工場が多く集まる、新潟市東区の山木戸(やまきど)地区。ここに、昭和の面影を色濃く残した元工場がある。地域の歴史を伝え、人をつなぐ拠点にしようと活動する人々を取材した。
金属・樹脂型に取って代わられた「木型」…祖父や父の取り組みを残したい

中をのぞくと、時を止めたかのように、使い古された道具や機械が置かれたままになっている。

この建物を管理する、荒川洋子さんに話をきいた。
荒川 洋子さん:
ここは父親が亡くなるまで、鋳造用の木型を作っていた工場

この工場は、2010年に病気で亡くなった荒川さんの父親が、エンジンやポンプなどで使われる部品の木型を製造していた場所だ。

荒川 洋子さん:
木型の仕事は、金属や樹脂型に変わってしまった。私は跡を継がなかったけれど、違う形で祖父や父の取り組みを紹介したい

荒川さんは、仕事を継ぐことはできなくても、工場として使われていた広い空間を地域に役立てたいと、2019年に『キガタヤ・プロジェクト』を発足させた。
荒川 洋子さん:
”キガタヤ”は、ものづくりの原点から地域づくりの原点になる場所にしたい

荒川さんの思いに賛同する人が月に一度集まり、工場の保存や利用方法、さらにはイベントの計画などを話し合っている。

キガタヤ・プロジェクト メンバー:
新潟市東区は工場と住宅が共存している
キガタヤ・プロジェクト メンバー:
産業遺産として、失われていくものを少しは残したい
「壊してしまうと二度と見られない」キガタヤを昔と今をつなぐ象徴に
キガタヤ・プロジェクトのメンバーの一人、八木憲行さん(74)。

キガタヤを紹介するパンフレットで使われている、キガタヤ周辺の絵地図は八木さんが描いたものだ。

八木さんは自宅のアトリエで、記憶に残る昭和の新潟市を絵にして、画集を出版している。
八木 憲行さん:
自分が子どもだったころの風景を見たい、という気持ちで描いている

この日、描いていたのも八木さんの記憶に残る風景だった。その場所に案内してもらうと…
八木憲行さん:
描いたのは醤油工場。今は解体されて駐車場になった。壊してしまうと、昔の建物は二度と見られなくなる。キガタヤは昔の工場がそのまま残っているので、見てほしい

八木さんが描いた絵地図を使ったキガタヤのパンフレットは、キガタヤを中心に、昭和20年代と今を比べられるようになっている。

キガタヤを“昔と今をつなぐ象徴”として拠点にするのがキガタヤ・プロジェクトの考えだ。
荒川 洋子さん:
過去と現在、そしてこれからのことをキガタヤ・プロジェクトで考える

木のぬくもりに包まれた工場が交流の場に 生まれる人とのつながり
キガタヤでは月に一度、建物を一般公開している。4月17日は『工場でお茶会』というイベントが開かれていた。
新型コロナウイルスの感染防止策として人数分の茶碗を用意し、昭和の工場には茶席が設けられた。

参加した人:
工場だけど、木の温もりがあって落ち着く。お茶もおいしかった
茶席には八木さんの姿もあった。
八木 憲行さん:
工場で飲むお茶は新鮮で、ひと味違う風味がした

かつて、ものづくりが行われていた工場。今は地域の歴史を物語り、人と人をつないでいる。
荒川洋子さん:
父はどんな思いで天国から見ているのかなと。喜んでくれていると思って活動している

工場が集まる場所で、時間が止まったままの古びた工場。
荒川洋子さん:
産業の街ならではの良さを色んな人に知ってもらいたい。そして、新潟に関心を持ってもらうきっかけになればいいなと思っている

地域を愛する人が知恵を出し合い、未来へ続く新しい時が刻まれ始めた。
(NST新潟総合テレビ)