2億人の支持を受けて圧勝

イタリアのトリノで14日行われた第66回ユーロビジョン・ソング・コンテストでウクライナ代表のカルシ・オーケストラの『Stefania』が優勝した。2億人ともいわれる数十か国にまたがる視聴者の支持を受けての圧勝だった。

優勝したウクライナ代表「カルシ・オーケストラ」EBU/ CORINNE CUMMING
優勝したウクライナ代表「カルシ・オーケストラ」EBU/ CORINNE CUMMING
この記事の画像(11枚)

フォーク・ラップと称されるカルシの最大の特徴はウクライナ民謡的な要素と、ラップやヒップホップのミックスにある。

「カルシ・オーケストラ」EBU / CORINNE CUMMING
「カルシ・オーケストラ」EBU / CORINNE CUMMING

伝統装束を取り入れた衣装や哀愁を帯びた子守唄のリフレインと、パワフルなヒップホップダンスが強烈なコントラストを織りなし、優勝候補と目されていた。

EBU/SARAH LOUISE BENNETT
EBU/SARAH LOUISE BENNETT

一方でメンバーたちの心境は複雑だった。『Stefania』を引っ提げてウクライナ国内をツアー中にロシアによる侵攻が始まり、一時はコンテストへの出場すら危ぶまれた。

キーウ防衛のため戦闘に加わることを決意したメンバーが抜け、残されたメンバーはコンテスト出場のため期限付きの特別な出国許可が与えられた。(18~60歳の男性は徴兵対象として原則出国禁止)

EBU / CORINNE CUMMING
EBU / CORINNE CUMMING

「ステファニア」の歌詞:
ステファニア 母さん 母さん
草原は花咲き乱れているのに、母さんの髪はグレーに染まる
母さん子守唄を歌って やさしい言葉を聞かせてよ
必ず家路を見つけるよ 道がすべて破壊されたとしても

EBU / CORINNE CUMMING
EBU / CORINNE CUMMING

『Stefania』はフロントマンでラッパーのオレグ・プシュクさんが自分の母親をイメージして書いた一曲で、幼い時分に慈しんで育ててくれた母に思いを馳せる内容だが、戦争によって受け止めが一変、いまやすべてのウクライナの母、ひいては「母国ウクライナ」に捧げる歌として浸透。

戦争を意図せず書いた「必ず家路を見つけるよ 道がすべて破壊されたとしても」の歌詞などは奇しくも激しい破壊にさらされた母国の現状とウクライナ国民の覚悟を象徴するところとなった。

EBU / ANDRES PUTTING
EBU / ANDRES PUTTING

母に捧げた歌が国民の精神的支柱に

ユーロビジョン・ソング・コンテストは欧州放送連合(EBU)加盟放送局によって開催される毎年恒例の歌謡祭。各国の国内選考などを勝ち抜いた楽曲がその国の代表として参加し、ライブ演奏を見た審査員や視聴者の投票によって順位が決まる。

ユーロビジョン・ソング・コンテスト決勝 EBU / ANDRES PUTTING
ユーロビジョン・ソング・コンテスト決勝 EBU / ANDRES PUTTING

優勝国は次回コンテストのホスト国となることが決まっており、前回イタリアのロックバンド「マネスキン」が優勝したことから今年はトリノ市での開催となった。

「マネスキン」EBU/SARAH LOUISE BENNETT
「マネスキン」EBU/SARAH LOUISE BENNETT

また、本番前にウクライナ侵攻を受け、昨年は参加したロシアが除外されることとなり、今年は40か国が参加した。

過去には当コンテストからABBA、セリーヌ・ディオン、アイルランドのリヴァーダンスなどが国際的ステージへと飛躍するきっかけをつかんだ歴史がある。昨年優勝したマネスキンもその後欧米で大ブレークしているが、プシュクさんは記者会見で「(今後の活動について)いまはまったくわからない。ウクライナの人々が皆そうであるように、最後まで戦う」と語った。

EBU / ANDRES PUTTING
EBU / ANDRES PUTTING

規定ではステージを政治利用することは禁じられており、決勝での演奏直後、プシュクさんが「ウクライナのマリウポリを、アゾフスタリ製鉄所を今すぐ助けて!」と呼びかけたことをめぐり、問題視する声も上がったが、主催側は「呼びかけは政治的なものではなく、人道的なもの」と、最終結果に影響はないとした。

カルシの優勝により、来年のコンテストはウクライナで開催されることになるが、ゼレンスキー大統領は、「いつか解放されたマリウポリで開催したい」と、鼻息が荒い。

EBU/SARAH LOUISE BENNETT
EBU/SARAH LOUISE BENNETT

優勝決定後にリリースされたミュージックビデオはブチャなどで撮影され、戦火がくすぶるリアルな廃墟で子供を抱きかかえる女性兵士たちの姿に「母」のイメージが重なる。

プシュクさんは「『Stefania』は今や戦争のシンボルソングになったけど、この歌が勝利のシンボルソングになってほしい」としている。

ひとりの母に捧げた歌が国民の精神的支柱へと変貌を遂げようとしている。

ユーロビジョン決勝での演奏:
Kalush Orchestra - Stefania - LIVE - Ukraine 🇺🇦 - Grand Final - Eurovision 2022 - YouTube  

5/15公開されたミュージックビデオ:
Kalush Orchestra - Stefania (Official Video Eurovision 2022) - YouTube  

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。