皆さんは「学研の図鑑」シリーズを知っているだろうか。創刊は1970年で、動物や植物といった生き物の姿などを紹介してきたが、快挙を成し遂げた。

図鑑制作のために採集した昆虫が、カワゲラ目ホソカワゲラ科の新種だったという。この虫は学研にちなんで「ガッケンホソカワゲラ」と命名し、6月23日発売予定の図鑑「学研の図鑑LIVE 昆虫 新版」(2420円)にも掲載されることにもなった。

ガッケンホソカワゲラ(撮影:中峰空)
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※学名は「Perlomyia gakken (ペルロミュイア ガッケン)」。生き物の姿を伝えてきた図鑑が、新たな生き物を見つけるきっかけになったのは感慨深い。

ガッケンホソカワゲラってどんな昆虫?

では、このガッケンホソカワゲラとはどんな昆虫なのだろう。実際に見つけた中峰空さん(大阪・箕面公園昆虫館館長)、図鑑の担当編集者である牧野嘉文さんに、生態や発見の経緯を聞いた。


――ガッケンホソカワゲラとはどんな昆虫?

中峰さん:
体長が6ミリくらいの小さな昆虫です。見つかったのは成虫のみなので、想定も含まれますが、幼虫は河川の砂底のさらに下の深いところで有機物を食べていると思われます。春になると成虫となって地上に出てきますが、口は退化していてほぼ何も食べません。正確な寿命は分かりませんが、成虫は数日から1週間程度で死ぬと思われます。交尾をして一生を終えるような感じと思われます。

図鑑への掲載イメージ(※制作中の紙面につき、内容は変更する可能性がある)

――新種と判明した経緯や場所を教えて。

牧野さん:
図鑑に掲載される内容にバリエーションを出したいと思い、中峰さんには2020年の冬ごろから、カワゲラ科の幼虫と成虫の採集と写真撮影をお願いしていました。そうしたところ、2021年の春先に新種を見つけたというお話がありました。

中峰さん:
発見場所は鞍馬川(京都市)の上流域になります。環境としては、樹木は生い茂っているが開けていて、日差しが差すような明るいところでした。私の自宅が京都市内で、図鑑掲載用の昆虫を採集しにいったところ、石の上に見つけました。カワゲラは小さいので違いが分かりにくいのですが、採集したものを見て新種ではないかと思いました。


――どうして新種と思った?他の種類との違いは?

中峰さん:
昆虫は種類を交尾器(生殖器官)の違いで調べることが多いのですが、今回はオスの交尾器、腹端の周辺が特徴的でした。腹端にある肛上板が細長く先端が鉤針状になっていました。ただ、顕微鏡で見なければ分からないくらいです。一般的なカワゲラの交尾器を示すのは困難です。


――ガッケンホソカワゲラが生息する環境は?

中峰さん:

カワゲラの仲間は川の上流で水のきれいなところ、山間に多く分布しています。ガッケンホソカワゲラが含まれるハルホソカワゲラ属は、地域としては北東アジアと北米でよくみられ、特に北東アジアに集中しています。ガッケンホソカワゲラは、近畿地方の北部一帯には分布していると思われます。


――飼育したりすることはできるの?

中峰さん:

ケースに入れて見ることはできるでしょうが、一般的な人が飼育しても面白くはないと思います。

命名の理由と子どもたちに伝えたいこと

――昆虫はどのようにして新種が認められるの?

中峰さん:
新種の認定や命名の流れは決まっています。順序としては、既に命名されている仲間の種類を調べて、発見した昆虫がどう違うかの論文を書きます。続いて、査読(専門家が論文内容を査定すること)をしてくれる媒体に投稿し、新種と認められると名前がついて公表されるという流れです。通常は紙の出版物に記載・記述されることで確定されますが、今はオンラインでの登録システムもあります。


――ガッケンホソカワゲラと命名したのはなぜ?

中峰さん:
名前は図鑑制作に関わる人たちで話し合い、決めました。命名の理由ですが、僕らの年代で昆虫研究に携わっているのは学研の図鑑を見て育った人が多かったこと。カワゲラとガッケンは「カ」や「ケ」が重なって語感が合うこともあり、ガッケンを名前に付けていいのではと思いました。なにより、わかりやすいですよね。

牧野さん:
図鑑は子どもたちが多く読まれると思うのですが、新しい虫を見つけると名前が付けられるという事実を知ってもらえればと思いました。また、カワゲラはきれいな川にしかすまないというので、私たちの会社のイメージもそこにつながってくれればと思いました。

新種に名前が付くことを子どもたちに知ってもらいたいという(画像はイメージ)

――今回と同じように、図鑑の制作で新種を見つけたことはある?

牧野さん:

いや、聞いたことがないですね。(通常の)学習図鑑だと、同定された昆虫を掲載するのが普通ですが、今回は掲載する昆虫をすべて採集し撮り下ろしています。 (ガッケンホソカワゲラも)せっかく採集したのだから、命名していいのでは?となりました。


――今回の図鑑について伝えたいことはある?

牧野さん:
昆虫の図鑑は通常、乾燥標本の写真を掲載しますが、今回の図鑑では約2800種を生きた虫の状態で写真撮影して掲載しています。前代未聞の取り組みなのですが、そこで新種の発見と命名をすることができました。子どもたちに夢を与えることができればと思います。

ガッケンホソカワゲラが掲載される「学研の図鑑LIVE 昆虫 新版 DVDつき」

ガッケンホソカワゲラの発見もあり、図鑑は多くの予約注文がきているという。また、中峰さんと牧野さんによると、今回の採集ではチャタテムシの新種と思われるものも見つかったとのことだ。こちらの扱いはまだ未定だが、新種と認められれば近いうちに発表されるかもしれない。

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。

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