企業の社会的責任が問われるようになって久しい。世の中にはさまざまな課題があるが、事業を通じてそれらに取り組んでいる企業も増えている。
そんな中、際立つ活動・発信をしているのが、住宅・不動産ポータルサイト「LIFULL HOME'S」の運営などを手がける株式会社LIFULL(ライフル)だ。
たとえば、直近の同社のテレビCMには、「しなきゃ、なんてない。」というメッセージのもとに日本最高齢のフィットネスインストラクターや、スウェーデン出身の落語家、同性カップルなど多様な方々が登場する。その姿は、見る人の価値観を揺さぶるだろう。
LIFULLは、「こうでなければ」という既成概念に丁寧な問いを投げかける。それは、人々の価値観をより広げていくきっかけになるかもしれない。このたび制作されたドキュメンタリーフィルムも、そうしたアクションの一環だという。
動画制作に関わった同社のクリエイティブ本部デザイン部コンテンツスタジオグループ・吉岡崇さんに話を聞いた。
エイジズム、ジェンダー、そして家族。問われるそれぞれの価値観

――ドキュメンタリーフィルムの制作を開始した背景について教えてください。
LIFULLは「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージに掲げ、あらゆる人が「自分らしく」生きられる社会を実現するためのアクションを起こしています。その活動の一つとして、2021年から社会課題に光を当てたドキュメンタリーフィルムを制作しています。
第1弾は「年齢の森」という映像で、エイジズム(=年齢に基づいたステレオタイプや、偏見、差別のこと)がテーマでした。人生100年時代といわれる昨今ですが、年齢や老いなどへの固定観念にとらわれずに、あらゆる人が「自分らしく」生きられる社会になればと願っています。
また、第2弾は「ホンネのヘヤ」というジェンダーをテーマにした映像をつくりました。出演者のホンネの対話を通して、一人ひとりが違うことを知り、人の間にある多様なグラデーションを受けとめることの大切さについて広く知っていただくことが制作の意図です。
年齢や性別にとらわれず、ラベリングするのではなく「その人のありのまま」を知ることの大切さをメッセージとして発信しています。
――第3弾のフィルムとして、家族をテーマにした「うちのはなし」も公開されました。この映像からは「こういった家族の形があるのか」と、たくさんの気づきが得られました。
――テーマとして家族を選んだ理由を教えてください。
コロナ禍になってから特に顕著になりましたが、近年、家族の間の関係性やあり方が多様化しています。しかし他方で、「家族ならこうあるべき」という価値観がそのまま残っている状況があります。
そのため、家族の中で「いかに自分らしく生きるか」ということに悩んでいる人が増えている。ここに、問いを投げかける必要があると感じました。
――家族に関する既成概念といえば、たとえば「家族たるもの一つ屋根の下で暮らすべき」といった考えがありますね。
仰る通りです。仮に家族間の関係が悪い人がいたとしたら、その人にとっては、「どんな状況であれ、家族とは一緒に住むべき」という価値観そのものが悩みの種になるかもしれません。動画「うちのはなし」は、そういった既成概念から視聴者が解き放たれるようなものにつくり上げたつもりです。
社会には本当にたくさんの家族の形があります。たとえば、円満に別居生活をされているご夫婦や他人同士がつながる拡張家族などが今回の映像に出てきますが、そういった多彩な家族のあり方を新たに知った上で、このフィルムが「家族との関係の中で自分らしく生きること」について考えていただくきっかけになれば嬉しいです。
日本人の家族観を調査して見えてきたもの

――「うちのはなし」をつくるにあたって、家族に関する調査を実施されていますね。調査で見えてきたことはありますか?
今回、LIFULLは、家族についてどう考えているかを2000人に聞きました。質問項目の中には、「あなたは、家族は必要だと思いますか」というものもありますが、これに対して約9割の人が「はい」と答えています。家族の形が多様化している現在でも、家族の大切さを感じている人が多いという結果は印象的でした。
ただ、家族に対する見方はいろいろです。一緒にいられることの喜びをかみしめている人や、感謝を抱いている人がいる一方で、家の中の人間関係に悩んでいる人、つながりの形を変えたいと願っている人も多くいました。「誰が家族かはその人自身が決めることだ」という声もありました。
また、「あなたは、あなたの家族を普通だと思いますか」という問いに対しては、約8割の人が「自分の家族は普通だ」と解答しています。もしかしたら、世の中がつくった「理想の家族像」と比較して「わが家は普通だ」と思ってしまっているのかもしれません。
しかし、寄せられた声を丹念に見ていくと、やはり本来は家族ごとに「あり方」や「つながり」が違っているということがわかります。それなのに、多くの人が自分の家族のユニークさに気づいていないのかもしれません。
――もしかしたら、「家族はこうあるべき」という価値観が強いために、そういったユニークさを自分で認められないという側面があるのかもしれません。
「多様な家族のありようを知ってほしい」
――今回のドキュメンタリーフィルムは、家族観の更新を迫るものなのでしょうか。
既成概念に縛られることなく、家族について自由に捉えていこうというメッセージは発信しています。ただし、既成概念に縛られること自体を悪いことだとはみなしません。「家族はこうあるべき」という考え方を大切にする、それも家族観の一つで、そう捉える自由は尊重されるべきです。
LIFULLが行っているのは、新たな家族観の正解を示すことではなく、問いかけです。一人ひとりが持っている価値観について、ふと立ち止まって思いをめぐらせてみてほしい。そんな再考を促すきっかけを生み出すアクションが起こせればと思っています。
――「うちのはなし」の制作をしている中で、印象に残っているエピソードはありますか?
今回の制作にあたり、東洋大学の西野理子教授に監修をしていただいたのですが、スタッフとの打ち合わせの際に、西野教授が「家族には定義がないのです」と仰っていたことが心に残っています。制作チームで議論をする時に、気をつけていたつもりですが、「家族って、こうだよね」といった先入観が入り込んでいたのです。
教授の言葉で無意識の思い込みを指摘された気がして、目からうろこが落ちました。これによって、「さまざまな家族の姿をありのままに受け止めて、描こう」という“目線合わせ”ができました。
――思い込みがリセットされたことで、「うちのはなし」が素晴らしいコンテンツに仕上がったのですね。最後に、動画を視聴する方にメッセージをお願いします。
この映像は正解を示すものではありません。動画には4つの家族が登場しますが、描かれている像が正解だという意味合いは込めていません。それぞれの家族には、それぞれの楽しみや喜び、そして悩みがあります。視聴してくださる方には、まずは多様な家族のありようを「知って」いただければ嬉しいです。
たとえば、映像の中に別居されているご夫婦が出てきます。そのご夫婦のあり方は、「家族たるもの一つ屋根の下で暮らすべき」という価値観からすれば、良いことには映らないかもしれません。ですが、当事者たちは長い時間をかけて、最適なスタイルとして「別居」という形を選んでいて、周囲もそれを温かく受け止めています。
家族をめぐるそういったつながりがあり得るという現実に思いを馳せてもらえたら幸いです。そして、その知見を活かして、ご自身とご家族の間での「自分らしさ」を見つめ直し、自分らしく生きる道を模索するきっかけにしていただけたらと思います。
エイジズムをテーマとした動画「年齢の森」
URL:https://www.youtube.com/watch?v=bggPwhNTuRM
ジェンダーをテーマとした動画「ホンネのヘヤ」
URL:https://www.youtube.com/watch?v=oY2Co-0u3IQ
※撮影時のみマスクを外しています。
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提供:株式会社LIFULL
制作:FNNプライムオンライン編集部