めた思いを、森井勇佑監督に聞いた。
女の子の純粋な行動が、周囲を変えていく

(映画の一場面)
「応答せよ。応答せよ。こちらあみ子」

少し風変わりな女の子”あみ子”のあまりにも純粋な行動が、家族や周囲の人たちを否応なく変えていく様子を、鮮やかに描き出す物語。

広島市出身の芥川賞作家・今村夏子さんのデビュー小説が原作で、撮影は物語の舞台・広島ですべて行われた。
広島市内での先行上映会には森井勇佑監督、主演の大沢一菜(かな)さんらが登壇。

大沢一菜さん:
Q.ロケをして広島の好きなところは?
海もきれいだしごはんもおいしいし、あとおじいちゃんが住んでたりするから
Q.東京からきてどんなふうに過ごしていた?
暴れまくってましたね

森井勇佑 監督:
Q.主演の大沢さん中心の撮影現場?
完全にそうです。2~3回お芝居繰り返したら、あとはみんなで遊ぼうみたいな感じでしたね
映画を見た人からは、こんな感想が…
男性観客:
登場人物いろんな目線があって、みるたびに気づきがある気がする。繰り返し見たいです

女性観客:
皆さんの中にもあみ子がって監督も言われていたんですけど、本当、どこにでもいそうで自分の中にもいそうな、おもしろい映画だなって

今回の映画が、監督として初めての作品となった森井勇佑監督に、撮影場所になった広島市内の中学校で話を聞いた。
あみ子と自分が重なる「自分が真ん中には入れない、よそものの感覚」
衣笠アナ:
今回の映画を作ろうと思われたきっかけは?
森井監督:
小説がすごく好きで、これをいつか映画化したいなと思っていました

衣笠アナ:
小説を読んだ印象は?
森井監督:
まず、あみ子が自分だなと思ったことと、あと書きっぷりと言いますか、文章の感覚がすごくわかったというのがありました。自分の中にあるものとすごく似てるなと思ったので、それがすごく大事な体験になって、この体験を映画にしてもう一度出したいなと思ったのだと思います

衣笠アナ:
あみ子を自分と重ね合わせる部分が?
森井監督:
重ね合わせるところは結構ありましたね。よそものなところですかね。どこか自分が真ん中には入れないというか、世間の中ではよそものの感覚があるというのは思ってましたね。それが似てるのかな
原作となった今村夏子さんのデビュー小説「こちらあみ子」は2010年に発表された作品だ。

森井監督:
小説を読んだ時から映像で思い描いていたのかなと思います。かなり映像的な小説だと思ってはいたので。出来事が書き連ねられている小説だと思う。僕はそう思った。それは映画にした時に向いてるとは思っていました
主演の大沢一菜さんは演技経験ゼロ 監督「たたずまいに惹かれる」

そんな映画の中で、何といっても、圧倒的な存在感を放つのが主演の大沢一菜さん。これまで演技経験はなかったそうだが、森井監督は彼女のどんなところにひかれたのか。

森井監督:
たたずまいですかね。でも全部かな、目とか、しゃべり方とか、存在そのものみたいな感じがとてもいいなと思ったんですよね

衣笠アナ:
オーディションではどんなところを見て?
森井監督:
オーディションはトランプ一緒にしたりとか、どんな子なのかっていうことを見てる感じでした

衣笠アナ:
その脇を固めるのが、井浦新さんと尾野真千子さん
森井監督:
二人はお芝居と存在感に関しては間違いないと最初から思ってましたし、素晴らしいお芝居をしてもらったと思ってるんですけど、僕がびっくりしたのは、あみ子を中心にこの現場はまわっているということをすぐに察知してくれて。誰よりも二人が雰囲気づくりをしてくれたのは、ものすごく助かってたなと思っていますね
今回のインタビュー場所、広島市の二葉中学校も映画のロケ地になった。


森井監督:
裸足でペタペタ歩いてくるところを向こうから撮って。ここは廊下がすごく長いので、この長い廊下を撮りたいと思った。こんなにストンと抜けている廊下はなかなかないなと思って
メインの撮影場所は呉市 「あみ子がみている世界と調和」

撮影は広島市のほか、東広島市や安芸太田町でも行われたが、メインの撮影場所となったのは呉市の広小坪だ。

森井監督:
ちょっと角が丸いというか、角が丸くてちょっと不思議な感覚がある町だったので、すごく惹かれましたね。公園に続く階段とかがあるんですけど、ぐにゃぐにゃしてたりして、そういうところが、子ども、あみ子が見てる世界と調和するだろうなという風には思っていました

主人公・あみ子の純真無垢な世界の捉え方は、今の時代を生きる大人にとっても様々な気づきがありそうだ。
衣笠アナ:
この映画を通して伝えたいメッセージは、どういうところですか?
森井監督:
メッセージはないですね

衣笠アナ:
じゃあどんな風に感じられたらいいと?
森井監督:
自分の中にあみ子がいるということを、僕はすごく思って撮っていたので、それが伝わると嬉しいなとは思いますけどね
少女”あみ子”が教えてくれるもの。それは、私たちが「かつて見ていたはずの世界」と言えそうだ。
(テレビ新広島)