母親を殺害し、約3年間に渡って遺体を押し入れの中に放置した罪に問われた男。2022年6月に懲役6年の判決が言い渡された。男は10代から母親の介助をしていて、いわゆる「ヤングケアラー」だった。事件に至った経緯をまとめた。
我慢の限界に達したことは理解できるが…介護疲れとは認定されず

愛知県豊川市に住む無職で29歳の男は2018年、自宅で当時55歳の母親の首を両手で絞めて殺害し、2021年10月までの約3年間、遺体を衣装ケースに入れて押し入れの中に放置した殺人と死体遺棄の罪に問われていた。
男は、精神障害のある母親を10代の頃から介助するヤングケアラーだった。
検察側は懲役8年を求刑、弁護側は執行猶予のついた懲役3年を求めていたが、2022年6月17日、名古屋地裁岡崎支部は男に懲役6年の実刑判決を言い渡した。

判決を詳しくみると、殺害された母親は、過剰な発言や行動を起こして注目を集めようとする「演技性パーソナリティ障害」などの精神障害があり、リストカットや大量服薬などで救急要請を繰り返すなどしていたという。

母親は親族から絶縁されていて、被告の息子が頼りにできる唯一の身内として、高校生の頃から母親の介助をしていた。
しかし犯行までの約2週間、母親の暴言が頻発し、過度の睡眠不足になった上、「死ね」「産まなきゃよかった」などと言われたことから、突発的に殺害したという。
名古屋地裁岡崎支部は「我慢の限界に達したことは理解できる」としながらも…。

・強固な殺意があった
・遺体を3年以上放置した
・介護を常に必要とした状況ではなかった
・医師などの助けを借りて現状を改善する努力がなかった
以上の点などから、介護疲れを動機とする殺人の事案と同じ扱いはできないなどとして、懲役6年の判決を言い渡した。
ヤングケアラーだった女性「話して同情されるの嫌」

家事や家族の世話を日常的に担っている子供=「ヤングケアラー」について、問題に取り組む専門家や、実際にヤングケアラーを経験した人に課題を聞いた。

話を聞いたのは、ヤングケアラーの問題に取り組んでいる日本福祉大学の野尻紀恵教授と、実際にヤングケアラーと向き合っている半田市社会福祉協議会の前山憲一さん。

日本福祉大学 野尻紀恵 教授:
(ヤングケアラーは)介護を必要としているお年寄りが家にいて、介護をする人が子供しかいないとか、幼い子供たちがたくさんいて、その幼い子供たちを一番上の子がみているとか。何らかのケアが必要なご家族ために、子供たちの時間が奪われていたりとか、自由がなかったりという子供たち

子供が家族をケアするヤングケアラー。国が2021年に行った調査では、世話をしている家族がいると答えた中学生は5.7%で、約17人に1人にあたる。昔から潜在的に問題になっていたが、国や県による実態調査などで、2年ほど前にようやく認知され始めた。
実際に小学生のころから母の世話をしていた女性に、話を聞くことができた。
ヤングケアラーだった佐藤さん(仮名):
お母さんが精神的な病気を持っていて、徒歩でどこかに行っちゃう。携帯を持っていない・車の鍵がない状態でどこかに行っちゃう、警察に捕まる、補導される、みたいなことがあるので。お母さんが心配だからちょっと早めに帰って来たり、部活や学校をお休みしたりとか

佐藤さん(仮名)は4人家族で、母親に精神障害があり、仕事で家を空けることが多い父親のほか、2歳下の弟がいる。10歳ごろから17歳まで、母の世話をしていたヤングケアラーだったという。

佐藤さん(仮名):
なんで自分の家はこうなんだろうとか、なんで自分がやらないといけないんだろうとか、すごく悩んでいたこともありますね。全部の事情を知っている人はいないです。話したところで同情されるのも嫌だし
大変な思いをしてきた佐藤さんだが、周りには話せなかった。専門家は、こうした子供はかなり多いと話す。
日本福祉大学・野尻紀恵 教授:
自分にそういうことを押し付けている親が悪いと言われるんじゃないか、お母さんが批判されるんじゃないか、だから言えないって思っているような気がしてならないです
半田市社会福祉協議会・前山憲一さん:
助けてと言えないのは本人の責任ではなくて、助けてと言えないような空気とか社会を作ってしまっているこちら側の問題です

前山さんが所属する半田市社会福祉協議会では、ひとり親家庭を支援するため食料の寄付を行っている。その活動の中、ヤングケアラーの発見に繋がることも多いという。
日本福祉大学・野尻紀恵 教授:
「他に困ったことない?」と聞いてみると、実はヤングケアラーだったというのが見えてきたりするので。寄付があるおかげで、SOSを発信していた子供を見つけることができたというのは間違いなくある。1人にならずに、世の中捨てたもんじゃないから、ちゃんとあなたのことを応援してくれる人はいるから大丈夫だよということは、わかってもらえるといいかなと思います
(東海テレビ)