「SDGs」という言葉が浸透し、サステナブルな(自然環境や社会、経済を持続可能にする)取り組みが日本でも急速に広がっている。その活動を支援する仕組みや、インセンティブを与える税制なども充実してきた。そこで注目されているのが「税務」である。

「サステナブルと税務」というと、「どのような関係があるのか?」と疑問を持つ人もいるかもしれない。しかし、サステナビリティ経営を最適なものにするには、税制の利活用が欠かせない。

ここでは、日本の税務アドバイザリーサービスを提供しているEY 税理士法人のパートナー・関谷浩一さんと岡田力さんに、その理由について話を聞いた。

(聞き手:フジテレビ・清水俊宏)

企業の成長にとって大切な「税との適切なつき合い」

EY税理士法人のパートナー・関谷浩一さん(左)と岡田力さん(右)
この記事の画像(5枚)

清水俊宏(以下、清水):  お二人は税務のスペシャリストです。まずは、企業の成長と税の関係について教えてください。

関谷浩一さん(以下、関谷):そもそも経営にとって、税と適切に向き合うことはとても大切です。企業がお金を使う時に一つのインセンティブとして働くのが税金です。たとえば「税額控除」があります。一定の活動をしたら税金が安くなるという仕組みで、これはアメとムチでいうところの「アメ」ですね。一方で、「ムチ」の制度もあります。新たな投資や新規事業などにチャレンジしない企業にはインセンティブを与えないという仕組みもあります。企業には「優遇税制をうまく活用し、必要以上の税を払わない」という手段で税に応じてほしいと思います。それが自社の成長につながるからです。世界的に見ると、インセンティブを取った会社は手元にお金が残るので、それを次の投資や従業員の給与アップに回しています。国際競争に勝ち抜く上で、こうしたお金の使い方は大事です。

岡田力さん(以下、岡田):税金はマネージすべき、つまり管理・制御すべきというのが私たち専門家の一致している意見です。いわゆる「税務ガバナンス」をすべきだという話ですが、これは法人税だけでなく、関税や消費税といった間接税にも言えます。税務ガバナンスは、とてもではないですが片手間ではできません。たとえば、財務と経理は本来別のものですが、日本では「財経」とひとくくりにしている企業もあります。その部門が税の申告までしていたりする。一方、欧米の企業には間接税だけを担当する専門部署があったりします。そこでは付加価値税のディレクター、付加価値税のマネージャーなどが働いているわけです。

清水:驚きです。そのようなレベル感で税と向き合っている日系企業は、グローバル規模の会社でも少ないかもしれません。一概には言えないと思いますが、税金対策をきちんとしている企業としていない企業では、どれくらい差が出るものなのでしょうか。

関谷:仮に税金を差し引いた後に残る利益(=税引前利益)が1000億円の企業があったとします。日本のグローバル企業で税金対策があまりできていない会社は、おおまかに計算して約40%の税金を払っていますので、その規模でいうと約400億円の税金が引かれていることになります。一方、アメリカの企業の中には実効税率10%という水準に税を抑えている企業もあります。こちらは100億円の税金を払っていることになります。もちろん各国で状況が違うため単純な比較はできませんが、両者の差が300億円だとすると相当な違いです。

清水:その300億円を、それこそ投資や給与に回せたら素晴らしいですよね。

戦略的に税の対策を行っていくために必要なものとは

清水:日本のグローバル企業が税対策をするとしたら、やはり各国の状況に合わせて、各国ごとに税の専門家を配置することになるのでしょうか。

岡田:確かに、各国のタックスアドバイザーと契約する、または内製化する上で、それぞれの国の税制をよく知る専門家を配置していく必要はあります。ただ、それをパッチワーク的になし崩しで推進するのは得策ではありません。税を利活用する上で大切なのは、「大きなビジョンはありますか?」「将来の絵は描けていますか?」という点です。ビジョンをきちんと用意して、それに基づいて世界戦略の軸足をどこに置いて、各国のレポートをどう受けるかを考えるべきです。まずは「こういう成長がしたい」という目標、成長の中身を決めていくと良いでしょう。

