2015年拘束、3年間裁判開かれず国家転覆罪で懲役4年半

「(家族に)会って抱きしめあえて嬉しい。北京で家族と楽しみたい」
「世論の後押しもあって地元警察は、私を北京の自宅に戻すことを決めた」

こう語るのは人権派弁護士・王全璋さんだ。2015年7月、中国当局に一斉拘束された人権派弁護士の1人で、国家政権転覆罪で服役し出所したあとも新型コロナウイルス対策を理由に当局の監視下に置かれていた。王さんは4月27日夜、およそ5年ぶりに北京の自宅に戻り、妻や子供と再会した。

再会を果たした人権派弁護士・王全璋さんと妻子(2020年4月27日夜、北京にて)
再会を果たした人権派弁護士・王全璋さんと妻子(2020年4月27日夜、北京にて)
この記事の画像(9枚)

拘束される前、王さんは中国当局が「邪教」とする気功集団「法輪功」メンバーや地方政府による強制的な立ち退きの被害者などの弁護を行ってきた。こうした中で起きた人権派弁護士の一斉拘束事件。王さんの安否については当初、家族も分からず、およそ半年後に当局からの通知で拘束されていたことが判明した。初公判が行われたのは2018年12月で拘束から3年間以上にわたって裁判も開かれない状況が続いた。

拘束前の王全璋さんと妻子
拘束前の王全璋さんと妻子

その後、国家政権転覆罪で懲役4年6カ月の実刑判決を受けた王さんは山東省の刑務所で服役し、4月5日にようやく出所した。しかし、家族が待つ北京に戻ることは許されず、新型コロナウイルスの感染防止という名目で、過去に購入した山東省にある住宅で14日間の隔離を余儀なくされた。

それからおよそ2週間たった21日、FNNは拘束されて以降、メディアが接触することができなかった王さんに話を聞くことができた。テレビ電話の前に登場した王さんは拘束前の写真よりも若干痩せた印象で、拘束中の苦労がうかがえた。

出所からおよそ2週間、FNNの取材に応じる王全璋さん(2020年4月21日)
出所からおよそ2週間、FNNの取材に応じる王全璋さん(2020年4月21日)

まず出所について聞くと、王さんから出たのは「とても複雑だ」という言葉だった。やっと自由になれたという思いと、これまでの家族の苦労を知って申し訳ない気持ちがあるという。王さんの妻・李文足さんは王さんの長期拘束に抗議し頭を丸刈りにして釈放を訴えたが、当局から様々な妨害も受けた。

頭を丸刈りにして当局に抗議、王さんの妻・李文足さん(2019年1月)
頭を丸刈りにして当局に抗議、王さんの妻・李文足さん(2019年1月)

王さんの言葉からは家族に迷惑をかけたという複雑な思いが伝わってきた。さらに当局に拘束された当時の状況について聞くと、「今は話せない。もし間違ったことを話せば誰かに攻撃される」と慎重な姿勢を見せた。自らを長期拘束した当局への警戒感がにじむ。

出所後も新型コロナ感染防止理由に隔離、家族待つ北京に戻れず

「表面上は自由をもらったが、実際には制限されている」

王さんは出所後、新型コロナウイルスの感染防止という名目で、過去に購入した山東省にある住宅で14日間の隔離措置を強いられ、妻子が待つ北京の自宅に戻ることは許されなかった。事実上の「軟禁」とも言える措置で、隔離期間中は当局に携帯電話を没収されたという。王さんはその理由について、「(支援者らに向けて)何かメッセージを送っていると疑われた」と話す。

一方で、携帯電話を没収された王さんは当局の監視下で、午前と午後に1回ずつ家族に連絡するよう命じられたという。王さんから連絡がないと家族が心配して何かあったのではないかと騒ぐことを警戒した措置とみられる。また、出所直後というメディアから最も注目を集める時期に自由な発信は許さないという当局の強い意向と、王さんに注目が集まることへの警戒もうかがえる。さらに、隔離期間が終わった後も、王さんを待っていたのは当局の執拗なマークだった。

隔離期間を終えた王全璋さん(2020年4月、山東省にて)
隔離期間を終えた王全璋さん(2020年4月、山東省にて)

「隔離期間中は警備員が部屋の前にいたが、今は建物の下にいる」

隔離期間が終わっても、王さんのいた山東省の住宅には当局が手配したとみられる警備員が配置され当局の監視が続いていた。形の上では「自由の身」になったはずなのに、妻子のいる北京に戻ることさえ、許されなかった。

5年ぶりの帰宅、家族と感激の再会…今も残る不安

なぜ中国当局は王さんが北京に戻ることを許さなかったのか。王さんが当局にその理由を尋ねると、返ってきたのは「全人代があるから」という説明だった。中国の国会にあたる全人代=全国人民代表大会は予算案などを審議する重要な会議で、毎年3月に北京で開催される。

全人代(2019年3月)
全人代(2019年3月)

2020年は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて延期となっていたが、このほど5月22日の開催が決まった。新型コロナウイルスを「基本的に抑え込んだ」と主張する習近平指導部としては、早期に全人代を開催を通じて、感染症との戦いに勝ったとアピールしたいという思惑があるのは間違いない。また、全人代の開催期間は中国では敏感な時期とされ、中国当局は反体制の動きに神経を尖らせる。このため、北京にいる民主活動家などは半ば強制的に市外へ旅行に行かされるなど活動が大幅に制限される。当局としては国際的に注目を集める王さんが北京に戻ると政権批判の火種になると警戒したとみられる。

全人代での習近平国家主席ら(2019年3月)
全人代での習近平国家主席ら(2019年3月)

4月27日、王さんがおよそ5年ぶりに北京の自宅に戻り、家族との再会を果たしたという一報が入ってきた。早速、王さんと連絡を取ると、妻と息子との再会を果たしたことへの喜びの声と共に、再会が実現した経緯を語ってくれた。

王全璋さんと妻・李文足さん(2020年4月28日、北京の自宅にて)
王全璋さんと妻・李文足さん(2020年4月28日、北京の自宅にて)

実は王さんは前日の26日、妻の李さんが体調を崩したと聞き、北京に戻ろうと駅に向かったが当局に制止され、連れ戻された。しかし、その後も妻の李さんに会いたいと訴え続けたところ、当局からようやく許可され、山東省から車で北京の自宅に送られたという。

王さんは当局の対応について「世論の後押しもあって地元警察は私を北京の自宅に戻すことを決めた」との見方を示す。一方で、当局からは「取材を受けず、コメントもせず、家族を大切にしてほしい」と釘を刺されたという。「もし、当局の要求に従わなければまた連れ戻されるかもしれない」と不安を語る王さん。今後も王さんの動向には注目が集まりそうだ。

【執筆:FNN北京支局 木村大久】

木村 大久
木村 大久

フジテレビ政治部(防衛省担当)元FNN北京支局