清水:税の対策といえば、ともすると「こんなお得な税制があったのか」と気づいてから対応するという形が多いかもしれません。

岡田:そうなっては、税とはうまくつき合えません。あくまでも戦略的に対応すべきです。先ほどインセンティブの話が出ましたね。もちろん、近年話題のサステナブル、特にカーボンニュートラル(=温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きした合計をゼロにすること)の取り組みにも税のインセンティブがあります。その税務においても、まずは成長戦略の絵を描くことを先にしてほしいです。その絵の中に、「カーボンはこれくらい減らしたい」と決めていくのです。目標を決定したら、それに合わせて、身銭を切ってカーボンを減らすのか、各国の制度を活かして減らすのか等の戦略を立てます。そして、戦略に最適な形で各国の専門家の配置していく。このステップを踏むことができれば、インセンティブもうまく得られ、企業も成長できるようになります。

関谷:昨今、新聞等でも報道されていますが、「BEPS(税源浸食と利益移転)」という税に関わる活動が進んでいます。これは、世界中の税務当局が集まって、グローバル企業にどう税金をかけるかを相談し、新しいルールをつくるというものです。これからBEPSの内容が実行段階に入ってくると、企業は各国の税制の変化に「ローカル対応する」ということでは間に合わなくなってしまいます。グローバル企業には、BEPSなどの動きを注視し、本社が先導して全社的な戦略を立て、それぞれの国の支社と協力して対応するという姿勢が求められます。

サステナビリティ経営と税の関係を最適化することで開ける可能性

清水:サステナブルに関する税制についてですが、各国で違いはありますか?

岡田:欧州はやはり環境保全の意識が高いです。環境にやさしい取り組みをしている企業にはしっかりインセンティブを与える、つまり「アメ」の税制を機能させます。反対に、取り組みをしない企業に対しては「ムチ」の税制で応じます。他方、アジアは比較的「ムチ」の税制が少ない傾向にあります。

清水:税制があまり厳しくないとなると、アジアではたとえば「化石燃料をどんどん使って、たくさん生産してしまおう」という発想になってしまいそうです。

岡田:そうですよね。実際、温室効果ガスを出しながら大量生産を推進するという事態は起こっています。そうして生産されたアジア産のモノは、高い技術力を使って環境に配慮して生産されたヨーロッパ産のモノより基本的に「安い」わけです。両者が同じ市場に出てしまえば、後者は不利になってしまいます。それを防ぐために、欧州では、カーボンを排出してつくられたモノにプラスで税をかけて価格を調整する仕組みが2023年1月1日から導入される予定です。その対策のことを「EU Carbon Border Adjustment Mechanism:国境炭素調整メカニズム」と呼びます。

関谷:そうなると、世界的にみれば、サステナブルに関する税制は徐々に欧州に寄ってくることになります。なぜなら、欧州以外の国が欧州にモノを輸出しようとする時に、関税の上にさらに税がかかって、相対的に競争力が下がってしまうからです。こういった動向には注意していかなければなりません。

清水:そういった「変化」についてしっかり情報収集して、柔軟に対応した方が「メリット」が大きいといえますね。

関谷:サステナビリティで、またはカーボンニュートラルで社会は変わっていき、企業も変わっていかなければならない。それにも関わらず税金のことを検討せずに置き去りにしてしまえば、思わぬ事態が到来するかもしれません。それ以前に、税務にあまり手をかけないことは経営的にもったいないので、事業計画を立てる時には必ず税金についても検討していただければと思います。もちろん、税に関するナレッジや人的リソースが不十分な企業もあるでしょう。そういった場合には、弊社にいるようなアドバイザーを上手に使ってください。

清水:税についてしっかり検討することで得られるメリットには具体的にどのようなものがありますか?

岡田:補助金やインセンティブが得られることはもちろんですが、国際的に見ると、やはり税制をうまく活用した方が持続的な成長が実現できるといえます。

関谷:税について丁寧に検討すれば、おのずと経営戦略もしっかりしてきます。また、コンプライアンスに反することのない適切な税務を実行することで社会的な信頼や従業員の満足度なども変わってきます。だからこそ、長い目で見た時に「税務ガバナンス」を確立していくことが大事です。ぜひ、チャレンジしていきましょう。  

本インタビューの関連記事はSankeiBizでもご覧いただけます。

【PR】
提供:EY Japan株式会社
制作:FNNプライムオンライン編集部
文:正木伸城